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    6__ws

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    【🎈🌟】1日1話、各登場人物の視点で描く1つの物語。
    2日目:🌟。🎈を好きになりすぎて壊れた語り手。
    全3編。以下全編の注意事項
    ⚠️まともな語り手はいない
    ⚠️大学生🎈🌟、死ネタ、不穏、🎈モブ♀描写(付き合っている。セッもする)、首締め、監禁、心中、病み?
    次回は明日の夜。🎈視点でお送りします。

    オレはあいつが好きなだけ「彼女ができたんだ」
     周囲の喧騒が一気になくなり、類の声しか聞こえなくなった。嘘だと思いたかった。しかし同時に、大学生にもなってあの容姿端麗な類を女性達が放っておくわけがないとも思って、妙に納得がいってしまった。
     オレが高校生の頃から抱いている恋心を置いてけぼりにして、類は先に行ったんだ。
    「……良かったじゃないか! どんな女性なんだ? いつから付き合っている?」
    「3ヶ月くらい前からかな。柔らかい茶色の髪の色を肩の辺りまで伸ばした、背の小さい優しい人だよ」
    「そうか……」
     まずい。話が続かない。思っていたよりショックが大きくて、思考が回らない。ええい、いい加減強がるのはやめて認めてしまえ、天馬司。「好きな人に彼女ができてしまったのが悲しくて寂しくてたまらない」と。
     こうなったらやけ酒だ。忘れられないのは分かっているが少しでも気を紛らわせなくてはやっていけない。
    「類! 今日は心ゆくまで飲み明かそうではないか! 金曜日だしな!」
    「え、いいけど……。どれくらい飲むつもり?」
    「知らん!」
    「ええ……」
     「酔った君を介抱するのは大変なんだよ?」と苦笑する類の表情にトクン、と鼓動が高鳴った。やはりどう足掻いても好きな気持ちは変わらないらしい。
     それにしても、いまいち分からないな。悲しい気持ちも寂しい気持ちも、置いていかれたという気持ちもたしかにあるが、原点に立ち戻って考えてみれば類の行動の理由が理解できない。
     類はオレのことが好きなのに、どうして彼女なんか作ったのだろうか?
    ***
    「んー…………」
     食器を洗う音で目が覚める。途端に映った天井には見覚えがあった。類の家だ。つまり、このフカフカな感触は……。
    「類のベッド⁉︎」
    「うわあ、寝起きから元気だねえ。おはよう司くん」
     がばっと起き上がってかけられている布団から急いで抜け出した。好きな人のベッドに寝かされていたなんて本当に恥ずかしくてたまらない。なんだこの胸騒ぎは。
    「……お、おはよう……。オレは、どうしてここに……」
    「覚えていないとはタチが悪い。君は昨日散々に酔っ払ってまともに歩けなくなっていたから、仕方なく僕がここまで連れ帰ってきたんだよ」
    「なんだと……⁉︎ そ、それは申し訳ないことをした……」
    「いいよ。もう慣れたから」
     たしかに、類と飲むとオレは気が緩むのかいつもより多めに酒を飲んでしまう。そのたびに家まで送ってもらったり身体を支えてもらったりしていた。
     ここまでやっても、類に彼女がいるという事実は変わらないし、忘れられるものではない。
    「朝ごはん、作ったから食べていきなよ」
    「え……そこまで迷惑をかけるつもりは……」
    「迷惑なわけがないよ。君と朝ごはんを食べるなんて初めてだから、やってみたくて」
    「……!」
     まるで、同棲をしているような感覚。低いテーブルに向かい合って座り、類が作ってくれた朝ごはん(もちろん野菜はない)を食べる。うん、美味い。一人暮らしをするようになって自炊の必要性を自覚したんだろうな。
    「……そうだ。なあ、類」
    「ん?」
    「昨日からずっと不思議に思っていたんだが、お前はどうして彼女と付き合い始めたんだ?」
    「告白されたから」
     さらりと言ってのけたセリフは淡々としていて、なんの感情も乗せられていないように思えた。
    「そ……そうか!」
    「? どうしてそんなに嬉しそうなんだい?」
    「気にするな!」
     やはりそうだ。類は別に彼女を好いているわけではない。優しいから、告白してくれた彼女を傷つけないために付き合うことを決めたんだ。仕方なかったんだ。
     ようやくすっきりしたぞ。とにかく、彼女ができても類はオレが好きだし、オレも変わらず類が好きだ。両想いなんだ。互いに告白する勇気が出ないだけで、いつかきっと、オレ達は――。
    ***
     類に見送られて家を出る。冷たい風に吹かれながらも身体は随分火照っている。我ながら単純な男だなと自嘲して、交差点の前で信号が赤に変わるのを待つ。
    「……? あれは……」
     遠くに見える、背の小さな女性。やけに嬉しそうな顔でいるその人は、昨日類から聞いた彼女の特徴と全て一致していた。信号が青に変わって、オレもその女性も歩き出す。すれ違ったその一瞬で見えた紫色のピアスに、胸がざわついた。
    「あの女……」
     振り返ったときには女性はすでに遠くへ歩いていってしまっていたが、小さな背中は捉えることができた。考えるよりも先に足が動く。
     女性のあとをついていって歩いた道は、オレがさっき歩いていたそれと全く同じ。この時点で予想は当たっているも同然だった。
     やがて女性は類の住むアパートに辿り着き、軽やかに階段を上がった。少し遠くから、手鏡で可愛らしく髪の毛を整える姿を見つめる。
    「……ふ、ふはは」
     いかん。声が聞こえてしまったらどうするんだ。というか失礼だぞ。幼気な女性を嘲るなんて。
     可哀想な人だ。類はオレが好きなのであって、あなたを好きなわけではないというのに。
    ***
     ここまで来たらもう本格的に類と女性を別れさせて、類をオレの恋人にするしかないのではないか。その方が類もオレも、そして女性も幸せになれる。うん、きっとそうだ。そうと決まれば行動あるのみ。類と沢山遊んで、会って、飲んで、そこはかとなく想いを通じ合わせねば。
     こうして、今までよりも多く類を誘った。類は大学での大事な用事がない限りは必ずオレに会いに来てくれた。女性よりもオレに会いたがっているのが丸見えで本当に愛おしく思う。女性の前では猫をかぶっているんだろうな、どうせ。
     そんな楽しく素敵な日々を数週間過ごしたある日、いつものように類を飲みに誘ったら「今日は彼女と飲むから」と断られた。さすがに向こうとも色々と調整しなければならなかったか。大変だな、類も。
     仕方ない。せっかく外に出てきたからたまには1人で飲むか。そう思って、とある居酒屋に入った。ここは類の家から近い、よく行く居酒屋だった。店員に案内されながら狭い店内を進む。その途中で、聞き慣れた声がオレの耳にたしかに届いた。
    「……類だ」
     前にいる店員に「すみません、友人がいたので」と言ってからその声が聞こえる席に真っ先に向かった。
     あれは類だ。絶対そうだ。オレが聞き間違えるわけがない。
    「類!」
    「……おや、司くん? 偶然だね」
    「……? えっと……」
     類の真正面に座る女性。類の彼女。可哀想な女性。
    「紹介するよ。前に話していた、僕の彼女」
    「……あ、えっと、こんばんは、佐藤といいますっ」
    「…………。初めまして、だな。オレは天馬司。類からよく話は聞いているぞ。優しい彼女だとな」
    「えっ」
    「本人の前で言うのはやめてくれないかい?」
    「いいじゃないか! 褒め言葉はしっかり伝えるべきだぞ!」
     佐藤。佐藤か。すまん、「初めまして」ではないんだ、オレにとっては。
     類に会いたい一心で来てしまったが、どうしたものか。一緒に飲んでもいいのだろうか。と思っているうちに類が「せっかくだし」と誘ってくれた。
     佐藤さんと類が荷物を端によけてくれたが、さて、どちらに座ろう、と瞬時に思考を巡らせる。
     …………。類を真正面から見ていたい。佐藤さんの隣にしよう。そう、それで……。いっそのこと、佐藤さんの気を引いてしまえばいい。類が佐藤さんと仲良く話す姿をずっと見ているくらいなら、そうした方がずっといい。とにかく彼女が類から離れてくれれば、それで。
     ここにいる間、とにかく良い人を演じ続けた。女性なら誰もが喜ぶであろう言動に仕草に態度。そこに、高校時代の思い出をねじ込む。負けず嫌いだからどうしても、佐藤さんが知らない類を語って上に立ちたいという思いが出てきてしまう。
     ほら、オレほどの人間ならこうしてすぐ、好きな人の彼女とも仲良くなれてしまう。ズキズキと痛む胸をなかったことにして紳士的な男を演じるなんて朝飯前だ。
    ***
     それからというものの、類と遊ぶ回数が格段に増えた。思い出話に花を咲かせて、大学の授業の話をして、将来の話もして。オレにはもう類といる未来しか想像ができなくなってしまった。
     一度、類と佐藤さんとの関係に亀裂が入っているかどうか聞いてみたら「心配ないよ。僕は君に会いたくて会いに行ってるんだから、彼女も理解してくれている」という返事が返ってきたから、安心したような、拍子抜けというか、よくわからん気持ちになった。そろそろ佐藤さんはオレと類の唯一無二の関係性に気付いてもいい頃ではないか? さすがに鈍感が過ぎる。
     ――もう、はっきりさせるしかない。既成事実を作るしかない。
     そう思って、類の家で飲むときに思いきって聞いてみることにした。コンビニでいくつかお酒とおつまみを買って、レジ袋を片手に類の家に向かう。
     インターホンを鳴らすとすぐに類が扉を開けて中に入れてくれた。外の冷たい空気と違って暖房であたためられた部屋は居心地が良くて安心する。
    「ごめん、全然片付けていないんだけど……」
    「いつものことだろう。全く、佐藤さんに対してもこうなのか?」
    「それはさすがに」
     あの類でも体裁を保つために頑張って片付けることもあるんだな。やはり彼女の前では格好つけているらしい。つまり本当の類を知っているのは、この散らかった部屋を知っているのはオレだけ。なんという優越感。
     さっそくお酒とおつまみをテーブルに広げて、類がこの前借りてきたという映画のDVDのパッケージを見せてきた。
    「ほう。いかにも類が好きそうなDVDだな」
    「だろう? 司くんも気に入ると思って」
     その通りだ。
     ……さて、映画を見始めたら酔いも相まってなかなか真剣な話をすることができなくなる。聞くなら今しかないか。
    「……なあ、類。最近佐藤さんとはどうだ?」
    「どうしたんだい、急に」
    「うーむ……。単刀直入に言わせてもらうが……。類は可哀想な奴だな」
    「? どうして?」
     今は2人きりなのだから、無理して佐藤さんに気を使う必要もないんだぞ。
    「好きでもない人と付き合っているからだ」
     類の目が見開いた。ああ、やはり、付き合っているのは彼女を想っての行為だったんだな。本当に優しい奴だ。オレは類のそういうところも好きだが、そろそろ正直になって、別れる決断をするべきだと思う。
    「佐藤さんはたしかに素敵な女性だが、類はそこまで彼女を愛してはいないんだろう?」
     黙ったまま一言も返事をしない類。お酒を飲む手も止まっていて、なにかを考え込んでいるように見えた。
    「本当は、オレと付き合って、オレと愛し合っていたい。違うか?」
     やっと言えた。やっと、この恋を本当の意味で叶えることができるんだ。どう考えても類は高校のときからオレに惹かれていたし、大学は別になっても連絡はまめに取り合っていたし、どんなときも「司くんの代わりはいない」と、かけがえのない存在としてオレを大切に想ってくれていた。あんな女と比べるまでもない。類の1番は今までもこれからもオレしかいないんだ。
    「違うに決まっているじゃないか」
    「………………。は?」
     なんだって? 今、なんて? 類はなんと答えた? そんな、平然とした態度で、声で、当たり前だというような表情で、なにを。
    「……? だって、友人同士じゃないか、僕達」
    友人。ゆうじん? ユウジン????
    「ち……違うッ! 違うだろう⁉︎ だって、そんな、オレ達は……ッ!」
    「どうしたんだい、司くん。酔っておかしくなった? 水を持ってくるから待っててくれ」
     焦った類がキッチンに向かった。なにも見えない。なにも食べる気にならない。だって、類はオレが好きで、オレも類が好きで、両想いなら、付き合いたいと思うのが当然の思考じゃないのか?
     ――オレは、おかしいのか?
    「司くん、はい」
    「…………」
     水の入ったコップを受け取って、一気に飲み干した。頭の靄は全く消えない。
    「……オレは、おかしくなんかない」
    「……司くん?」
    「おかしくなんかないッ! おかしいのは……おかしいのは……」
     類が、こんなこと、言うわけがない。
     だったら、おかしいのは、オレじゃなくて――。
    「…………類だ」
     「え」と驚愕する類を力いっぱいに抱きしめた。オレの思い描いていた、本当の類に戻るように祈りながら。
    「つ、司くん、どうしたんだい、苦しいよ」
    「あの女のせいだ」
    「え……?」
    「あの女が類をここまで洗脳したに違いない。あいつさえ……いなければ……」
     全て見えた。分かった。あの女さえどうにかして類のそばから離れさせれば、類はオレだけを愛してくれる。あの女がいるから類は素直になれないんだ。本当はオレしか好きではないのに、無理して付き合わされる類が哀れでたまらない。
     待っていろ、類。オレが取り戻してみせるからな。
    ***
     1週間後、類と女を飲みに誘った。いつもの居酒屋の前で待ち合わせをする。オレがそこに着いたときには既に2人は仲睦まじく微笑み合っていた。
     笑え、笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え。いつものオレでいろ。憎むべき相手が目の前にいても。
     「待たせたな!」と言うと、2人はこちらを向いた。
     ――――確実に、嘲笑われた。
     あの目は、オレを蔑む目だった。女の、両の目が。「かわいそうだ」と言っている。
     オレの気持ちを知っているのか? なんなんだ? なんだこの女の形をしたサイコパスは?
     決めた。殺す。確実に息の根を止める。お前さえいなければ全てがうまくいったんだ。類の本当の幸せを手に入れるためにはお前の死が必要なんだ。
     飲み始めて少し経ったあと、類と佐藤さんが同時に席を立った。お手洗いに行くらしい。その隙に、女の飲んでいたレモンサワーに粉末状の薬を入れた。睡眠薬。副作用が少しあるらしいが気にしない。とにかく眠りについてくれればそれでいい。
     帰る頃には女はとても眠そうにしていて、店を出た瞬間に倒れ込んだ。
    「おや、大丈夫かい? おかしいな、そんなに飲んでいなかったはずだけど……」
    「類、佐藤さんはオレが送っていこう。幸い最寄り駅が近いんだ」
    「いや、でも……」
    「大丈夫だ」
     無理矢理になってしまったが不審に思われないだろうか。少し心配になったが案外容易く類は女をオレに手渡した。
     女を背負いながら道を歩く。家になんて向かわない。人がいない路地裏に足を踏み入れる。途中自動販売機で水を買って、女を地面に座らせた。冷たい壁に背中を預けて、隣に座る。
     口元が緩むのを抑えきれない。
    「…………ん…………」
    「ああ、起きたか」
    「……? 私……って、え、天馬さん⁉︎」
    「おっと、無理して立ち上がらない方がいいぞ。相当酔ったのか、歩けなくなっていたからな。ほら、水だ」
    「あ、ありがとう……」
     冷たい水を一口飲んだ女は辺りを見回して、不思議そうに首を傾げた。
    「酔った……って、私、そんなに飲んでたっけ」
    「はは、それすら覚えていないのか」
    「だって、頭も別に痛くないし……。あ、でも、ちょっとクラクラする……」
    「大丈夫か?」
    「うん……。ごめんなさい、迷惑かけちゃったみたいで」
    「気にするな! オレだって酔うことはある」
     馬鹿な女だ。やはり、オレの見立ては間違っていなかった。こんな奴、類には絶対に似合わない。
    「…………あれ? 類くん、ッ、は」
     ――ブチッと、なにかが切れる音がした。
    「――――ッ! ゃ、な、ッッ、――!」
    「ふ……ふは、ははははははははははははッ!! 愉快! 愉快だ! 今まで類を苦しめてきた奴がもがく姿というのは! なんともッ!!」
     倒した女に覆いかぶさって力の限り首を締めつける。ああ、細い首だ。こんなに締めやすいのか、首というのは。
    「その名前を二度と口にするなッ!!!! お前に類の名を呼ぶ権利なんて元々なかった! あいつはオレのものだった! それなのに! それなのにッ!! お前が!!!!」
    「や、め……ッ、ッいき、できっ」
     無様だ。本当に。もっと早く、オレと類の関係を、オレ達の気持ちが通じ合っているのを知って身を引いていれば、こんな結末を迎えることはなかったのに。
    「お前が死ねば、オレも類も幸せになれるんだッ! お前だけが邪魔なんだ! だからとっとと――」
    「――――るい、くッ――――」
    「…………は?」
     最期にその名を口にして、女は息絶えた。
    「は…………。はは、はははは、なにを、最期の最期に、類と、言ったのか? お前が? オレ達の幸せを奪う、お前が????」
     全身の震えが止まらない。両手で顔を覆う。怒りと、憎しみと、もう、よくわからない感情ばかりごちゃごちゃと溢れ出してきて、呼吸ができているのかさえわからない。
    「………………。耳……」
     死体につけられた、紫色のピアス。
    「…………ッ! こんなもの……ッ!!」
     力任せに引っ張ったら醜い血が耳から垂れてきて、楽しくて楽しくて、もう片方のピアスも、耳ごと取れてしまえばいいのにと思いながら奪い去った。取れたピアスをその辺に捨てて、立ち上がる。
    「……類に、伝えないと」
     ポケットに入れたスマホを取り出してすぐに類に電話をかけた。1コールで「もしもし」という声が聞こえてきて、思わず笑みがこぼれる。
    「類! オレだ!」
    『さっきぶりだね。どうしたんだい?』
    「オレ達の邪魔をする女を葬り去ったッ!!」
    『…………は…………?』
     ああ、類が驚いている。まさか本当に、幸せを手にできるとは思っていなかったのだろう。分かるぞ、オレだって、この幸せを自分の手で掴み取れるなんて思っていなかった。
    『つ……かさくん、なにを、』
    「なあ、今からお前の家に行っていいか? 今すぐに会いたいんだ」
    『………………。いいよ、おいで』
     やった!
     通話を切って、駆け足で類の家に向かう。冬の寒さなんて全く気にならない。熱くてたまらない。この高揚感は今まで味わったことがない。ああ、早く! 早く! 類に会いたい! 抱きしめたい! キスをしたい!
     ドンドンと扉を叩く。ガチャ、と扉が開いた瞬間に見えた愛しい人にすぐに抱きついた。後ろで扉が閉まる音が聞こえる。
    「……司くん」
    「類! 会いたかった! もう、あの邪魔な女はいないんだ! だから、今度こそ本当に……!」
    「本当に、殺したんだ?」
    「当たり前だろう!」
    「…………そ、っか。そうか」
    「……? どうした、類。嬉しくないのか?」
    「いや…………。……うん、司くん、顔、見せて?」
    「……?」
    「フフ……。ねえ、これからはずっと一緒だね、僕達」
    「……!!」
     すごく優しくて、穏やかな笑み。目を逸らせない。
     好きだ。好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ。本当に、オレは類が大好きだ。やはり、洗脳されているというのは真実だったんだ。やっと解けたんだ。だからこうして、類はオレだけを見てくれているんだ。
    「――ああ! ずっとずっと、一緒にいよう。愛しているぞ、類」
    「ありがとう、司くん」
     ギュウっと類に抱きしめられた。あたたかくて、幸せで、涙が出そうになった。

     ――この日以降、オレが外の空気を吸うことは終ぞなかった。
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