雨 朝のテレビではそんな事は言っていなかった。
それを示すようにずっと向こうのおそらく隣町のあたりの空は綺麗に晴れて日が差しているのが見える。
もちろん全国的に梅雨入りを宣言された昨今、降水確率の云々関わらず折り畳み傘はカバンの中に入っている。けれども通り雨(というには豪雨だが)ごときで傘を濡らすのはなんとなく心情に反した。
そういう訳で、線路下の歩行者用トンネルでただただ遠くの晴れ間を眺めて通り雨が過ぎるのを待っていた。
流れ込む水流はとめどなく流れて、気に入りの靴もつま先から濡れ始めてじきに靴下も浸水するだろう。人通りなどありはしないが、道を塞がないようにしながら携帯を見ていると「よお」と声を掛けられた。
顔を上げれば諏訪さんがいた。
「諏訪さん」
「珍しい所で会うな、お前も傘持ってねえの?」
いくら梅雨だからって振らせすぎじゃねえ? と諏訪さんは俺の横に立つと空を見た。
もちろんカバンの中には傘が入っているのに何故だかそれを言い出せない。
なぜなら
「あー腹減ったな」
「堤さん、今日いなんですね」
俺の質問に諏訪さんは片眉ををひょいとやると、「別にいつも一緒って訳じゃねえだろ」と言ったが、諏訪隊は俺が知る限りたいてい一緒だ。だからなんだという他意はないが、いつも一緒なことを俺は知っていた。
「今日は小佐野がケーキ食べ放題に日佐人を連れて行って、堤は加古のロシアンチャーハンの日」
「諏訪さんはケーキの食べ放題には誘われなかったっ訳?」
「そーだよ。俺が行くと店で浮くっつって失礼にも程がある」
「そんで一人寂しく雨宿りか」
「さびしかないけどそういう事」
諏訪さんは俺の横に並ぶと空を見た。
既に雨は少なくなり、光の帯とやんわりとした虹が見えた。直に雨は止むだろう。
足元の水の流れもさっきほどの勢いは無くなっていく。あれほどうっとおしかった通り雨が今は惜しくなっている。
「ならカゲんとこ行きませんか」
諏訪さんはすっかり晴れてしまった空を見るろスマホだして虹の写真を撮った。それから「いいな」と言った。
トンネルを出て歩き出す。
カバンの中の傘の事はそのまま黙っていた。
なぜなら俺は諏訪さんと話をしたかった。要するに、諏訪さんが好きなのだ。
終わり