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    blue rose APPLAUSE

    blue rose APPLAUSE***

    「……遅い。」

    ベッドのサイドボードに置かれているエメラルドで装飾された綺麗な置時計を眺めて、何度目かわからないため息を吐いた。
    仕事を終えて執務室を出るとき、すれ違いざまに『今夜、部屋に行くから待っていて』と言われたから、身を清めたり後ろの準備をしたりしてそわそわしながら待っていたのに……あいつは来ない。

    (もう一時間も経っているんだぞ……。)

    さすがに遅すぎだ……少し拗ねた気持ちになるが、考えてみればあいつがこんなにオレを待たせることなんて初めてだ。
    もしかして、何かトラブルでもあったのだろうか……技術班の方で問題が起きて、それの対応に追われているとか。
    ルイはオレが即位すると同時に、技術少佐の職を退き、宰相(ロゼ)としてより近くでオレを支えてくれるようになった。
    だが今でも、その類まれな才能と能力を必要とされることは多く、技術班の面々から頼りにされている。

    (……少し、様子を見に行ってみるか。)

    オレはベッドから降りると、寝巻の上に薄手のケープを羽織って、部屋を出た。

    ***

    「さて……あいつはどこにいるのやら。」

    普段はオレの側近として城内をせわしなく走りまわっているが、長く入り浸っている場所はそう多くない。
    いるとしたらロゼの執務室か、あるいは技術部門の研究室だろうか。
    まずは近場から探してみようと執務室へ向かっている途中……突然、通り過ぎようとした部屋の中から聞き慣れた声が耳に届いた。

    「だあーーーっ!またお前の勝ちかよ!くっそー!」

    「まったく、君も懲りないねえ。そろそろ降参してくれないかい?」

    「いーや!まだだ!もう一勝負やるぞ!」

    (今の、ルイの声だ……。)

    その声が聞こえてきた部屋は娯楽室だった。
    なんとなくいきなり入るのは気が引けて、少しだけ扉を開けて中を覗いてみる。
    部屋の中には大きなビリヤード台を囲むようにして、キューを手にした三人の男がいた。
    全員、普段からオレの仕事を手伝ってくれている顔見知りの部下たちだ。
    そのうちの一人はルイだった。

    (あいつ……オレを待たせてこんなところで遊んでいたのか。)

    少しむっとするが、ビリヤードのキューを手にしているルイは少し困った顔をしていて、あまり楽しんでいる様子はない。
    もしかして、オレの部屋に来る前にあいつらに捕まって、仕方なく付き合っているのだろうか?
    下手に断って部下同士の関係が悪くなると、オレにも悪影響だと考えたのかもしれない。

    (……声をかけていいものか。)

    別にトラブルが起こったわけでもなさそうだし、割り込んで邪魔をするのも気が引ける。
    ここは大人しく部屋に戻って待っていた方がいいかもしれない。
    そう判断して踵を返そうとしたとき、うっかり足が扉にあたって音を立ててしまう。
    しまったと焦った時には、すでに物音に振り向いたルイと目が合ってしまっていた。

    「……こんな夜更けにどうされましたか、陛下。」

    いつもより数段丁寧な対応をされて、今は主と従者という関係なのだと不意に思い出す。
    名指しされては逃げようがないので、少し気まずくなりながらも扉を開けて部屋へと入る。
    オレの姿を見た瞬間、部下たちは慌てて背筋を伸ばした。

    「陛下!お疲れ様です。まだお休みになられていなかったのですか。」

    「ああ……寝付けなくて、すこし城内を散歩していたんだが……。
     すまない、邪魔をしてしまっただろうか?」

    「いえ、とんでもない!同期と軽く飲みながらゲームをしていただけですから。」

    ちらりと視線を投げると、ビリヤード台の傍にある小さなテーブルに、コルクが開けられたワインと人数分のグラスが置かれていた。
    ただ、ワインが注がれているグラスは二つだけで、どうやらルイは飲んでいないらしい。

    「よろしければ、陛下もご一緒にどうですか?キューはまだ余ってますし。」

    「いや、オレはビリヤードは不得手だからな。
     ここで見ているだけでも楽しいから、今日はゆっくり見学させてもらう。」

    「そうですか……それなら今度、機会があればぜひ。」

    「っふふ、ああ、そうだな。その日のために、ちゃんとルールを覚えておこう。」

    王になったばかりの頃は、みんな畏まった対応しかしてくれなくて少し居心地が悪かったのだが、親しみやすく接することを心掛けていたらいつの間にかだいぶ打ち解けられてきたような気がする。

    「よーし!次こそオレが勝つ!見てろよ~!」

    部下の内の一人が、キューを構え、勢いよく球を弾く。
    すると思いのほか好感触だったようで、四つ中三つの球がポケットに入った。

    「よっしゃ、三点!これは勝っただろ!」

    「ふふ、さて、それはどうかな……。」

    ガッツポーズをする部下と入れ替わりにルイがビリヤード台の前に立つ。
    キューの向きとつま先の向きを合わせて構えるルイの姿はとても絵になっていて、思わず胸が高鳴った。
    ボールを軽く抑える指先に視線が向くと、その長くて綺麗な指に乱されている時のことを思い出してしまって不埒な熱に身体が浮かされてしまう。

    (……ルイに勝って欲しいと思うのは、贔屓になってしまうだろうか……。)

    側近を恋人にしている時点で今更かもしれないが、ちゃんと公務とプライベートの線引きはしているし、部下はみんな平等に扱っているつもりだ。
    それでも、やっぱりオレの中でルイは特別な存在で……どうしてもつい目をかけてしまうのだ。
    少し申し訳ない気持ちになりながらも祈るようにルイの方を見つめていると、ボールを見つめていた瞳がこちらを向いて、視線が絡まる。
    そのままスマートに片目を閉じてウインクをされると、不意に心臓が握り潰されて思わず頬が熱を持った。

    「さて……じゃあ、最後は綺麗に終わらせようか。」

    不敵な笑みを浮かべたルイはフォームを安定させると、キューで軽くボールを突く。
    そして狙う的球を的確に別のボールに当てて弾いた。
    そこまで勢いがあるわけでもないのに、四つのボールはまるでポケットに吸い込まれるように落ちていく。
    思わず見惚れてしまうほど綺麗なキスショット……勝負が決するのは一瞬だった。

    「あ”~!くっそ~!またお前の勝ちかよ!」

    「ふふ、我が主の御前だからね。さすがに手加減などできないよ。」

    「あ、やっぱり手抜いてたんだ、ホント、食えないやつだなあ。
     陛下、こいつがロゼになって、苦労されてるんじゃないですか?
     言ってくださればオレがいつでも代わりますよ!」

    「おや、そういうことは僕より仕事ができるようになってから言って欲しいねえ。」

    揶揄うような同期に言葉に皮肉を返すルイもどこか満更ではない表情をしていた。
    こんな風に仲間とじゃれ合っている姿を見ることはあまりないから、オレも自然と嬉しくなってしまう。
    この間チェスで完膚なきまでに負かされたばかりだったので、頭を使うゲームが得意なことは知っていたのだが、まさかビリヤードまでお手の物だとは思っていなかった。

    「さすがだな、ルイ。本当に、お前には非の打ち所がない。」

    「ふふ、とんでもない。貴方の右腕として当然のことをしたまでです、我が主(マイロード)。」

    ルイは恭しい仕草でオレの手を取ると、甲に優しくキスを落とす。
    こんなキザな行動すら様になってしまうのだから、この男は狡い。
    なんだか照れくさくなって少しだけ顔を赤らめてしまうと、部下のひとりが気遣うように声をかけてきた。

    「陛下、少し頬が赤いですが……もしかしてお風邪を召されたのでは!?」

    「え……?」

    「最近は冷える日が続いておりますが故、体調を崩されてしまったのやもしれません。
     失礼、お熱があるか確認させていただきます。」

    「あ、ああ……。」

    部下の一人が熱を測ろうとオレの額に手を伸ばす。
    あと少しで指先が触れると思った、その刹那……──。
    ぐいっと勢いよく腕を引かれて、ルイの胸にもたれかかる形になってしまった。

    「っわ……!ルイ……!?」

    「ふむ……少し熱っぽいかもしれませんね。」

    ルイはオレの首筋に手を押し当てると、こともなげにそう呟いた。
    不可抗力とはいえ、ルイに抱き留められている体勢のままなのは恥ずかしくて抵抗を試みるが、結局徒労に終わった。

    「やはり……!すぐにお部屋までお送りしなければ!」

    「僕がお連れするよ。それはロゼである僕の役割だからね。
     陛下、失礼いたします。」

    「る、ルイ、まっ……うわっ!」

    ルイはまるで赤子を抱き上げるようにやすやすとオレを姫抱きにすると、後ろを一切振り返ることなく部屋を出てしまった。

    「ルイ、あ、歩ける!自分で歩けるから……!下ろしてくれ!」

    「ご無理をなさらないでください、どうやらお熱があるようですから。」

    にっこりと気味が悪いほど良い笑顔でそう言われて、どうやら機嫌を損ねたらしいということはわかった。
    部屋に戻ったらどうなってしまうんだろう……怖さ半分、期待半分で、オレはドキドキと胸を高鳴らせた。

    ***

    「るい……っ、ん、んう……っ。」

    自室に戻ると、すぐに二人してベッドになだれ込んだ。
    シーツの海に身体が沈むと同時に唇を塞がれて、オレはすぐに指先から溶け始めてしまう。
    視界が少し潤んで、息を吐く暇もないくらい何度も降ってくるキスを受け止めるのに精いっぱいだった。

    「っは……まったく、どうして君はそんなに無防備なんだい?
     恋人の前で他の男に肌を触らせようとするなんて……そんなに僕を嫉妬させたいのかな?」

    「……恋人よりビリヤードの方が大切なんだろう。
     オレはずっと待っていたのに……。」

    「……やっぱり、会いに行くのが遅くなったことを怒っているのかな?
     すまなかったね……部屋に行く前に彼らに捕まってしまって。」

    どうか機嫌を直しておくれと言って、ルイはオレの頬に軽くキスをする。
    別にはなから腹を立ててはいなかったのだが、こうして愛でられていると悪い気はしない。
    こんな口づけひとつで簡単に絆されてしまう自分はなんて他愛ないのだろう。

    「……それで、体調は大丈夫かい?」

    「もともと熱なんてない……お前ならわかっているだろう。」

    「ふふ、すまないね……これ以上、彼らの前で微笑む君を見ていると気が狂いそうだったから。」

    ぎゅうっとオレを抱きしめるルイの背中に腕を回して、心地いい圧迫感をたっぷりと享受する。
    恋人になってから、ルイについて新たにわかったことがある。
    それは、こいつがオレが思っているよりも嫉妬深く、凄まじい独占欲の持ち主であるということだ。

    (……意外と、子供っぽいところもあるんだな。)

    束縛されるのは嫌いじゃない……むしろ、それだけ愛されていると実感して安心するし、幸せな気持ちになる。
    嫉妬してくれるのが嬉しくて、この間、わざとルイ以外の部下を連れて市街視察に出たら、その晩は声が掠れるくらい激しく抱き潰された。
    それから、下手に怒らせないようにしようと心に決めたのだが……。

    「まったく、油断も隙も無いね……君はとても魅力的な人だから、好かれてしまうのは仕方がないのだけど……。」

    「……買いかぶりすぎだろう。」

    「その台詞は僕の日頃の苦労を知ってから言って欲しいな。
     はあ……この様子だと、あまりうかうかしていられないね。」

    ルイはそう言って深いため息を吐くと、不意にオレの両目を手のひらで覆ってしまう。
    突然視界が真っ暗になって、ルイの意図が分からず戸惑った。

    「る、ルイ?何も見えないんだが……。」

    「そのままじっとしていて……うん、もういいよ。」

    パチンと耳たぶを何かに挟まれる感触を覚えると同時に、目隠しが外される。
    視界を塞がれていたせいで部屋の明かりがやけに目に眩しい。

    「ふふ、思ったとおりだ……君によく似合っているよ。」

    見てごらんと、手のひらサイズの手鏡を渡され、自分の顔を映してみる。
    すると、耳に見覚えのないイヤリングがつけられているのが目に入った。

    「これ、どうして……。」

    「おや、恋人に贈り物をするのはおかしなことではないだろう?
     君が好きそうなデザインのものを作らせたつもりなのだけど……気に入ってもらえたかな?」

    そう問われて思わず食い気味にこくこくと頷いてしまう。
    ルイがプレゼントしてくれたイヤリングは、薔薇の形をしたシンプルなデザインのものだが、思わず見惚れてしまうような不思議な魅力があった。
    モチーフとなっている青色の花は、オレにとってとても馴染み深いものだ。

    「このイヤリングのモチーフになっている青薔薇……アプローズなのか。」

    「ふふ、そうだよ。君は青薔薇(ブルーローズ)の中でも、アプローズが特にお気に入りだろう?」

    一口に青薔薇(ブルーローズ)と言っても、その種類は様々だ。
    青より紫に近い色を持つブルーフォーユー、つる状にひらひら咲くレイニ―ブルー、ツンと立った花弁が特徴的なノヴァーリス。
    アプローズはそんな数多の青薔薇(ブルーローズ)の中で、一番最初に生み出されたオールドローズだ。
    青薔薇(ブルーローズ)の中で唯一「夢が叶う」という花言葉を持つアプローズは、希望の象徴として我が国の国旗にもあしらわれている。

    「このイヤリングに使われている着色料は、実際のアプローズから抽出したものなんだ。
     だから本物と全く同じ色合いを再現できるんだよ。」

    「本当だな……すごく、綺麗だ。
     ありがとう、ルイ……嬉しくてどうにかなりそうだ。」

    「ふふ、気に入ってもらえたようでよかった。」

    恋人にもらった贈り物が嬉しくて、どうしても頬が緩んでしまう。
    感謝と愛情を伝えるようにぎゅうっと抱き着くと、愛おし気に目を細めたルイが優しいキスをくれた。
    この腹が立つくらいよくできた恋人に何か返したい気持ちもあるのだが、きっと値が張るものは受け取ってもらえないだろう。
    どうやら、祝日が重なる三連休を丸々明け渡すことになりそうだ。

    「ねえ、ツカサくん……今夜はこのまま、君を抱いてもいいかな?」

    「なっ!?いや、せめてイヤリングは外させてくれ!
     せっかくルイからもらったものだし、汚したくないんだ。」

    「ふふ、ダメだよ。こうして僕の贈り物を身に着けている君を見ていると、とても気分がいいんだ。
     ちゃんと、君は僕のものなんだって実感しながら触れたい……ダメかい?」

    常日頃から思っているのだが、相変わらずなんて性質の悪い男なのだろう。
    そんな顔でダメかい?なんて聞かれたら、頷くしかなくなるに決まっている。
    ルイがオレに対して激甘であるのと同じように……オレも恋人に対してはどうしようもなく甘いのだ。

    「それ、虫よけでもあるんだから、外してはいけないよ。」

    「虫よけ?……どういう意味だ?」

    「ふふ、いつか君にもわかる日が来るかな?」

    ルイは含みを持たせた笑みを浮かべると、もう一度深いキスで酔わせながらオレの寝巻のボタンに指をかけた。
    一度その意地悪な指先に触れられただけで、オレの身体は制御権を失い、何もかもを目の前の男に明け渡してしまう。
    髪を結わいていた白いリボンをするりと解かれて、肩まで伸びた蜂蜜色の髪がシーツに広がる。
    アマレットの不埒な熱に溺れながら、オレはゆっくりと深い夜の海に沈んでいった。

    ***

    「ん……。」

    翌朝、オレは小鳥の鳴き声で目を覚ました。
    なんて優雅な朝なのだろうか……昨日も情緒がめちゃくちゃになるまで乱された気がするのだが、少し腰が痛む程度で済んでいる辺り、翌日の仕事に支障が出ないようにかなり手加減をされていたらしい。

    「おはよう、ツカサくん。昨夜はよく眠れたかな?」

    ぱちぱちと瞬きをしていると、オレより少しだけ大きな手に優しく髪を撫でられる。
    ぼやけていた視界がはっきりしてくると、腰痛の元凶がとてもにこやかな笑顔を浮かべているのが目に映った。
    オレより一足先に起きていたらしく、先程まで読んでいたらしいショー関連の本が枕元に置いてあった。

    (……眩しすぎる。)

    相変わらず、嫉妬するくらい何から何まで綺麗に整えられた顔だ。
    朝から見るにはいささか情報量が多すぎる。
    ジェラシーとささやかな抗議の念を込めてぐりぐりとルイの胸元に頭を押し付けると、長い腕がすっぽりとオレの身体を包み込んでしまった。 

    「おや、ふふ、国家元首ともあろうお方がだらしないねえ。」

    「ん……んん。」

    「こらこら、残念ながら二度寝をする時間はないよ。
     起きて支度をしなければ……。」

    「うう~~~。」

    ぐずりながらずりずりと布団に潜るオレを見てルイは苦笑すると、少しだけだよと言って布団の上から優しく撫でてくれる。
    こうしてルイが肝心なところで甘やかすから、すっかり朝が苦手になってしまった。
    そうして五分だけ惰眠を貪り、まだ眠気眼のまま身支度をする。
    百合の花がモチーフの白いタキシードに袖を通した後に、ルイが丁寧に髪を梳かしてくれた。
    そして長い髪を白いリボンで片側に結べば、朝の用意は完了だ。
    さっそく朝食の席に向かおうとして……不意に枕元に置かれていたイヤリングに目が留まった。

    (……寝てる間に、ルイが外してくれたのか。)

    時には子供のような我儘を言うこともあるが、基本的に気が利く男なのだ。
    せっかくの贈り物だし、付けていきたい気持ちもあるのだが、部下からの個人的なプレゼントを仕事の場に持ち込むのは公私混同になるのでは……。
    一分ほどぐるぐると思案して……結局、欲に勝てずにイヤリングを手に取った。
    きっと、外してはいけないよと言ったルイの甘い声が、耳に焼き付いてしまったせいだ。
    都合よく責任転嫁して、オレは今度こそ自室を出た。

    ***

    朝食を終えて執務室へ行くと、すでに部屋の中で待機してくれていた側近の一人が元気に挨拶をしてくれる。
    昨日、ルイにビリヤードで負けて悔しがっていた彼だ。

    「おはようございます!陛下!」

    「ああ、おはよう。今日もよろしく頼む。」

    「はい、もちろんです!……ところでそのイヤリング、とてもよくお似合いですね。
     どこでお求めになられたのですか?」

    さっそく気にしていたことを真正面から訊ねられて、咄嗟に言葉に詰まった。
    正直に答えようか迷ったが、嘘を吐くのもなんだか申し訳ないような気がする。
    結局適当に誤魔化すことができず、事実を伝えることにした。

    「その……昨日、ルイにもらったんだ。
     個人的な贈り物だと言って……ほら、こうして光にかざすと、綺麗だろう?」

    横髪をずらしてイヤリングを光に当てると、宝石で作られた青薔薇(ブルーローズ)が太陽を浴びてキラキラと輝く。
    本当に……オレにはもったいないくらいに美しい。
    恋人からの贈り物にうっとりしていると、何故か彼はショックを受けたような顔をして縮こまってしまった。

    「そ、そうなんですか……。」

    「?少し顔色が悪いようだが、大丈夫か?」

    「す、すみませんっ。俺、今日の公務の書類を受け取ってきます!」

    「あ、ちょっ……。」

    せわしない様子で、その部下は止める間もなく執務室を出て行ってしまう。
    心配になってそっと廊下にでてみると、先程の彼が別の男に肩を叩かれて慰められてるところだった。
    理由はわからないが、どうやら落ち込ませてしまったらしい……。
    なんとなく申し訳ない気持ちになりながら執務室に戻って書類に判を押していると、コンコンと丁寧なノックの音が耳に届いた。

    「失礼いたします、陛下。」

    「おお、ネネ!頼んでいた書類は受け取ってきてくれたか?」

    「うん、これでいい?」

    「……よし、間違いなく受け取った。感謝するぞ!」

    にこやかに礼を言うと、ネネは何故か怪訝な顔をしながらオレをじっと見つめてきた。

    「ツカサ……あんた、ルイに何かしたの?」

    「む?……ルイがどうかしたのか?」

    「……なんか今日、気持ち悪いくらい機嫌がいいんだけど……。
     昨日まで法案が議会に全然通してもらえないって苛立ってたくせに。」

    「……ああ。」

    なんとなく心当たりがあるせいで少し申し訳ない気持ちになる。
    オレの表情を見て事情を察したのか、ネネが呆れたようにため息を吐いた。

    「どうでもいいけど……心当たりあるんだったら責任取ってあの浮かれポンチを何とかしてよね。
     ルイが無駄にやる気出すと、技術班の子たちが散々振り回されて大変な目に合うんだから。」

    「すまん……オレからもあいつに無茶を言わないよう言い聞かせておく。」

    「よろしく……エムが面白がって便乗しないうちにちゃんと釘刺しといてね。」

    いつもよりぐったりとした様子のネネを見る限り、既に一騒動あったらしい。
    さすがに、王城で爆発騒ぎは勘弁してほしいところだ。
    とはいえ、派手で面白いことはオレも嫌いじゃない。
    ネネには悪いのだが、今日はいつもより賑やかな一日になるかもしれないなと、オレは少し胸を弾ませたのだった。


    blue rose APPLAUSE(ブルーローズ・アプローズ)
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