宇宙から来た大崎のはなし2 青い星から青い星に急降下する僕を、受け止めてくれたのは青い人だった。受け止めた、というのが正しい表現なのかはわからないけれど。このままのスピードでぶつかったら目前の青い人が木っ端微塵になっちゃうから、頑張って減速してなんとか軟着陸くらいの状態にまでもっていくことができた。僕の体が青い人にまとわりついてベチャベチャにしているのを認識。ちょっと悪いことしちゃったかなぁなんて思ったりして。
「ええ〜っ、雨……こんなにお天気なのに? しかもどことなく粘度がある……」
どうしよう〜と困った声をあげている青い人の口の中に体の一部を侵入させる。ちょっと遺伝子の情報をもらいたいだけだ。このままの姿だと地球での生存は厳しそうだし。
つるつるしたやわらかな肉の上を滑っていると、すこしあたたかい。形があるってちょっと羨ましいなと思う。とろりとした液体の中に遺伝子情報を発見して、すかさず体で包み込んだ。取り込んで分析。情報量の多さにくらくらする。
人間の体って複雑なんだなあって、思っているうちに僕の細胞がゆっくりと肉体の形を取り始めた。五感をそれぞれ適切なパーツに配置、と思ったらこれらのほとんどは頭部に集まるみたい。ってことは、人間って頭が潰れちゃったらおしまいだなあ、気をつけなくちゃなあ。腕、指先、脚を伸ばして、そうそう、下半身は性別によってパーツが違うらしい。男の人のパーツを生み出して、そうだ、見た目はどうしようかなあ。
覗き見てしまって、ごめんなさい。僕を受け止めてくれたあなたの好みに合わせてみます。そうしてできた僕の外側、あれ、ちょっとカッコいいんじゃないかな?
「あ、あれっ? 大丈夫ですか……!?」
青い細目のお兄さん──湊航琉さんというらしい、が地面に伏せている僕の肉体を慌てて揺さぶっている。この人からしたら突然液体が降ってきたうえに、知らない人が地面に倒れているんだから焦るのも当たり前だろうな、って少し他人事みたいに思った。他人事なのは仕方がない、だって僕はこの人の口の中からうまい具合に肉体の方に着地しなきゃいけなくて、そちらに集中していたんだ。
「大丈夫ですか、お兄さん! お兄さん〜!?」
開かれた口からするりと抜け出して、思い切ってジャンプ。落ちた先は多分耳孔、さっきから僕は落ちてばっかりだ。肉体に意識をリンクさせてみると、うん、大丈夫そう。ゆっくりと顔を上げる。
「蜒輔螟ァ荳亥、ォ縺ァ縺吶∝ソ縺励※縺上l縺ヲ縺ゅj縺後→縺#縺悶>縺セ縺吶」
「っわ! よかったあ生きてる……けど、お兄さん外国人の人かな!?」
僕の思考言語と湊さんの使用言語はチャンネルが合わないらしかった。どうしようかなと思っていると、頭の中で電子音がピーンと鳴り響いた。
『安心安全保障パックのサービス利用開始を確認しました』
「なに? サービス?」
「あ、日本語……かな。お兄さん大丈夫ですか? 自分の名前、言えます?」
『利用者:仮称)大崎新市として登録されました』
どうやらお父さんが銀河レンズをくれた時に、保障サービスをつけてくれていたみたい。……僕って信用がないのだろうか。助かったけれど。大崎新市という名前は仮称だけれど、なんだかすごくいい響きがした。僕の故郷では名前なんて使う必要がなかったから付けられることがなかったし、個人を識別する符号を初めて獲得したからなのかもしれない。
「僕は大崎新市です!」
「わあ、元気そう。大丈夫っぽいなあ……」
「僕、喉が乾いちゃって気づいたら倒れていたんです」
作ったばっかりのこの体には足りていないものが多い。喉が乾いているのは本当だ。こんなのじゃすぐに干からびちゃう。
「今日はいいお天気だしね……。じゃあ俺が自販機で水を買ってくるから、大崎……さん、はここで待っててよ」
湊さんは僕を置いてすぐそこの自販機まで走っていってしまう。なんだかとってもいい人だ。僕、この人に受け止めてもらえてよかったなあと思う。
「どうしたの大崎くん」
「ちょっと昔のことを思い出していて。湊さんっていい人ですよね」
「ええっ、褒めても何にも出ないよ?」
いつでもニコニコ笑っていて、ほんとうに優しい人だ。初めて会った時から、この人の印象は全然変わらない。
「ところで僕の見た目、湊さんは好きですか?」
「急だなあ。うーん、結構好きだよ。大崎くんみたいなイケメンになれるならなってみたいって思っちゃうかも」
「それならよかったです!」