与え合うもの 与え合うもの
口の中でコロコロと転がす、球形に近い果実。口に入れたことはないけれど、スーパーボールみたいだと思った。新鮮でちょうど熟れ頃なのか、歯にあたると適度な弾力で押し返してくる。よく冷やされていたのか、口の中がひんやりとして気持ちがいい。
舌で適当に転がしてから皮の上に歯を立てた。食べても美味しいように改良されたぶどうの皮に、獪岳の尖った犬歯が食い込んでいく。少し力を入れてみるがまだ皮は破れない。ゆっくり、じわじわと力を加えていく。
ぶどうの粒に歯を立てるとき、獪岳はいつも善逸の皮膚に噛みつく瞬間を思い出す。張りのある肌に犬歯を食い込ませ、薄い皮膚を破り血を啜りたい衝動に駆られるあの瞬間だ。今まで噛みちぎったこともなければ皮膚に穴を開けたこともない。善逸は一度だって噛まれるのを嫌がったことがないから、獪岳は抱き合うたびに善逸の体に無数の歯形をつけていた。
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