虚飾に彩る舞踏の影で「ほら、顔を上げて。心配しなくとも、誰も賢者様だって分からないさ。」
「うう、そうは言ってもですね…。」
西の国の、とある貴族の屋敷にて。煌びやかな装飾と派手な衣装に包まれた人々が織りなす喧騒の中、晶はしどろもどろになりながらも、精一杯背筋を伸ばしていた。
そばで付き添うフィガロは、実に慣れた仕草で晶をエスコートする。周囲にたむろするのは、上流階級の人々ばかり。給仕に勤しむ執事やメイドの会釈に、動揺しないよう軽く頷くのが精一杯だった。
二人はクロエ渾身の力作である、上品なタキシードに身を包んでいた。一般庶民である晶はどうしても礼儀作法に遅れをとるだろうが、外見だけは場に溶け込めていると信じたい。
どうしてこの場に馳せ参じたかと言うと――話は数日前に遡る。
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