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    takanawa33

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    takanawa33

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    課金 悠七 生存if

    「はぁ~~~~疲れた。ナナミン、課金させて」



    「なんて???」



     若い子の考えは分かりません、補助監督の経験を重ねて七海はそう考えていたがもう若いとも言えない虎杖悠仁(25)の考えもやはり分からない。まったく、これっぽっちも、一寸たりとも理解ができないのに七海を混乱させている張本人はケロっとした様子で「課金させて」と謎単語をさらに七海にぶっこんでくるのだ。
     課金 [名](スル)支払を課すること。料金、費用を引き受けさせること。(goo辞書. “課金”. https://dictionary.goo.ne.jp/word/課金)七海は考える。考えるけれどやはり分からない。
    (なにいってんだこいつ)やはりどんなに常識人を装おうと特級は特級。あの変人たちと根っこは変わらない。七海がそう結論を出そうとした時、悠仁はさっきから弄っていた七海の黒いスマホを「ほい」とにこやかに渡した。
    「配信して、あっちの部屋のソファに座りながらでいいから。俺はあっちの部屋にいるね」
    「いや、もうほんとに意味がわからないので日本語喋ってくれます?」
     叩いたら直るかしらん。ブラウン管テレビと同じ扱いで頭を悩ますけれど悠仁はそんなことでは引かない。引くわけがない。だって特級なのだから。
    「んとね、このアプリがライブ用のアプリなのね。今ナナミンのアカウント作って入れておいたから、これ開いて適当にカメラに向かってしゃべって? そしたら俺のクレカで課金するから」
    「説明されても意味がわからない」
     あと無駄にかわいく上目遣いをやめろ。七海は即刻スマホの害悪アプリをアンインストールしようとした時、悠仁は「したい……ナナミンに課金……」きゅるきゅるとポメラニアンのような顔で見つめてくる。
    「う、ぐ」弱い。七海はこれに弱いのだ。たとえ今の悠仁はポメラニアンからほど遠いピットブルの成犬だとしても昔のかわいい悠仁の面影がチラチラの七海の脳裏から離れず亡霊のように『母性』に訴えかける。その結果。
    「い、一度だけですよ」
    「わーい」
     ダブルピースで喜ぶ似非チワワがご学習を繰り返すこととなる。

     じゃあよろしく、と部屋に押し込まれた七海はいつの間にか白基調のソファ一つしかない空間になっている小部屋に頭を抱えた。昨日までこの部屋は七海と悠仁の衣装置き場になっていたはずだ。それがすっかりなくなってソファだけになっているところを見ると、この衝動的に見えた悠仁の欲求、実のところ巧妙に仕組まれたものらしい。
     七海はうまいことしてやられた現実にため息をつきながらソファにそっと座った。そして言われた通りのアプリを起動する。起動しちゃう。チョロすぎません?
    (これでいいのか?)
     パアステルピンクのアイコンをタップすると『配信』のボタンが現れる。悠仁いわく、悠仁しか入れない設定にしているらしいので七海は警戒もせずその誘導のままアイコンに触れた。その瞬間、画面が少し変わり、七海の顔の横に文字が浮かび上がった。
    『あ、配信始まった!』
    「いや、始まったもなにも貴方が始めるように言ったんでしょう」
    『えへへ、そうなんだけどやってくれて嬉しい』
    「よかったですね」
    『ナナミンは今日はなにを食べたの』
     さっきまで一緒に夕飯を食べてたじゃろがい。と突っ込みたくなるのを抑える。なるほど、こういった日常のやりとりを楽しむものらしい。何が楽しいのかサッパリわからんが。
    「シンガポールチキンライスです」
    『すげぇ~! めっちゃオリエンタル!』
     君が作ったんでしょうに、七海は肩の力をこれでもかと抜いてソファに寄りかかる。
    『ナナミン』
    「なんですか」
     答えた瞬間、悠仁のアイコンからよくわからないハートマークが飛び出した。
    「なんですかコレ」
     ハートをつつくと悠仁が一言『課金』と言うので七海は眉を顰めた。
    「これがしたかったと」
    『そう』
    「私に、課金してくれてるんですね」
    『うん、好き』
     また飛び掛かるハートマーク。よくわからないがこれで悠仁は満足なのだろう。七海はこういったアプリが何故流行しているのかは分からないが流行する理由は分かる。だから流儀に乗ってみるのもまた一興。
    「悠仁くん、ありがとうございます」
     ニコリ、微笑めばハートが画面中に飛んだ。
    「いっぱい応援してくれてありがとうございます、好きですよ」
     ぶわり、飛ぶハートに思わず笑ってしまう。いつかテレビで見たこういった職業の人々はこんな景色を見ているのだろうか。
    「ふふ……君に支持されているのが目に見えて分かるのも悪くないですね」
    『俺もナナミンに課金できて幸せ~』
     舞い散るハート、いったいそれがおいくらなのか知らないけれど七海はハイハイと頷く。こんなことで悠仁が喜ぶのなら悪くない。なんだかんだ悠仁のことをかわいいと思っているし愛しているわけで。そんな愛しい存在が自分でたのしんでくれるのならそれは何よりなのだ。
     そんなわけで悠仁の気が済むまで投げキスしたり首を傾げたり好き好き言ってみたり、画面にハートが出ない時間がないほど課金された七海は三十分ほどで配信を終了した。
    「いや、しかし意味がわからない」
     なにに満足しているのか。なんの欲求が満たされているのか、いやしかし。
    「悠仁くんが満足してるならいいか」
     そう思ってアプリを閉じようとした瞬間、何気なく開いた集金画面に出てきた軽自動車一台分ほどの金額に七海は立ち上がり「悠仁くん!!!」大声を上げながら恋人のいる部屋へ向かうのだった。
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