恋文の行方について好きです、空くんのこと。だから、これ、読んでください。
震える両手で差し出された、淡いブルーの封筒に込められた気持ちごと、空は受け取る。送り主を見送ったあとで教室に戻ると、魈が待っていた。
「また呼び出しか?」
「うん。……これ」
「……またか。……お前は、毎回受け取るんだな」
「魈は?どうしてるの?」
「我には心に決めている人がいる。応えられぬとわかっていて、受け取ることはしない」
「ふふ、君らしいね」
「……どうするんだ?」
「ちゃんと読むよ。それで、ごめんねって言う」
「律儀なやつだな」
あきれ半分にため息をつく魈に笑って、空は手紙を鞄にしまった。
「この手紙をくれた子が、自分だったらって考えちゃうから」
「……?」
「たとえば俺が手紙を書いて、アルベドに想いを伝えたくて渡すとして。ありがとうって受け取ってくれたら、まだ可能性があるかもって思える。……結果的に叶わなくても、貰ってくれたんだなって思えるだけでも嬉しいから」
「それはお前の価値観でだろう。……それを本当に書いた奴は、そんな審判を待つ時間などむしろ要らないと思うかもしれないのに?」
二人で教室を出て、昇降口で靴を履き替える。オレンジ色の夕陽が目に痛かった。
「はは、そうかも。場合によっては残酷なことしてるよね。……でもたぶん、変えられない。俺の誠意は、そうすることでしか示せない」
帰宅した空はアルベドのいるリビングで手紙を読み始める。中身は2枚の便箋。最後に、クラスと名前と、連絡先が記されている。
「おや、また貰ったのかい?」
隣に腰掛けて、横から空を見つめるアルベドに空はひとつ頷く。
「うん。……好きですって。伝えきれないから、手紙を書いたって言ってた」
「そっか」
アルベドは淹れた紅茶を飲んで読書を始める。しばらく沈黙が落ちて、手紙を読み終えた空が紅茶を飲んでから口を開いた。
「明日、返事してくる」
「うん。なんて言うんだい?」
「……ごめんね。嬉しいけど、俺には大切な人がいるからって」
「……そう」
「…………アルベドは、さ」
「うん?」
「こんなことしてる俺のこと、嫌いにならないの?」
こんなにわかりやすく見せつけて、他の誰かから好意を向けられてるのだと、試すようなことをずっとしてるのに。
「ならないよ。キミがしてることはその日の報告をしてるようなものだ」
「……大したことじゃないってこと?」
「そうだね。大したことじゃない。キミがボクの気を引きたくてわざとしていることが可愛らしいなと思うだけだ。問題とも思っていないよ」
涼しげな目元、翡翠の瞳は濁りがない。
「……、怒っていいのに」
「怒らない。……怒ったりなんか、する必要もないからね」
だってキミはもう傷ついてるんだから。
空くんの目尻に口付けて笑うアルベド。許さないでよって俯く空を抱きしめて、何も言わない。
背中を撫でながら、手紙がくしゃりと音を立てるのを聞いていた。