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    【優しさ】🎈🌟
    ※死ネタ
    突然別れを切り出した🌟の真意を、そこに隠された想いを、少しも見抜けなかった🎈。

    優しさ 司くんから別れを切り出されたのは、期末試験前の放課後、空き教室で一緒に勉強をしているときだった。とにかく外が茹だるように暑かったから、2人して制服の上のボタンを外し、冷房の涼しさを感じようと窓を閉め切って22度の気温を保っていたのを覚えている。下敷きでパタパタと風を吹かしながら、あいている手で数式を書いていた。

     特にかしこまることもなく、「今日の夜ご飯はなにが食べたい?」と聞くくらいあっさりと、日常的に繰り広げられる会話の始まりを告げるように言われた「別れよう」という言葉。10秒かけてその意味を脳で理解したあと、シャーペンを置いて目の前にいる彼を見た。動揺しているのをなんとか隠そうと意識はしていた。

    「……どうして?」

     「いいよ」と簡単に即答出来るはずがなかった。どうするにせよ、まずは理由を聞かなければ話は広げられないと思って努めて冷静に問いかけると、司くんはノートに文字を綴るのを止めずにさらさらと話を続けた。

    「この先オレと付き合っていても、お前に良いことが起こらないからだ」
    「……は?」
    「オレじゃ類を幸せに出来ないと分かってしまったんだ」

     目線は合わなかった。その物言いに沸々と怒りが湧いてきた僕は激昂しないように出来るだけ気持ちを抑えながら、静かに気持ちを伝えた。しかし語気は段々と強くなってしまい、自然と表情も険しくなっていってしまった気はする。

    「……勝手に決めつけないで欲しい。僕にとっての最上の幸せは、君のそばにいることだ。こうして一緒にいるだけで、僕は満たされる。だから、そんなことを言うのは……」
    「いや……。いいや、絶対、お前はオレといない方が良い。これ以上、オレ達は引き寄せ合ってはダメなんだ、類」

     ここで初めて、司くんが僕と目を合わせた。確固たる信念で埋まった瞳にたじろぎそうになったが、こんな勝手な意見に流されてはいけないと思って、眉間に皺を寄せて力強く見つめ返す。22度の室内にもかかわらず、変な冷や汗をかいていた。

    「そんな理由じゃ、受け入れられないよ。一体なにを根拠に……」
    「頼む」
    「…………」
    「頼む。類。オレと別れてくれ」

     ――返事はしなかった。代わりに勉強を再開し「早く試験範囲のドリルを終わらせて帰ろう」と促すと、司くんは少し寂しげな表情をしたあとに「そうだな」と微笑んで話を切り上げた。本気で「別れたい」と思っているのは不本意ながら伝わっていたが、理由をもっと明確に教えてくれないと僕は引き下がれない。だって僕は今でも司くんを愛していて、この先の未来もともに過ごしていきたいと思っているのだから。

     とにかく、「類が嫌いになったから」といったニュアンスの言葉が出なかったことに心の底から安堵していたが、それが僕を傷つけるものだと分かっていたから正直に話せなかったのかもしれないと思うと、モヤモヤした気持ちはさらに深く、大きく広がっていった。優しい彼ならあり得る話だと納得してしまったからだ。

     その日の帰り道は別れ話なんて全くなかったかのように、いつも通り仲睦まじく会話をしながら歩いた。試験が終わったらなにをしたいか、夏休みはどんなショーをしたいか、最近家族でどこに遊びに行ったか、など、本当にたわいのない話で盛り上がって、2人並んで暑さが居座る夕方のアスファルトを踏みしめていた。

    「……なあ、類」

     今思えば、僕を呼んだその声はやけに寂しくて、冷たくて、いつもの彼らしからぬものだった。

    「なんだい?」
    「お前は……オレが好きか?」
    「……?ああ、好きだよ」

     なにを今更、と多少驚きつつ即答すれば、司くんは聞かなくても分かりきっていたのか、「そうだよな」と言ってそれ以上話を広げなかった。なぜその問いを投げかけてきたのかよく分からなかったが、別れを切り出されたときに感じた靄がかかった気持ちを少しでも払拭するために、今度は自分から彼に問いをぶつけた。

    「司くんは?」
    「……オレ?」
    「そう。司くんは僕のこと、好き?」

     不安が表に出ていたのかその声は震えてしまっていて、とても情けなく思った。今までなら聞く必要もないくらい、見ているだけで愛が伝わる関係だったのに、あえてこれを口にしたのはそれほど僕が別れという可能性を遠ざけたかったからだろう。案の定司くんは僕のように即答はしなかった。まつ毛を伏せてなにかを考え込んでいるように映り、より一層胸のざわつきが大きくなってしまった。

     しかしそんな不安も杞憂だった。司くんはぐっと拳を握りしめたあと、横にいる僕を見ながら答えたのだ。

    「好きだ。……本当に、好きなんだ、類が」

     嘘をついているようには見えなかった。心の底から安心した僕は上機嫌で彼の手を握り、人目も気にせず浮かれた状態で夏の夕暮れに向かって歩き出していた。

    「小っ恥ずかしい奴め……」
    「フフ、嬉しくてつい」
    「…………そうか…………」

     彼の汗ばんだ手は湿っていて、あたたかくて、なんの不快感も抱かなかった。とにかく、この時の僕は「自分のことが好きなら、何故"別れたい"などと言い出したのだろう」という同然の疑問すら思い浮かばなくて、このまま幸せを噛み締めながら生ぬるい風を享受していた。――してしまっていた。

     司くんが自殺したのは、それから3日後のことだった。
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