Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ます〼

    @masu_dadandan

    よろしくおねがいします。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 64

    ます〼

    ☆quiet follow

    デリカシーの無い侑に訪れた、恐怖の朝の話。

    #侑日
    urgeDay

    GoodMorning 翔陽くんと喧嘩した。いや、喧嘩とも呼べないくらいの細やかなものだった。
     宮侑は日向翔陽と付き合っていて、付き合っているから当たり前のようにキスをする。そして、もちろんその後の行為もする。どこにでもいるような何の変哲もない恋人同士なので、何も不思議じゃない。ただ、一つ「普通」と違う所を上げるとすると、男同士、同性愛、と言うやつで、つまり何が言いたいかと言えば、その後の行為、所謂セックスはどちらかが本来あるべきポジションではない方をやらなければいけないということだ。
     愛があればどちらでも行けるはず。それは至極真っ当な意見であると思うし、正論だ。ただ、侑はここまで一度たりともそのポジションを変えようとはしなかった。自分のおっ勃ったナニを、恋人に受け入れてもらう。そこを譲ろうとはしなかった。愛はある。なんなら先に好きになったのは侑の方だ。好きで好きでどうしようもなくて、どうにかお付き合いまで持っていった過去の血の滲むような努力を思えば涙が出てくる。そんなわけで交際にいたり、なんやかんや誤魔化して処女を頂き、その後ものらりくらりと躱し続けて、侑は挿入するポジションを守り続けている。
     話を戻す。
     性別以外はどこにでもいるカップルなので、喧嘩もする。今現在がそうだ。理由は割合したい所だが、簡単に言えば侑にデリカシーが無かった。勿論侑本人はそれを言葉にするまで全く気づいていなかったし、むしろ褒めたつもりでもあった。
     いつも通り、やんわり始まった侑優位のセックスを終え、ふう、と枕に頭をあずけた恋人がいやに色っぽく、半開きの唇は運動後のせいかまるで口紅を塗ったように赤くぽってりと艶めいていて、伏せた瞼のキワでまつ毛が揺れたその様を見て、「翔陽くん最近女みたいやな」と言ったのだ。
     言い訳をさせてもらうなら、それはとにかく短縮に短縮を重ねた、謂わば独り言のような呟きだった。ショートカットせずに言うならば、かっこいいのは大前提で、昔からかわいくもありましたが、最近はまるで女性のように、あの楊貴妃と並んでも見劣りしない、ため息を付く程の色気を感じ、私の心は酷く揺さぶられ、居ても立っても居られません。と言った所だ。
     そもそも、何度でも言うが日向はかわいい。対する自分は身長も筋肉もゴリゴリで、抱かれるにはふさわしくない男っぷりだ。自分の喘ぎ声なんて、恥ずかしすぎて一生涯誰にも聞かせたくない。かわいいものにかわいいと言って何が悪い。いや、何も悪くない。ただ、好きを言葉にしただけだったのに。
     そんな、どうにも足りない侑に日向は一気に顔を険しくして、侑を睨みつけ、ベッドから、侑の部屋から、荒々しく出ていった。
     そんな怒らんでもええやん。と、そこまで口にしていたら、きっとこの険悪ムードはもう少し長引いたんだと思う。しかし呆気にとられたのが功を奏して、余計なことは言わずに済み、練習が忙しかったのもあり、バレーだけはちゃんとできたから何事もなく一週間が過ぎ、そうして休みを明日に控えた今日、日向からスマホにメッセージが届いた。今まさに練習場で斜め前にいる日向から、ちらりともこちらを見ないが向こうから連絡が来たのだ。
     夜、そっち行きます。飲みたい気分なんで、お酒持っていきますね。
     なんやねん仲直りしたかったんやんかわええなぁほんまに。侑は表情に気を使うこと無く、口角は上がるがままに、タタタッと返信を打ち込んだ。
     まってる。
     ジャカ助スタンプ。
     日向は返信を確認すると、やはり侑を見ずにスマホをポケットに入れた。

     侑はあまり酒が得意ではない。本人は否定しているが、缶チューハイ一本でふわふわできるタイプの人間だ。そんな侑に酒を持っていくと言った日向の思考回路はきっと、ちょっと気まずい。そんな所だろう。
     かわいいじゃないかと侑は練習を終え帰宅した部屋の掃除をしながら、やはりだらしない顔で恋人のいじらしさを思った。正直酒を飲むと勃ちも悪いし、自分の方が飲めないので楽しくはない。けれども、ここで飲まないわけには行かないだろう。仲直りの祝杯だ。
     そうこうしている内に、インターホンが鳴った。ハイハイと軽いステップで玄関に向かい、ガチャッ! と開けると日向がコンビニの袋を持って立っていた。少し俯くようにして、そして上目遣いで「オツカレサマデス」と呟く。
    「入って」
    「……おじゃまします」
     日向は勝手知ったるとばかりにさっさと入り込み、適当に片付けたラグの上に座って、近くのローテーブルに買ってきた酒やらツマミやらを並べだす。それを追うようにして侑も座り、「いくら?」と聞いたが、日向は「いらない」と首を振った。
     まずは、仲直りやな。そんな風に考えていた。ごめんね、俺もごめんね、なかおりしましょう。抱擁。そこから話は始まるものだとばかり思っていたが、日向は何も言わず、傍にあった缶チューハイをぷしっとあけた。そしてもう一本。
    「はい、侑さんの」
    「へ、ああ、ウン」
    「乾杯」
     促されるまま、缶をぶつけ合い、一口。
     僅かな困惑をその眉間にのせる侑に、日向がここに来て初めて笑った。困ったような、伺うような、まるでこれで許してくれる? なんて甘えるような。そんな笑みに、侑はこれ以上は野暮やなと、頷き、微笑み返し、そして夜が更けていった。

     ✦

    「ウッ」
     弱々しく目を開き、ぼやける天井はうすく溜った涙のせい。最悪の目覚めだ。吐き気と頭痛。飲みすぎた。
     日向に言われるがまま、開けられるがままに酒を飲み、自分の限界値を超え、このザマ。侑はサイアクやとボヤきながら隣を見た。せめて恋人の寝顔でも見て気を紛らわそうと思ったのだ。しかし、そこに日向はいなかった。
    「翔陽くん?」
     耳を澄ますと、微かにザーッと水が床を叩く音がする。シャワーを浴びているらしい。
     はて、走りにでもいったんだろうかと重い体を起こして、布団が体から滑り落ち、ぎょっとした。
    「は? ……は? え?」
     裸だった。だがセックスをした覚えはない。
     勢いよくベッド脇のゴミ箱を見た。そこにあるのは、口を結んだコンドーム。中には白っぽい液体がしっかり見える。明らかな使用済み。それが、2つ、いや3つある。
     次に己の下半身を見た。使用感の有無を確かめようと思ったのだが、綺麗にしてあってよくわからなかった。しかし、心無しかしゅんと垂れる愚息を見るその視界の端に、赤い点が見えて、顔を寄せる。太ももの内側に、鬱血痕。足の付根にも、なんならわき腹にも。随分お熱い夜だったらしい。なのに覚えていないなんて、残念極まりない事だ。
    「……」
     飲んだあとにセックスした。それだけだ。それだけのはずなのに、何故か釈然としない。
     侑はもう一度、ゴミ箱を見た。そして、決してもう二度と触りたくない類の使用済みコンドームを、指先で拾い上げる。
    「……俺のやない」
     ゾワゾワする違和感の正体の一つはこれだった。侑がいつも使っているLLサイズのゴムはもう少し乳白色だ。一気に恐ろしくなって、「わっ」と情けない声を出してゴムを投げ捨てた。
     今度は体中につけられたキスマークを見た。いつもの日向は受け入れるのにいっぱいいっぱいで、こんな事をする余裕なんてないように見える。その代わり、受けれてもらえるお礼に、侑は全身全霊で日向を愛すようにしている。1ミリも残さず気持ちよくなってもらうために頭も口も指も腰も余さず使い、見えない所を約束にキスマークをつける。そうだ、と侑は青ざめた。自分が、普段日向にキスマークをつける場所と全く一緒だった。
     頭が疑問符でいっぱいで、ベッドの上で狼狽える。そんなタイミングを狙ったかのように、寝室の扉があいた。
    「あれ、侑さん起きてたんですね」
    「あ、ああ、おはようさん」
    「おはようございます」
     肩からタオルをかけ、濡れた髪から雫を落とす日向はまさに風呂上がりといった様子で、そしてすばやく侑のそばに駆け寄った。
    「大丈夫ですか?」
     何が? と、言いたかったのに声が詰まった。しかし頭を振るうように「なにが」と絞り出す侑を、日向は心配そうに覗き込む。
    「だって……いや、その、腰とか」
    「こ、し……?」
    「昨日結構無理させちゃったから、体大丈夫かなって」
     無理? 無理て何? なんの話してんの?
     背中を嫌な汗が伝う。侑は一つの恐ろしい想像に、体を震わせた。いや、違う。まさか。そんなことは。
    「夢中になっちゃって……すみません。侑さんはハジメテなのに、3回も」
    「待って!!! まって、あかん、まってくれ。ちゃうよな? あれは俺が使ったゴムやんな? 俺は、」
    「何言ってるんですか? あのゴムは俺のですよ。侑さんのだとサイズ違うから、買ってきたんです。覚えてないんですか? えっちしたいけど勃たへんって言うから、俺が挿れましょうか? って言ったら侑さんウンて」
    「うそや!!! うそ、うそや……」
    「ふふ、可愛かったですよ。挿れられてる侑さん。まるで、」
    「しょ、しょうようくん、お願いやから、まっ……」
    「女の子みたいで」
     撃沈。
     二日酔いのきつさも吹っ飛ぶ衝撃に、侑はベッドへと倒れ込んだ。酷い。酷すぎる。百歩譲って抱かれる側に回ったとしてもそれは本意じゃない。それなのに女みたいなんて、好きな人の前ではずっとかっこよくありたいと願うのが男だろう。日向だって男なのだから、理解してくれてもいいはずだ。
     シーツの冷たさが、部屋に差し込む太陽の光が、何もかもが忌々しい。
     天井を見ながらぐす、と鼻をすすった侑を、日向はじっと見下ろして、そして「ふっ」と吹き出した。
    「ふ、ふふ、」
    「翔陽くん?」
     止まらなくなったのか、そのまま大笑いを始める日向を目を白黒させながら見つめた。
    「ちょ、なに」
    「嘘ですよ! 侑さんの馬鹿!」
    「ば……っ!」
    「馬鹿です。大馬鹿。わかりましたか! 俺の気持ち!」
     一頻り笑って、目尻に涙を溜めた日向は、楽しそうに侑をもう一度馬鹿と罵った。「ゴムの中身はコンディショナー! 侑さんの高いやつ使いました」と、鼻で笑う日向に、侑はまだ何も言うことができない。
     ゴムの中身はコンディショナー(俺の)。嘘。翔陽くんの気持ち。イコール、つまり、結論は。
     俺の尻は無事。
    「はあああ!? ふざッ……! 、いや、でも……! クソ、ッ!」
    俺の恐怖を返せ。そう言いたかったが、そもそも悪いことをしたのはどちらか、と言うことを、侑は身に沁みて感じてしまった。どう考えても俺が悪い。あの発言は失言だったと、今なら胸を張って言えるだろう。
    「はあ。しょうがないからこれで許してあげますよ」
    あんなに酷い事を言ったのに、日向は笑う。笑ってくれた。久しぶりに見るその笑顔は、やっぱりかわいくてかっこよくて、侑は起き上がり、正座をし、「すみませんでした」と頭を下げた。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👍👍💖💖💖😍💘👏😭🙏💖💖💕💞💕💯💯💯💯💯👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏☺🍡🍑💯🍑🍑🍑🍑🍑🍑🍑🍑🍑🍑🍑❤❤❤🍑🍑🍑😂😭☺☺💖💯💚
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works