子ども時代のリヴァエル 自由の翼保育園の年長さんクラスでは、五歳のリヴァイが落書き帳の新しいページに最近書けるようになった文字を一生懸命書いている。覚えたてのそれは、バランスが悪くほとんどが鏡文字になっているが、書いている本人はようやく書けるようになった文字に夢中だった。なぜならば、リヴァイは、同級生のエルヴィンに早く手紙を渡したかったからだ。
「なにかいてるの?」
たまたまおもちゃを取りに来たエルヴィンが、リヴァイの手元を覗き込んだ。突然現れたエルヴィンにリヴァイは驚き、とっさに書いていた紙を両手で急いでひっくり返した。
「なんでもないよ。みないで」
「えー、いいじゃん。みてせよ、リヴァイ」
「ダメだよ。エルヴィンにはまだないしょ」
エルヴィンは、リヴァイに相手にしてもらえなかったので、そのまま目的のオモチャを手に取ると向こうに行ってしまった。そして、次の日も、また次の日も、リヴァイは遊びの時間を使って納得いくまで手紙を書き、なんとかエルヴィンへの手紙を完成させた。その日、帰りの会が終わり自由遊びの時間になると、リヴァイは、手紙をこっそりとエルヴィンに手渡した。
「エルヴィン、これやるよ。よんでくれ」
「なあに?」
「てがみだ」
「てがみ?」
エルヴィンは一瞬不思議そうな顔をしたが、数日前からリヴァイが何かをずっと書いている姿を思い出し、笑顔で受け取った。
「あけてもいい?」
「だめだ。いえにかえったら、だれにもみつからないばしょで、ひとりでよめ」
「うん、わかった!リヴァイ、おてがみありがとう」
こうして、リヴァイは、ようやくエルヴィンに自分の手紙を渡すことができた。しかし、それから何日待っても、エルヴィンからリヴァイに手紙の返事が来ることも、エルヴィンから直接手紙に関する話をされることもなかった。リヴァイは、気になって気になって仕方なかったが、自分からエルヴィンにそのことを言い出せず、いつの間にか手紙を渡したこと自体を忘れて、卒園の日を迎えた。
そして、二人は、同じ小学校に入り、四年の月日が過ぎた。三学期の中盤に差し掛かったころ、リヴァイはクラスメイトとのおしゃべりの中で、隣のクラスのエルヴィンが転校してしまうことを知った。手紙を渡したことはすっかり忘れていたが、ゼロ歳の時から一緒にいる幼馴染がいなくなってしまうという事実にショックを受けた。そこで、三学期の修了式の日、リヴァイは勇気を振り絞って、エルヴィンに会いに行った。
「エルヴィン、転校するだって?」
「あぁ。親の都合で引っ越すことになったんだ」
「そうか。エルヴィン、大きくなったら必ず会いに行くから。俺のこと忘れないでくれよ」
「リヴァイ。長い付き合いだったね。本当は離れたくないけど……大人になったら必ず会おう。また一緒に遊ぼうね!」
「あと、これ、お前にやるよ。家に帰ったら、誰にも見つからない場所で一人で読め」
「あの時と同じだな」
「あの時?」
「覚えてないなら、気にするな。手紙ありがとう」
リヴァイは、エルヴィンが言いかけたことが少し気になったが、この時にはすっかり保育園時代の記憶が抜けていたため、あっけないほど簡単に別れの挨拶を終わらせてしまった。