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    【夕立】両片想い🎈🌟
    夕立のりぼんというボカロ曲パロです。

    夕立「……む?」

     夕方、ワンダーステージでの練習を早めに切り上げて更衣室へと歩き出した司は、隣にいる類にも聞こえる声でそう短く呟き、空を見上げた。ほんの数分前までは溶けてしまうほどの熱と眩しい青空が広がっていたというのに、練習を終えた瞬間にその景色はなくなっており、代わりに灰色の雲と湿った空気が彼らを覆っていた。

    「……これは……」
    「……嫌な予感がするな……。おい、類。さっさと更衣室に……」

     水が満タンに入ったバケツがひっくり返ったような衝撃を生む雨は、この直後に司達に襲いかかった。あっという間にずぶ濡れになり、突然の出来事に彼らは呆然と立ち尽くしたまま見つめ合う。そして、同時に吹き出した。

    「夕立というやつか!まんまとやられたな!」
    「フフ、なんだかこの現状が愉快に思えてきてしまうね。とりあえず風邪をひく前に更衣室に入ってしまおう」

     全力で走った類と司は笑顔のまま更衣室へと辿り着き、ガチャン、と扉を閉める。狭い部屋のなかに響き渡ったのは2人の荒い呼吸音のみ。司が下を向いて両膝に手をつけば、毛先からポタポタと滴がこぼれ落ちた。扉の外からは凄まじい量の雨粒が作り出す轟音が響き渡っていた。

    「……はあ、はあ……ッ。……ふう、止むまではここで雨宿りだな」
    「……そうだね」

     ぐい、と右腕で顔についた滴を拭い、服の襟部分をパタパタと揺らす。水が相当染み込んでおり、練習着は司の身体のラインに沿ってぴったりとくっついていた。その感覚に耐えきれず、袖の部分を両手でギュッと絞って少しでも水の重さをなくそうと試みた。腹筋と細い腰が露わになる。

     本来ならすぐにでも着替えて類と談笑するのだが、司には今その余裕はない。

    (水も滴る良い男、とはよく言ったものだな。…………今、類を見ては、いけない)

     本能がそう叫んでいたのだ。類に対して邪な感情を抱き続けてきた司にとって、この空間は自分を惑わす毒でしかない。類の吐息、狭い室内、身体に纏わりつく汗と雨。夏という季節は、否応なく司の心臓の動きを速くする。すぐ近くにいる類は目にしないように意識し、早足でロッカーへ向かおうとした。

    「司くん」

     ビクッ、と肩が跳ねる。反射的に振り返ってしまいそうになったが、なんとか堪えて「なんだ?」返事をした。

    「なぜ僕を見ないんだい?」
    「は…………」
    「急に動きがぎこちなくなっているよ。どうして?」
    「ど、どうして……っ、て……ッ⁉︎」

     体重が後ろへ引っ張られたのは何故なのかと考え始めたときには既に、司は類によって正面を向かされていた。掴まれた右腕がジンジンと痺れるように熱を帯びる。

    「…………る……っ」
    「ねえ。僕を見て?」

     類の獰猛な瞳が司を射抜いた。

     金縛りに遭ったかのように動かなくなった身体は類の力によって強引に動かされ、扉へ向かう。そして、息つく間もなく背中がそこへ押しつけられた。もはや司には何が起きているのか、何故こんなことになっているのかを考える余裕はない。

     濡れた前髪の隙間から、視線がぶつかる。

    「…………ッ!!」
    「逃げないで。もう分かっているんだろう?」
    「な……にが…………ッ、ぁっ」

     類の細長い指が司の服をめくり、ツゥ、と腰のラインに沿って滑った。ゾワゾワとした感覚に司の口から甘い声が漏れてしまい、思わず類と距離を離そうと両手で彼の肩を掴む。しかし、力はさほど入っていなかった。

     無意味な抵抗。

     さわ、さわ、と指で与えられる刺激に、ギュッと閉じた瞼からは涙が落ち、身体はピクピクと痙攣する。全ての意識がそれに集中していた司は気づけなかった。類の顔が、近づいていることを。

     すっと類の左手が司の右頬から耳にかけての範囲を包み込んだ。雨にあたったにもかかわらずあたたかくなっていたそれに驚いた司は、閉じていた目を開けて前を見る。

    「――――ん、っ」

     唇に触れた、湿った感触の正体を理解した瞬間、腰が抜けズルズルと膝を立ててしゃがみ込んだ司は、両足の震えを抑える余裕もないまま過呼吸状態のように息を一層荒くした。その様子を見下ろしていた類はゆっくりと司に視線を合わせたあと、足の間に身体を入れてぐっと距離を縮める。背中に扉がある司に逃げ場はない。

    「…………ほら、やっぱり」

     「僕のこと、意識してた」と嬉しそうに呟いた類を至近距離で見て、ぶわっと顔が熱くなる。言葉が出てこない。出てくるのは、夏の熱い空気のような呼吸だけ。

    「――内緒だよ」
    「……なに、を」
    「決まっているじゃないか。こんなことしてるって、誰にも知られたくはないだろう?」

     その響きは司の耳を強烈に刺激し、快感にも似た甘美な味を全身に広げた。はあ、と息を吐いた類は、再び司の唇に蓋をする。それが離れる頃には、彼らの口の端から透明な唾液が雨に混ざって顎を伝っていた。唐突に訪れた思い人からの深い交わりに、司はなにも考えられなくなる。触れ合った舌が火傷をしたかのように熱い。扉を隔てた先に聞こえる雨音すら、耳に届かない。

     類は艶やかに微笑んだあと、司の耳に顔を寄せた。ふっ、と息を吐くとピクッと動いた司に満足して、今まで聞いたことのない猫撫で声で呟いた。

    「愛してる」

     時が、止まる。

     司はまだ、少しも動けない。

    「…………聞こえた?」

     その問いは単なる確認か、それとも、境界線を越えるか否かの、最後の忠告か。

    「………………。聞、こえ、ない」

     本当に聞こえていなければ、「なにが?」と問い返す場面。そもそも、あの距離で囁かれた声が聞こえないわけがない。それでも司は「聞こえない」と答えた。ゆらめく瞳は突然の出来事に頭を整理出来ていない司の困惑を示しているようで、類は返事を聞いて、とてもいじらしそうに笑い「そう」とだけ言った。そして立ち上がり、颯爽と練習着を脱ぎ始める。その光景を、司が見れるはずもなかった。

    「早く着替えないとえむくん達を待たせてしまうよ?」

     司は一歩先の関係に進むことを恐れたが、その境界を確実に超えた先程の行為は自分達を捉えて離さない。曖昧でチグハグなまま終わった数分間の出来事は、類と司をどこまでも蝕む。なにもかも、夏のせいだった。

     ――司が類からの愛の言葉に応えない限り、この背徳的な行為が止むことはない。
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