オレとアンタの特別なケーキ「あ、獪岳だ」
通りを挟んだ向こうにあるケーキ屋を眺めると、ちょうど店に入る獪岳の後ろ姿を見つけた。本日の主役に捧げるケーキを受け取りに来たんだろう。このまま知らんぷりして帰ってもいいんだけど今年のケーキがどんなのか見たくて、手に持った寿司にちょっとだけだからと呟くと、ケーキ屋に足を向けた。ガラス越しに全身真っ黒な後ろ姿を見ていると、やっぱりこれは変なルールだよなぁと思ってしまう。
今日はオレの誕生日なのに、オレが食べたいケーキは食べられない。獪岳が選んできたケーキを食べることになっている。爺ちゃんがむかし決めたルールのせいだ。三人が一緒に住みだして十年ちょっと、誕生日はずっとそうしてきた。
オレは通りを渡ってケーキ屋の前まで行くと、自動ドアのボタンを押して店に入った。珍しいことに店内は獪岳ひとりしかいなくて、まだケーキを受け取ってないようだった。
5451