ジューンブライド 諏訪がホテルのロゴが入った大きな紙袋を下げて帰ってきたのは、テレビのゴールデンタイムも終盤に差し掛かった頃だった。
「おかえり、意外と早かったな」
そう言って荒船は諏訪を出迎えると、引き出物が入った紙袋を受け取る。最近ではパンフレットから好きなものを選ばせる物も多いが、袋は皿でも入っているのかという重さがある。諏訪が今朝手入れしていった靴を脱ぎ、上着を脱ぎながらハンガーにかけ始めると「風呂も沸いてるぜ」という荒船に「助かるわ。すぐ入っていい?」と律儀に聞いてくる諏訪にいいよと伝えた。
諏訪が風呂に入っている間に引き出物の袋を見分すると、有名なロゴが入ったペアのマグカップと、とバームクーヘンに紅茶のティバッグのセットだった。当たり障りのないシンプルなデザインなのでこれなら貰った方も困らないだろう、という意図を感じる。諏訪も次の夏で三十路を迎えるから既婚者の出席者も増えているのかもしれないと、数年前から殆ど同棲という暮らしをしている荒船は他人事のように思った。
1976