はぴして 北師弟+チレッタ 新作展示『燃える空』 空が燃えていた。どんよりとたちこめる雲は、眼下の火の粉を吸い上げ、重く暗い赤に染まっている。もう夜半になろうという頃であるのに、地上は昼間の空のごとく明るく煌めいて、チカチカと私の瞳を刺激する。
「双子様~! こーんばーんはー!」
「おお、チレッタか」
「久しいのう」
煙を吸い込まぬよう風上に避けながら、お二人のもとへと箒を飛ばす。燃ゆる炎を双眸に反射させて、双子は静かにその光景を見下ろしていた。その煌々しく光る四つの瞳からは、何の感情も読み取ることができない。
「いやー、派手ですねえ」
「ほんに」
「やんちゃが過ぎるのう」
やれやれとでも言うように、ホワイト様が肩をすくめ、スノウ様がため息をつく。
「あれ、どうしちゃったんですか?」
「わからんのう」
「反抗期?」
「随分とスケールの大きい……」
私も大概、やんちゃな時期もあったものだが、こんな規模の何某かを起こしたことは流石にない。
「あれにフィガロが加担してるのは意外ですね~」
「そうなんじゃよ」
「お兄ちゃんが弟を止めてくれると思ったんじゃがなあ……」
そんな、目の前に繰り広げられている地獄のような情景にそぐわない、世間話の延長のようなトーンで話を続ける魔法使い三人。
「双子様は止めないんです?」
「え~、止めた方がいい?」
「世界的には止めた方がいいんじゃろうけど」
「別に我らに逆らってるわけでもないしのう」
「我らの庇護下に手を出したわけでもないし」
「兄弟仲が良さそうなのは良いことじゃしなあ」
「あはは……」
ドンマイ世界。なんて軽く同情する。監督不行き届きとはまさにこういうことであろう。最初に家族のまねごとをし始めたのは双子だろうに、躾をやり直す気はないらしい。
最強と、元神様が手を組んでいるのだ。あっという間に世界なぞ掌握されることだろう。現に、今燃えている場所は、ここら一帯ではかなり大きな勢力を持つ街であった。ここが落ちたとなれば近隣に与える影響はかなり大きい。
「チレッタちゃんが止めてみたら?」
「ええ!? 私の言うことなんて、あいつらが聞くわけないじゃないですか!」
「そうかのう」
「そうですよ」
このジジイども。人に面倒を押し付ける気だな。なんて、もちろん口には出さない。触らぬ神に祟りなし、ってね。長生きしたけりゃ、なんでもかんでも首を突っ込まないことである。自分に災難が降りかからないならば、好きにやらせておけばいいのだ。私はこの街に知り合いなどいない。
「しばらく北を離れようと思って、ご挨拶に来たんですよ。あいつらのおかげで騒がしそうなんで」
「おお、そうか」
「寂しくなるのう」
「どこへ行くのじゃ?」
「ひとまず西で遊んでようかなって思ってます」
「なるほど。おぬしは顔が広いからのう」
「ま~そのうち西もうるさくなりそうですけどね~」
「それもそうじゃな」
「とりあえず住む場所決まったら、向こうで見つけた美味しいお酒持って、また伺います」
「ほほほ、楽しみにしておるよ」
「達者でな、チレッタちゃん」
小さな姿のお二人から、両頬にキスをもらう。少しの祝福を受けて、にこりと笑みを返す。
「あいつらに、私のお気に入りの店潰したら殺すって伝えといてください」
「ほほほ、自分で言うた方が早いぞ。あやつら我らに会おうとせぬ」
「きっと怒られると思っておるのじゃな」
「別に怒んないのにね」
「ねー」
だめだこりゃ。北の師弟、タチの悪いこと……。こんなのに目をつけられた村やら町やらは可哀そうにな、なんて思いながら地上の惨状を再度見下ろす。
もうもうと上がる煙の向こう、私たちより少し低い高度に、二つの人影を視界にとらえる。向こうも気付いたのだろう。一人は背を向け、一人はこちらを静かに見上げている。
暇の潰し方もわかんないなんて、馬鹿な子達。
まあ、双子に育てられたんじゃ、わかんないか。
どうせ返事はないとわかっていながら、私は二人にぶんぶんと手を振る。次に会うときは、反抗期とやらが終わっているのかどうか。いわゆる「黒歴史」として全力でいじってやろう、と決心して、私はその場をあとにした。