ビニールカーテンをくぐると狭い狭い立ち飲み屋が何軒も続いている横丁にふらりと立ち寄ってみた
仕事で疲れたから一杯呑みたい気分と行った事が無い場所で呑んでみたい、そう思うと自然と足は横丁に手招きされるように向かっていった
さて、何処にするかと悩んでいるといらっしゃいませー、と元気な声が聞こえた店があった
その声が耳に心地良くて、吸い寄せられるようにその店に立ち寄った
店員を真ん中にぐるりと囲むようにカウンターが並んでいる、ビニールカーテンを潜って中に入るといらっしゃいませ、という声が聞こえた
ああ、あの声だ
店員と目が合うと、お好きな所にどうぞ、とはにかむように微笑まれながら説明された
入口近くの角を選んでメニューを眺める
喫煙可能な店のようで、ウズラの水煮の缶が煙草をすてる所になっている
メニューも汚れがついていて、年季が入っている
味があるな、と思いながら眺めていると、おしぼりどうぞとカウンターの上におしぼりが置かれた。
とりあえず生ビールを頼んでついでにスピードメニューと書いてある胡瓜の梅和えを頼んだ
注文を受けると、テキパキとした動きで生ビールがまず提供されてから、胡瓜が冷蔵庫から取り出されて、包丁で何度か潰されてから乱雑に切られ、その後に種を抜いた梅干しが小気味良いテンポで滑らかにされてゆく
滑らかになった梅干しが胡瓜と合わさっと思うと隠し味に何かが加えられて提供された
「お待たせしました」
「うん、ありがとう」
完成したそれを受け取ると、まずはビールを一口飲んだ
喉の奥にしゅわりとした液体が流れ込んでいった後に、苦味が口の中に広がる
苦味を打ち消すように胡瓜の梅和えを食べる
酸っぱいだけではなく、少し甘味も感じる
さっき何か入れていた隠し味だな、と考えながら食べてはビールを飲み進めてゆく
食べながら、カウンターの中を眺めていると梅干しで汚れていたまな板は綺麗になっていて、他の料理に取り掛かっている
常連のような客にたろちゃんと呼ばれている
彼の名前はたろちゃんというのか、と思いながらビールを飲み干した
「おかわり、どうしますか?」
あ、もし嫌なら大丈夫です、うちの店一杯だけでも大丈夫なんでと言いながら微笑まれた
「いや、そしたら…日本酒を冷で」
わかりました、そう言ってカウンターの奥に消えたと思ったら、冷えた一升瓶を持った彼が戻ってきた
枡の中にグラスが入っている、それが目の前に置かれたと思ったら並々と注がれて枡ギリギリまで注いでくれた
「お客さん初めてなんで、秘密ですけどサービスです」
きゅぽん、と蓋を閉めながら困ったように笑う彼になんだか惹かれる気がした