心臓の部屋③後ろ手に閉めた扉が思いの外、音を大きく響かせた。
ーゴウンゴウン…
ポーラタンクの動力音が低く部屋を包みこんでいる。
「……サイレント。」
(ルーム…アンピュテート…)
ーゴゥ・・・
胸に手をあてて能力を発動する。
(本当は指を鳴らすんだが・・・)
『安眠においておれの右に出る者はいねぇ』
全ての音が死んだ。
音を失った空間で壁一面、綺麗に等間隔に並べた中からお気に入りのひとつに触れる。
ードクンッ・・・ー
まるで手のひらに音が伝わってくるような力強い拍動が無性に愛おしく、そっと頬を寄せる。本来は身体の中にあるべきものがここにある。剥き出しにされ、護ってくれる筈の肉も骨もない心許ない命の源がこの掌にある。頬に触れる熱いくらいの生命の温もりがこの心臓の持ち主が確かに生きていることを教えてくれる。
ードクンッ、ドクンッ・・・ー
『ここから外の音は聞こえねェだろ?外からもおれ達の声は聞こえねェ』
顔も忘れてしまった男の心臓にコラソンを重ねる。今日はこの心臓と添寝をしようか。
「…ハハッ、コラさん凪は解いてくれよ。眠るだけならサイレントだけで充分だ…」
(コラさんの声が、拍動が聴こえないだろ?)
ードッ、ドッ、ドッ・・・ー
心臓に掌をあてると少し脈が早くなった。
(コラさんの心臓はこんなに小煩くねェ…)
この心臓はコラソンの拍動に似ていると思っていたがやはり少し違っていて、ローはさっきまで大事なモノに触れるように扱っていたソレを無造作に床へ投げ捨てた。用済みの心臓を一瞥すれば、投げた時に当たったのか瓶を倒し酒に塗れていた。音は何もしなかった。
「…ハァ、また誰かこっそり酒飲んでたな。」
溜息を吐き、瓶を起こして近くに落ちていたコルクで蓋をする。心臓はピクピクと痙攣するように拍動を刻んでいる。
「…気持ち悪りぃ。」
(コラさんの心臓はきっとこんなもんじゃないもっともっと綺麗できっともっと…)
邪魔な心臓を脚で雑に横へ退けて、部屋の隅の木箱へ向かう。しゃがんで蓋を開けるとそこにはまだ整理をしていない心臓が詰まっていた。
「…ひとつくらいイイモノがあるといいんだが」
(まァ、なかったらまた奪ってくればいいだけか…)
※数時間後床に散らばった心臓はスタッフ(ペンシャチベポ)が仕分けしてちゃんと海軍にお届けしました。