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    まな@huuhuu08

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    まな@huuhuu08

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    フェイジュニ。研修期間のいつか。フェイスに告白されたジュニアの話です。

    おチビちゃんは告白したい【フェイジュニ】 それは唐突だった。
    「好きだよ、おチビちゃん」
     そういうことは、今からクラブに行ってくるとかなんだとか、そんな普通の会話の中で言うことではないと思う。
     なにを言われたのか咄嗟にはわからなくて、おれの口がぽかりと開く。問題の発言をした男は、おれのそんな顔をじっくりと眺めてから、ニヤニヤ笑って手を振った。
    「じゃ、俺、もう出るね。いってきまーす」
    「お、おう……? いってらっしゃい……?」
    「夜更かししたら、背が伸びないからね。おチビちゃんはいい子で寝てなよ」
    「お、おう……?」
    「アハ、いつもみたいに噛みついてこないんだ」
     こうして一人残されたおれは、脳内でクソDJの発言をくり返した。
     ……あ! あいつ、おれのことチビ扱いしやがった!
     じゃなくて。そこじゃなくて。
    「好き……? クソDJが、おれを……?」
     意味が飲み込めてまず最初に思ったのは、あいつまた怪しいチョコでも食ったのか? ということだった。次いで新手のからかいの可能性。喧嘩を売って……ってのは、今回は違うか。
     ぐるぐるとあらゆる可能性を考えて、そのたびに発言を映像つきで再生確認する。ふんわり赤くなっていた頬。僅かにうわずって震えていた声。口は笑みの形だったけど、目の色が真剣だった。あいつが本気のときの色。それがわかるくらいには、それなりの時間、一番近くでクソDJを見てきた。
     だからあれがサブスタンスに言わされたことでも、おれをからかっていたものでもなんでもないってことがわかってしまう。まじりっけなしの、クソDJの本音だと。
     だとしたら。
    「……あいつ、タイミング下手くそすぎねぇ?」
     なんで出かける間際に、いってきますのついでみたいに言うんだよ。もうちょっとこう、なんか、なんかあるだろうが。言いっぱなしにもほどがある。
     クソ、と悪態をつこうとしたのに、口元がふにゃふにゃで音にならなかった。バクバクと心臓が跳ねている。飛び上がって喜んでいるみたいに。
    「嬉しいのか、おれ……」
     クソDJに好きって言われて。
     あいつがおれのことを好きなのが、こんなにも。
     ようやく脳みそが心臓に追いつく。そうなるとたまらなくなった。だから、バフ、とベッドにダイブした。そのままゴロンゴロンと転がってみる。
     やべー。どうしよう。すっげー嬉しい。なんだかいつもの部屋の天井も壁も、なにもかもが輝いて見えるほど。
    「……寝れる気がしねー」
     身体中がもぞもぞしているようだった。早くこれをクソDJと共有したい。なのに、なんであいつはいねーんだよ。
     告白してきたのは、クソDJだ。そのはずなのに、おれのほうがいっぱい喜んでるっておかしくねーか。どうせあいつはいつも通りのあいつのまま、クラブで楽しんでいるのだろう。
     ちょっとだけ納得がいかないし、悔しい。けれど顔がにやけていると、そういう思考はすぐに散ってしまうみたいだ。
     とりあえず手を伸ばした先にあった枕をぎゅうぎゅう抱きしめる。クソDJの代わりみたいに。なんて自分の思考にどうしようもなく照れて、おれは飽きることなくベッドの上をゴロンゴロンと転がり回った。
     
     
    「あれ、おチビちゃん、まだ起きてたの?」
     寝ないと背が伸びないって言ったのに。
     帰宅後の第一声は、そんな失礼な発言だ。
     おれのほうはというと、内容をほとんど聞けていなかった。クソDJの声だ、と認識した途端、跳ね起きてしまったし、枕を後ろに隠してしまった。
    「なんで枕なんて隠すの?」
    「べ、べちゅに」
    「噛んでるし、声が裏返ってるけど」
    「寝てたからな」
    「いや、どう見ても起きてたでしょ。なに? ワルイことでもしてた?」
    「してねーよ!」
     枕をクソDJ代わりにしてたなんてバレたらどれだけからかわれるかわかったものではない。
     必死に否定するおれに向かって、クソDJが「どうだか」と笑いながら両腕を広げた。
    「はい」
    「? なんだよ?」
    「わかんない?」
     こっちこっち、と手招かれて、おれはわけがわからないままベッドから降りた。クソDJのもとまでの数歩を詰める間に、笑顔のクソDJが再び両腕を広げる。そしてそれをおれの背中に回して、おれをすっぽり腕の中に収めた。今のいままで、おれが枕にしていたみたいに。
    「ぴっ な、なんで」
     なんでおれが枕に抱きついてたって知ってるんだよ!
    「ちょ、暴れないでよ、危ないなぁ」
    「離せ! なに企んでやがる!」
    「企むって……。あのねぇ、おチビちゃん」
     暴れるおれを離さないまま、クソDJがやれやれとため息をついた。
    「企んでるとかじゃないから。恋人なら、これくらいするでしょ」
    「……ハァ?」
    「ただいま」
    「お、おう……? おかえり……?」
     ……。…………。…………。
    「いや、違うだろ 誰がだれの恋人だ」
    「うわっ、だから暴れないでってば」
     クソDJが迷惑そうに文句を言う。まるでおれが間違ってるような雰囲気だ。
     子どもをあやすようにポンポンと背中を叩かれて、ますます暴れたい気分になった。けれどそうするといつまでたってもこのこっぱずかしい体勢のままだし、話も進まない。ひとまず枕のことは気付いてないみたいでそれには安心しつつ、おれは仕方なしに再び動きを止める。そしてぐっとクソDJを見上げて睨んだ。
     クソDJがにやにや笑いながら「どうしたの?」って顔で首を傾げた。
     クソ、ご機嫌だな、こいつ!
    「……だから。誰が、だれの、こ……、恋人だっつーんだよ」
    「アハ、声ちっちゃいね」
    「う、うるせー」
    「声おっきいよ」
     何時だと思ってんの、と文句さえどこか楽しそうに、クソDJがおれの唇に人差し指をあてた。
    「そんなの、おチビちゃんが俺の、に決まってるでしょ」
    「ハ、ハァ 決まってねーよ! いつからそうなったんだよ! おれ、まだなんも言ってねーだろ!」
    「言ってないけど。……ねぇ?」
    「ねぇ、じゃねー!」
     おれは地団駄を踏みたくなった。クソDJに抱きしめられていて、行動制限されているからできないけれど。
    「ふぁっく! 勝手におれの返事を決めつけんな!」
    「ええー」
     なんでそこでクソDJが不満そうにするんだよ。
    「はぁ、仕方ないなぁ。おチビちゃんがどうしてもっていうなら、返事、聞いてあげる。おチビちゃんは俺のこと、どう思ってるの?」
    「……へ?」
    「言いたいんでしょ? どうぞ。言っていいよ」
     おれは穴があくほどまじまじとクソDJを見つめてしまった。
     クソDJはなに一つおかしなことは起きてないって態度をとっている。そして今にも鼻歌を歌い出しそうなほどご機嫌だった。ご機嫌ににやついている。
     ……おれがこいつに告白したんだっけ?
    「いや、違うだろ! おまえだろ! おれが言いたいんじゃなくて、おまえが聞きたいんだろ?」
    「俺? 俺は別に聞かなくてもいいよ」
    「なんでだよ 気になるだろ、ふつー!」
    「普通はそうかもしれないけど。……ねぇ?」
    「だから、ねぇ? じゃねーって言ってんだろ!」
    「そんなこと言われても。聞かなくてもわかるんだもん」
    「なんでわかるんだよ!」
    「むしろ、なんでわかんないと思うの? ……まあ、なんでもいいや。このままじゃ話が進まないから、早く言いなよ」
    「だからなんでさっきから偉そうなんだよ!」
     ワガママをきいてあげてる、みたいな態度をとりやがって。
     おれは再び地団駄を踏む。心の中で。いまだクソDJがおれを離さないから、暴れられないのだ。
    「おまえな、ちょっとは不安とかねーのかよ。……その、振られるとか、そういうの」
    「アハ、不安、不安。不安だから、早く言ってよ。ね、おチビちゃん。おチビちゃんは俺のこと、好きだよね?」
    「キィーッ! 質問、変わってるじゃねーか! その余裕ぶった聞き方がむかつくんだよ! おれが違うって答えたら、どーするつもりだ!」
    「さぁ、どうするだろうね? 気になるなら、言ってみたら?」
     言えるものならね。国宝級と評判の顔面には、そうデカデカと書いてあった。何様だ、こいつ。
     こうなったら、言うフリくらいしてやろうか。ぐぬぬと睨みながらそう考えれば、おれの頭の中を勝手に透かし見たクソDJが、にっこりと笑った。
    「でもその場合は、おチビちゃん、お仕置きされちゃうね。ウソつきな悪い子には、お仕置きだもんね」
     不穏な響きと怪しい笑顔に、おれの頬が引きつる。
    「……お、お仕置きって、なにするつもりだよ?」
    「知りたいなら、ウソついてみればいいんじゃない? それも楽しそうだから、俺はどっちでもいいよ」
     実際ウソであってるけど。だからってなんでウソだってクソDJにわかるんだよ。
     とは言えなかった。心を溶かしたようなマゼンタは変わらず楽しげに緩んでいて、なのにその色濃さからおれは目を逸らせなくなる。射貫かれたみたいに。
    「もう一回、聞いてあげるね。お仕置きでも、告白でも、おチビちゃんの好きな方を選んでいいよ」
     上から目線で、バグった二択をクソDJが差し出してくる。
     おれはまだなんにも答えてないのに、楽しくって仕方ないって顔が近づいた。カウントダウンみたいに。とっさに身を引こうとして、けれどがっちり腰に回された腕にそれを阻まれる。
     また一つカウントが進んだらしい。もう片方の手がおれの頬にぴたりと添えられた。だから顔を逸らすこともできない。逸らしたくない、っておれ自身が思ってるみたいに。
    「おチビちゃんは俺のこと、どう思ってるの?」
     質問がまっとうに戻る。おれはきゅっと唇を噛んだ。
     さっきみたいに調子に乗った「俺のことが好きなんだよね?」のままにしておいてくれたら、おれは頷くだけですんだのに。
     なのに意地悪い。絶対わざとだ。こいつならそれくらいする。
     なんだか急に恥ずかしくなってきた。心臓がバクバクと音を立てる。視界も潤んできた。たぶん、顔は真っ赤だ。熱が集まりすぎていることは、きっと添えられた手の平のせいでクソDJにバレバレだろう。
     なんでおれのほうが、こんな。こんな、おれから好きだっていうみたいに。クソDJが好きだって言ってきたはずなのに。
     もうだめだ。恥ずかしすぎて息をするのさえ無理。走ってこの場から逃げ出したい。
    「……あ、あのさ。聞かなくてもいいって、おまえ、言ってたよな? そういうわけで、おれ、もう寝」
    「逃がすわけないでしょ」
     耳元で囁かれて、ぞくっとした。ぞくぞくが背中を駆け抜けて、それが頭の先にも足先にも走る。
     けれどぶるっと全身が震えたのはそれが原因じゃない。
    「ぴっ」
     耳を甘噛みされたからだ。そこからびりびりと甘い痺れが走る。スパークみたいに。
     びりびりと走る甘いそれに、ぶわりと熱が上がった。息が乱れる。なんだこれ。なんだこれ。
     完全に混乱したおれの耳をはむはむと噛みながら発したクソDJの声が、さっきまでより数段甘い。
     こいつ、こんな声をまだ隠し持ってたのかよ。
    「おチビちゃんが言いたいって言ったんでしょ。早く言ってよ。今、言って。じゃないと、順番がおかしくなっちゃうよ」
    「順番、って……?」
    「今はまだ、おチビちゃんは俺の恋人じゃないんでしょ。それなのに恋人同士でするようなこと、先にしちゃダメじゃない?」
     だからほら、早く。
     耳に吹き込まれる声が、さらに甘くなる。もうドロドロだった。湿度を感じるだけでもだめなのに、耳たぶを噛まれて舐められるともっとだめだ。
     こんなのもう十分、順番おかしくなってるだろ!
    「あ、恋人同士でするようなことって言っても、おチビちゃんにはわかんないかな。どんなことか教えてあげようか? たとえば……」
    「いい、いい! 具体的に言わなくていい! いいから、とりあえずそこ噛むのやめろっ!」
    「はいはいっとー」
     クソDJが素直に応じる。珍しいけど、助かった。と思ったのは間違いだった。
     耳を噛まれて舐められるのも困るが、真正面から至近距離で見つめられるのは、もっと困る。それをおれは知る。
     こんな、心臓がぎゅうぎゅうに締め付けられるほど甘いまなざしで見つめられるなんて、想像もしてなかった。
     こいつ、こんな目も隠し持ってたのかよ。
     なんだろう。胸がいっぱいだった。爆発しそう。耐えられなくて、はく、と息を吐く。同じタイミングで同じことをクソDJもしたから、それが混ざり合った。
    「言ってくれる、おチビちゃん?」
     気がつけば、おれは口を開いていた。こいつの言うことを叶えてやりたいみたいに。それだけじゃないみたいに。
     だって、言わなきゃって思ったんだ。言わなければ、伝えなければ、胸の内側から溢れてくる感情が膨らんで爆発してしまいそうだったから。
     ……ああ、そうか。わかった。
     きっとクソDJも同じだったんだ。
     だからあんな唐突に、出かける間際のタイミング下手くそなときに言ったんだ。
     あの瞬間、溢れたのか。今のおれみたいに。
     それがわかったから、クソDJの胸元に手を添えた。つま先立ちをしたのは、少しでもこいつの心の内側みたいな虹彩に近づきたかったから。ただそれだけ。
    「おれ……、おれも……」
     おれがつま先立った以上に、距離が縮まった。クソDJが身をかがめたから。そして縮まる速度でマゼンタが隠れる。クソDJが目を伏せたから。
     それがわかっても、なんの予備動作かなんておれに判断できるわけなかった。
    「おれも、クソDJが……」
    「残念、時間切れだよ」
    「へ? ……ッ」
     唇にふわりと湿った温かなものが触れた。
     ふに、と柔らかく触れたそれが離れて、また触れた。怯えるように、慎重に確かめるように、ゆっくり優しく押し当てられていたそれが徐々に圧力を増していく。同時に離れる時間が短くなるから、息をする間がない。
    「ん……ッ、ん、ん……」
    「恋人同士がすること、先にしちゃったね……」
    「ふ、……ん、んぅ……」
    「順番、おかしくなっちゃったね……」
     何回目かのインターバルを利用して、クソDJが言った。おれの返答を邪魔されたことにおれが気付いたのは、おれのじゃない舌が自分の内側に入り込んでくるという未知の体験のせいで、立っているのも難しくなったあとのこと。
     おれの返事は聞かなくてもいいと言っていたはずのクソDJは、この後数日間、おれにしつこく返答を求めた。そして言わなければならない状況におれを追い込んだ。そのくせおれが言おうとしたタイミングで、このときと同じように恋人同士になってからすることをしてきて順番をバグらせ、おれの発言の邪魔をするのだから、おれが切れたのも当然だと思う。
     そして切れたおれに対して、クソDJの言い分がこうだ。
    「だって、はじめて俺に好きだって言おうとするおチビちゃん、真っ赤になってぷるぷる震えて、かわいいんだもん。何回も見たいって思って当然でしょ」
     知っていたけど、改めて思う。
     おれの恋人は、相当性格がおかしい。
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