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    ワンライ【もどかしい】
    ※両片想いな🎈🌟。
    ※いっぱい頑張ってアピールしてるのに全然気持ちが🌟に届いてなくてもどかしく思う🎈。しかし、実は🌟は……というお話。

    ワンライ【もどかしい】 類が司に対して弩級の苛立ちを感じたのは、これが初めてだった。

     類は司に好意を抱いた1ヶ月程前からずっと、告白をせずとも他の人とは違う特別な感情を抱いていることくらいは気づいて欲しい、少しでも自分を対象として見てほしいという、女々しく面倒くさい想いを抱えていた。臆病だったからだ。素直に気持ちを伝えた結果今のような純粋でかけがえのない友人関係が壊れてしまうのが恐ろしかったのだ。とはいえ、全く意識されないのもそれはそれでプライドが許さなかったため、類なりに一生懸命アピールをしていた。

    「類!」

     昼休み、チャイムが鳴り終わると同時に類のクラスへやって来た司は、一直線に類のもとへ歩いてきて笑顔を見せた。思わず類の口から「フフ」という笑みがこぼれる。

    「随分お早い到着で」
    「すぐにでも次のショーの脚本の話をしたかったんだ!そこに座るぞ!」

     空気を読んだのか、類の前の席の女子生徒は既にそそくさと椅子から立ち上がって少し離れた友人のもとへと向かっていた。類と司の仲の良さはもはや学校中の誰もが知っている。有り余る優越感と悦びを抱きながら、類は野菜の入っていない弁当箱を広げて「いただきます」と手を合わせた。
     ここのセリフはああしよう、このシーンはもっと派手にした方がいいのではないか、など真剣に議論を交わしてキリのいい部分まで辿り着いたあと、司が壁にかけられている時計を確認する。

    「ふむ。案外時間が余ったな。早めに戻って……」
    「司くん」

     立ち上がるために机の上に両手を置いた司に声をかけて、類は彼の左手に自分の右手を重ねた。じんわりとあたたかい熱が伝染する。

    「……?」

     不思議そうに類を見る司を気にせずに、彼の手の甲をするりと撫でる。そして、掬い取るように手のひらと手のひらを合わせてキュッと握った類は、重なった互いの手をじっと見つめた。

    「なんだ?地味にくすぐったいんだが」
    「んー……」

     視線を司に移して、隠している熱で満たした両目を彼に見せる。すりすりと親指で肌をこすり、類は手首を器用に動かして自分の指と司の指を絡めた。いわゆる恋人繋ぎにも似たそれに、偶然その光景を目にした男子生徒がギョッと目を瞠った。

    「君の手はあたたかいなあ」
    「ああ、よく言われる」
    「誰に?」

     表情はにこやかなままでも、即座に聞き返した類の声には確実に怒りが含まれていた。無意識に司の手を握る力が強くなっていることにも気づかずに、彼の返事を待つ。

    「?咲希と……あとはえむや寧々か。ショーで手を繋ぐシーンを取り入れるたびに言われるぞ」

     「寧々にはちっちゃい子どもみたいな体温だなと馬鹿にされるが」と答えた司にほっと胸を撫で下ろして、「なるほどね」と相槌を打つ。

    「……と、もうこんな時間か。じゃあまたあとでな、類」
    「うん。また」

     いとも簡単に離れていった体温を名残惜しく感じながらも、少しでも長く司と一緒にいることができた幸せと多少のもどかしさを噛み締めて、類は司に触れていた右手をじっと見つめる。

    (…………これでも、表情1つ崩れないか。あんなこと、君にしかやらないのに)

     何度も想像してきた司の慌てふためく顔や赤面した顔はいつ現実世界で拝めるのかとため息をついて、類はごつんと机に額をぶつけた。

    ***

     その後も類の不毛なアピールは続いた。

     並んで歩くときに肩が触れるまで距離を詰めたり、さりげなく頭を撫でたり、「寝不足だ」と言って後ろから抱きついてみたり。全て「相手が天馬司でなければ絶対にしない行為」だと、2人の様子を見ていた誰もが察することができるもの。しかし、司は動揺も驚きもせずにいつも通り類のスキンシップを享受して「いい加減徹夜はやめろ」と叱りつつも、類の頭を優しく撫でるのだった。

     あまりのもどかしさに、類には限界が近づいていた。

     だから、昼休みの屋上で2人きりでいるときに強い風が吹き荒れて、座っていた司がバランスを崩した瞬間に「自分もバランスを崩した」という逃げ道という名の偶然を装い、わざと彼に覆いかぶさって、耳の横に手をついた。

    (……見たことある)

     何度も夢で見た光景。司を押し倒して、互いの距離を詰めて、その白く綺麗な肌に手を滑らせて、顔を近づけて、それから――。

     唯一夢と違うのは、司の表情とセリフだった。

    「……?なにぼうっとしているんだ。類がどかないとオレが起き上がれないだろう」

     訝しげに類を見る司は、ここまで類に接近されても、熱のこもった視線を浴びても、「友情」という範囲を超えた気持ちを感じる素振りもなく眉をひそめる。

     ピク、と類の右頬が引き攣り、右目の端が細められた。

    「おい、さっさと…………ッ、え」

     両の手のひらを順に浮かせて肘から下の部分をぺたりと地面につけた。鼻と鼻がくっつきそうなほど距離が縮まり、司の口から困惑の声が漏れる。

     重力に沿って垂れ落ちた紫色の髪の毛が司の肌に触れていた。それだけで背筋にゾクゾクとした電流が走り、類は、はぁ、と熱い息を吐いた。唇でその吐息を感じた司がビクッと肩を揺らす。

    「ち、近い、んだが……」
    「そうだね?」
    「……え、ちょ……ッ」

     ――キスをしないと伝わらないのだろうか。

     心の中でそう呟いて、沸騰した思考回路に全てを委ねて徐々に唇を寄せると、司はギュッと目をつぶってプルプルと震え出した。

    「………」

     それを見た類は唇が重なる寸前で動きを止めて、コツンと額と額を軽く合わせたあとにゆっくりと司から離れていった。

    「…………は?」
    「……今、どんな気持ち?」
    「?」
    「いいから」

     小突かれた額を両手でさすりながら「どんなって……」と呟いたあとに「随分距離が近いな、と」と答えた司の目は純粋そのもので、類にとっては目を背けたくなるほど眩しいものだった。

    (…………そんな目で、僕を見ないでくれ)

     なぜか居た堪れなくなり「先に教室に戻る」と言い残して、類は早足で屋上から出て行った。

    (……鈍感にも程があるだろう……ここまでしてもダメなら、なにをすれば……)

     震える司を見て「嫌われたらどうしよう」と急に臆病になってしまった自分に対する落胆と、なにも気づかない司に対する最高潮の苛立ち。これが冒頭の描写の正体である。

     入口の扉のすぐそばに立っていた人影にも気づかずに、類は歯を食いしばりながら教室へと戻っていった。

    ***

     屋上に寝そべり、青空を眺める1人の男。その景色を遮ったのは瑞希だった。

    「意地悪にも程があるんじゃないの、司先輩」
    「……暁山。覗き見か?」
    「覗き見とは人聞きが悪いなあ。屋上に行こうとしたら超ステキな胸キュンシーンが見えたから、邪魔しないようにしてたの!」

     スカートの裾を押さえながら司の近くに座った瑞希は、呆然としていた司の表情が徐々に悦楽に染まっていく様を見て苦笑した。

    「……ふ、ふはは……ッ」
    「うわあ……。さすがに類が可哀想だよ。そろそろリアクションしてあげなよ、あのアピールに」
    「本ッ当に類は可愛いな……」

     瑞希の助言が聞こえていないのか、司は独り言のようにそう呟いて右腕で自分の口元を押さえた。両目は蜂蜜のようにドロドロに溶けており、自分に覆いかぶさってきた類の幻影を映し出している。

     司はとっくに類の気持ちに気づいている。しかし、あえてそれを隠していた。

    「ついに、キスをされそうになった」
    「見てたよ〜。これは来たなってワクワクしてたんだけど」
    「本当にされたらオレも気持ちを受け入れて恋人同士になってもいいと思ったが……」

     「大事な場面で臆病になるところも愛おしくてたまらん」という声がカーディガンに吸い込まれたところで、ようやく司は起き上がった。瑞希はため息をついて「あ〜!」と大声を上げる。

    「もうさ、全部事情を知ってるボクが1番もどかしいんだけど!両思いなんだからいいじゃん!早く付き合っちゃいなよ〜」

     身体をはたきながら立ち上がった司は平然とした態度で「このもどかしさがいいんじゃないか」と返事をした。

    「……えっと?」
    「気持ちが伝わらなくてもどかしい!気づいてほしい!どうして司くんは分かってくれないんだ!……と、もどかしい感情を隠しきれずに顔に出ている類を見るのが、愉しくてしかたない」
    「…………ソウデスカ」

     瑞希は「演技が上手いのも困り物だ」と思いながら、類に同情した。そして、興奮を隠さない恍惚とした表情に若干引きながら、教室へ戻ろうとする司を見送った。

    「……キスしそうになったときに嫌がったり逃げようとしなかったりした時点で気づくべきだったかもね、類は」

     瑞希は再び、類に同情した。君が好きになった人は相当面倒くさい男なんだよ、と。

    ***

     ゆっくり階段を降りながら、司は自分の表情筋を引き締めることに全力を注いでいた。ついに類が大きな行動に出たことに歓喜し、思い出すだけで口元が緩んでしまうのをなんとかしなければ、と、とりあえず手で口を覆う。

    (……もうすぐだ。もうすぐ、オレは類と…………ああ、しかし、この悦楽を得られなくなるのももったいない)

     「ここまできたら、言葉で言わないと伝わらないぞ、類」と誰にも聞こえない小さな声で囁いて、司はステップを踏みたくなる衝動を抑えるように早足で教室へと戻っていった。
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