キャンディ蝉が鳴き始めた。もう少しで梅雨も明けてそろそろ夏本番である。
「よお…」
棒付きキャンディを口に含んだ日下部が後ろから声をかけてきた。
「あぁ…お前か…おはよう」
「なんだ?俺じゃあ不服か?」
「…いやそうじゃない」
高専にある自販機と喫煙所。そこに置かれたベンチに足を伸ばして空を見上げだ日車は視線だけ日下部に向ける。
「ところで日下部、お前タバコやめたんじゃなかったのか?」
「吸いにきたんじゃねーよ」
じゃあなんだ?と日車が今度は体ごと日下部の方へ向いた。ほんの僅かな口の隙間をぬって日車の口の中に何かがカコンと入ってきた。
「っ!おまっ!なにすんだよ」
慌てる日車を気にもせず、日下部が棒付きキャンディを差し込んできた。
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