一口ちょうだい テレビもついていない部屋はブーンと扇風機が音を立てながら首を振る音くらいしか聞こえないから、唾液を絡め合いながらキスをしているとのぼせそうなくらいその音しか聞こえない。興奮し始めてるのか、ただ息がしづらいのか「ン、ぁ」「ふ、ぅ」と溜息みたいな声が唾液の音と一緒に聞こえて来て朝方までの興奮が呆気なく戻ってきてくらくらした。
夏というにはまだ一足早いというのに、エアコンが壊れた諏訪の部屋は真夏といって良かった。
さっきからおよそ現代的とは言えないデザインの扇風機がやっとのことでぬるい風を掻きまわしているが、この暑さでもしかするとコイツも事切れてしまうかもしれないなと荒船は思った。
暑い暑いと言いながらせせこましい部屋で耐えているのは時間指定の宅配便を待っているからなのだが、先週の近界民の誘導装置から外れたせいで市街地戦闘があった際に破壊された道路の復旧が間に合っていない為の交通事情のせいか、単純な遅延なのか、とにかくドライバーはまだ来ない。
2156