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    艾(もぐさ)

    雑多。落書きと作業進捗。

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    艾(もぐさ)

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    去年のいつ頃か忘れたけれど、Twitterにツリー掲載したこぎみか小噺。創作審神者♂︎やら捏造やらやりたい放題、なんでも許せる人向け。
    この本丸ってダイシンコーはどうしたんでしょうね、分かりません。

    #こぎみか
    tendingToOnesOwnGrave
    #小狐三日
    threeDaysOfLittleFox
    ##刀

    背景、親愛なる主 あるところに三条太刀が顕現しない本丸があった。
    審神者は青年が二人。二人一組で片方が霊力持ち、もう片方がそれを行使する、という役割分担制の一風変わった本丸だった。
    曰く、自分たちは双子なのだからこの形でしか運営できないのだという。それにしては全く似ても似つかない、真逆と言える二人の髪色の違いに周囲は首を傾げたが、異口同音に「二卵性だ」とハモられてしまえば、そういうものかと納得せざるをえなかった。片方は黒にも似た深い藍の、もう片方は白銀の髪をしていた。
    本丸では、基本審神者の顔が他者に見えぬよう結界の織り込まれた霊布で伏せられていたが、他にも当人の名も伏せられている。だから“主”などという呼称が用いられるが、その該当者が二人いるのでは少々厄介だ。
    そういうわけで、その本丸では霊力を持つ方を“審神者”、行使する方を“主”と呼ばせていた。
    一部の、審神者を独自の呼称─大将だったり主君だったり─で呼ぶ刀剣が口に馴染むまで戸惑いはしたが、それは一瞬のことで、数日もすれば皆慣れた。それもその筈で、此処に顕現した刀は皆一様に此処が初めての本丸だ。「そういうものなのだ」と言われれば、誰もみな「そういうものか」と納得した。どんな形であろうと彼らが自分を振るう者であることに変わりはなく、自身に欠陥さえなければその成り立ちに疑問など持つ筈もなかった。
    呼称でいうと、白銀の髪の青年が審神者で、深い藍の髪の青年が主だった。どちらが兄なのか?と問えば、二人は決まって「どう思う?」と悪戯っぽそうに訊ね返す。二人の関係性を、双子だ、と答える度にずっと聞かれ続けたものだから一度はおちょくって返す悪癖がついたのだという。
    主が兄で、審神者が弟。そう返せば、訊ねた刀剣達は皆、三者三様の返しをした。「え、うそ」「やっぱり」「へえ」だ。
    中でも「え、うそ」という返しの方が多く、その度に主は「傷つくなぁ」と全く傷ついてもいない調子でからから笑った。「此奴が私に世話されてばかりだからだろうな」とは、審神者の言だ。その通りで、本丸内では世話を焼く審神者と焼かれる主の図が日常だった。だから審神者の方が─数秒の差とはいえ─年長だろうと思っていたものの方が多かった。

    一方が力の器で、もう一方が力の運用。
    そうして回るその本丸は、とてつもなく、の前置詞がぴったり嵌る程に安定しており、それは異様な有様とも言えた。
    その最たる例が、顕現率だった。
    時の政府が期間限定で解除する鍛刀による新戦力投下があればその日一回目の鍛刀でその刀剣男士が顕現し、同様に限定的に解放される戦場において新戦力の取得が見込まれれば一度の出陣で獲得した。戦力強化も兼ねた里に繰り出し札を引けば、怪火は必ず初手で引き当て落とし穴に嵌る事も無い。倉の宝箱を開けば百発百中で倉の鍵を見付け新たな刀へまっしぐら。
    だからと言ってそんな強運に胡坐をかくことなく、審神者と主は本丸に居る全ての刀剣たちを練磨し、分け隔てなく愛情を持って時に優しく厳しく接した。そしてそんな二人を、刀剣達も誰より大切な主君と認め、全幅の信頼と親愛の情を寄せた。

    そんな本丸にも、たった一つだけ問題があった。三条の刀が揃わない、というものだ。
    厳密には三条の太刀。三日月宗近と小狐丸だ。
    始めの方は誰も何も思わなかった。何せ、二振りとも入手困難とされる刀だ。如何な強運双子とはいえ、そういうこともあるだろうと。そして、だからこそ何れ来るだろう、と。
    だが違った。結論から言うと、二振は決して来ることが無かった。
    政府からの支給の機会があったにも関わらず、その期間だけ何故か本丸内でエラーが起きボーナス配布が貰えなかったり。期間中本丸に入ることで貰えるシールと交換、という制度が実装されても矢張り同様で、シールが刀剣男士の交換に必要な枚数に達せないという奇妙な現象に見舞われた。
    一番悲惨なのは、三条の太刀が里の報酬に組み込まれた時だ。
    これは獲得確実と双子を筆頭に本丸全体が奮い立った翌日、里の開放日に審神者と主が揃って倒れた。胃炎だった。里の報酬に組み込まれると聞いてからというもの、数日間は里のみに張り込めるようにと普段以上に執務を張り切ったのが原因だという。だからと言って揃って倒れることもないだろうに、と哀しい双子のシンクロに刀たちはがっくりと肩を下ろし、それから布団の中で項垂れる審神者と主―特に主の方―を優しく宥めながら、この時の里は閉幕となった。
    通常戦闘域における道中での獲得については、最早言うまでもない。

    一方で、真逆の審神者もいた。
    双子が演練で知り合ったその審神者なる男は、毎日の日課として演練に顔を出す中で度々出くわしていた。その度に─それこそ初めて見た頃から─三条の太刀を編成に加えていたものだから、とうとう耐え切れずに訊ねてみたのだ。その三条太刀は鍛刀なのか。鍛刀であれば配合はどのようであったのか、と。
    男は、最初こそ二人の勢いに呆気にとられていたが、すぐに人好きのする柔らかい笑みを見せた。とても温厚な人柄であるらしい。
    彼が言うには、彼自身の霊力こそ平均値そこそこだったが、最初の鍛刀運がよかったという。
    初めての鍛刀を終え、審神者としての本丸運営も慣れてきたところで、さあ初めて資材を重くしてみよう、太刀がくるといいのだけれど──と軽い気持ちで二間の鍛刀場を使って同時にくべたところ、三条の太刀が二振揃って顕現したのだ。
    「物欲センサーでしょうか」。困り顔で笑うその審神者は、それ以降の鍛刀運はからっきしだという。
    世には様々な難民が居るものだ。そう言って、三人はその日の演練が終わるまで世間話に花を咲かせた。
    別れる際に、お互い頑張りましょうね、とゆるり手を振った。最後に三条の太刀の姿を、と思って、去っていく男と男の刀剣男士達を見遣ったが、双子が二振りを見付けた時にはもう後ろ姿しか見えなかった。

    それから長く、時が流れる。
    戦いは決して良い局面ばかりではなく、困難も多くあった。
    現代への遠征でのトラブルや双子の仲違い、短刀の誘拐未遂、本丸への遡行軍の襲撃。このまま任務が失敗するのではと危惧したことも、一度や二度の話ではない。
    それでもこの本丸は一振りも欠けることなく耐え続け、ついには目出度く最後の日を迎えることとなった。

    本丸の解体と解散が決まった日、審神者と主は刀剣男士全員を呼び出した。
    曰く、政府の計らいで全刃の“ねがい”を一個、可能な範囲で叶えてくれるという。
    「人に生まれ変わりたい、とかでもいいのか?」との和泉守の質問に、主は「ああ」と笑みを崩さず返した。
    多岐に渡る記述の“諸説”が“史実”と認められ、歴史が様々な形で存在するように、この世には数多の世界線というものが存在するのだ、と。人として生まれ変わりたいと願ったらば、そこにちりばめられる、とのことらしい。
    主の説明に、「嘘みたいな話だな」と和泉守が頭を掻く。
    「そもそも現状が嘘みてぇな話だったろうが、今更だ。」ため息交じりに返ってきた同田貫のツッコミに、どっと笑いが起こった。それもそうだ。人みたいな生活に慣れすぎて思考も人と成っていたらしい。
    「若い物はそれでいいんじゃないかなぁ。」髭切がそうほけほけと笑う横で、「兄者はもっと現状に拘ってくれ…」と項垂れていた。膝丸が髭切に膝丸と呼ばれた回数は、彼らがこの本丸に来てからの総計でも両手で足りていた。

    その日から、審神者と主の元には一振りまた一振りと、それぞれの願いを伝えに来た。期限は本丸の解体となる前日、この日から数えて六日後までだったが、早いものは集会の解散と同時に来た。(尚それは明石で、「現代での蛍丸と愛染の所在、教えてくれはりますやろか」というものだった。蛍丸は写しのことかと問えば、両方だと返すので政府への申請後愛染の本体と蛍丸の写し、そして蛍丸本体のを所在を示したものを手渡せば、明石は「おおきに」と微笑ってその場を離れた。その後ろ姿は、これで心残りは何もないと言うかのようだった。)
    最期の一振となったのは今剣で、彼は期限の日の昼に姿を現した。もう必要も無いのに、正装─戦装束を身に纏っていた。
    「たくさんかんがえたんですが、やっぱりひとつ、こころのこりがあるんです。」それが何かは、審神者にも主にも分かっていた。三条の太刀二振のことだ。二振の顕現を心待ちにしていたのは、何も双子だけではない。本丸の刀剣男士達─中でも二振に縁のある刀、そして同刀派である石切丸と今剣と岩融の三振は殊更彼らに会うのを楽しみにしていた。その日は終ぞ訪れなかったが。
    さいごにたんとうしてください!なんてことはいいませんよ、むりってわかってますから。そう言って今剣は明るく笑った後、ふわり、優しくその瞳を細めた。「それでもやっぱり、さいごにひとめ」と。
    「さにわさま、あるじさま。…かおをみせてくれませんか?」
    それがぼくのねがいごとです。その今剣の言葉に、審神者と主は、揃って破顔した。「いやぁ、まいったまいった。」朗らかなその声は、どこまでも楽しげだ。
    「三振揃って、同じことを言うのだからなぁ。」
    流石は三条の刀よ。そう言って、二人は嬉しそうに顔を覆う縛りを解いた。
    二人の顔を見て、今剣は破顔した。今までにない、こぼれんばかりの笑顔だった。
    「ふたりはこれからどこにいくんですか?」
    何気ないその問いに双子は顔を見合わせ「俺達は欲張りだからなぁ」と前置くと
    「願い事を叶えに。」
    そう異口同音にハモって返した。その顔は、矢張り悪戯っぽそうに笑っていて。
    今剣には、それでもう充分だった。

    * * *

    ───その本丸は、一人の成人男性によって治められていた。
    年の功は四十を過ぎた頃。時の政府の一職員に過ぎなかった彼が、来る遡行軍との戦いの戦力─審神者として呼び出された時のすっとんきょうな声は同僚たちの間では今や語り草となっている。
    特段、彼でなければならない理由があったのではない。ただ、彼には素質があった。それだけだ。男は、大多数の審神者の中の一人に過ぎなかった。
    強い力があるわけでなく、本丸として格別な何かがあるわけでもなく。
    けれどもどうして、ビギナーズラックに恵まれる方であったらしい。男の本丸には、立ち上げた早々に「入手困難」とまで言われていた太刀二振がするりとやってきた。
    「私が小、大きいけれど!」
    「要するにまぁ、じじいさ。」
    何の気なしの、少しばかり資材を重くしてみようと思っただけの鍛刀で、揃って顕現したその付喪神の出で立ちと号に腰を抜かした、と後に男は語る。


    ─全ての本丸が解体されたその一週間後。最後の審神者同士の交流会兼送別会として、政府主催のパーティが開かれていた。祝賀会とも言えるそれの空気が底抜けに明るいものではないのは、これまでの戦績と審神者が背負って来たもの、そしてここに至るまでに経験した出会いと別れによるものだろう。
    「うちの小狐丸と三日月は番だったんですけどね、」
    そんな中、男はこれまで顔も知らなかった不思議な同僚たちとの談笑を楽しんでいた。
    パーティは覆面制ではなかったが、これまでの癖が抜けないのかそれとも政府をまだ信用していないものも多いのか─恐らくは後者が圧倒的多数だろうが─それぞれが思い思いの覆いを着けている者が多い。まるで仮面舞踏会のような様相だ。男は覆いは着用していなかった。元が政府の職員なのだから、今更という所もある。
    そんな中での話題が自然と、これまで他者との共有が難しかったもの──自本丸の刀剣達の話に偏るのは仕方のない事だろう。
    「終わった後の行き先をね、皆に訊く前に先に二人にだけ聞いたんですよ。そしたら、最後に主と一緒に三人で呑むのもいいなぁ、って。ふふ、可愛いでしょう?でもね、それから話がどんどん盛り上がっちゃって。俺と同じ景色が見てみたいとか、現代を散策したいとか、いっそ二人だけ本丸に留まってみるかとか。もうね、二人揃って冗談が好きなものだから。最終的には、二人揃って同じ時代への転生の道を選びました。寂しくないって言ったら嘘になりますけどね、嬉しくもあるんです。幸せになってほしいなぁって…ずっとずっと、世話になった二人でしたから。」
    上品な味わいの洋酒に舌鼓を打ちながら、嘗ての仲間達に思いを馳せる。今はどこで何をしているだろう。どうか幸せであってほしい、そればかりを願ってやまない。
    それから小一時間ばかり場の空気を楽しんだ後、幾ばくか酔いに火照った頬を冷まそうと、男はテラスへと足を向けた。

    「もし、そこな備前国のお方。」
    呼ばれて振り返った。テラスには自分以外人の気配はなく、加えて備前国に本丸を構えていたから条件反射で振り返ったが、はて、とそこで気づく。自分は今日、この打ち上げで他の審神者にどの国に居を構えていたか話しただろうか?
    振り向いた先には二人の青年とおぼしき男性が佇んでいた。片方は翁の面を、もう片方は狐の面をそれぞれ被っている。二人一組体制の本丸の方だろうか。
    「俺も貴殿と同じ、備前の審神者だ。こちらは組んでいた者でな、俺の双子の弟にあたる。一度演練場でお声かけしたのだが、覚えはないだろうか。」
    そこでふと思い出した。いつぞやかの演練場で、三条太刀が出ないのだと困った風に声をかけてきた二人の青年。あの時の、と言おうとして、声が詰まる。
    「もしよろしければ、」
    言いながら、青年が翁の面に手をかけ外す。刹那、ちきり、と胸に走る感覚に息を呑んだ。それは一週間前、本丸があった頃によく感じたもの。出陣に出した子らが戻ってきたとき、遠征に出した子らが帰ってきたとき。─そう、己が刀剣男士が近くに来たときに感じ取れるものだ。
    「一献、如何かな?」
    面の隔てが無くなったその声を、男はよく知っていた。知らないはずがなかった。
    あさぼらけに、月が浮かぶ。そのとなりで、コン、と右手を狐の形に手遊びした狐面の男が、ゆうるり左手に挟み持った銚子を三つ、音も無く揺らした。
    ─あの時彼らは、何て言っていただろう?
    『俺たちはな、とても欲張りなんだ。』
    「っええ、喜んで。」
    涙に滲む視界を拭って、銚子を受け取る。
    「とっておきのね、酒の肴もあるんですよ。」
    いかがでしょう。問えば、狐面の青年がゆっくり紐を解きながら、それはいいですね、と笑う。
    「して、どのような?」
    笑みがこぼれる。次から次へと。
    沸き上がるいとおしさと、面映ゆい気持ちと、擽ったさに満たされ、こみ上げるのはどうしようもないほどの幸福だ。くふくふと一拍の間笑って、胸焼けを起こしてしまうかもしれませんが、男はそう前置きをした。
    「うちの本丸にいた、とても欲張りな、番の三条太刀の話です。」
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    艾(もぐさ)

    PAST2019.11.4発行。
    準々決勝後の月島と山口。トスと影山と春についての話。
    カプ要素ないですが、書いてる人間が月影の民なのでアレルギー持ちの方は気を付けてください。

    FINAL1作目公開記念再録。
    と言っても話的には2作目後なのでアニメ派の人にはネタバレです。閲覧は自己責任でどうぞ。

    完売して再版予定もありません。当時手に取ってくださった方ありがとうございました!
    【web再録】春/境「春が終わったら、何になると思う?」



    *  *  *



    春高、準々決勝後。
    鴎台に敗北を喫したその日、民宿に戻ってから夕飯まで自由時間を言い渡されたものの満身創痍の身体に出歩く気力はなく、結局部屋に残ることにした。
    そもそも、まだ高校生の自分には滅多に来れない地だというのに観光なんて浮かれた気持ちは全く起こらず、画面越しに見たことのあるようなする街並みに、ああ実在するんだな、なんて呑気な感想を抱いただけだったのだ。
    それよりも。あの雑踏の中に紛れ込むよりも、早くコートに立ってみたい、だなんて。
    どこかのバレー馬鹿達が乗り移ったような思考に、うげえ、と思わず顔を顰めたのはほんの数日前の事だというのに、何だかもう何週間も経ったような気がしている。それだけ怒涛で、詰まりに詰まった三日間だった。
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    艾(もぐさ)

    PAST第三者視点や写り込み・匂わせ自カプ好きが高じた結果。
    別キャラメインの話に写り込むタイプのくりつるです。
    村雲(&江)+鶴丸。村雲視点&一人称。
    別題:寒がり鶴と、腹痛犬の恩返し。

    この他、創作独自本丸・演練設定捏造など盛り込んでます。
    鶴丸が村雲推し。つまりは本当になんでも許せる人向け。

    ※作中に出てくるメンカラーは三ュのものをお借りしていますが、三ュ本丸の物語は全く関係ない別本丸です。
    【後夜祭/鍵開け】わんだふるアウトサイド ここの鶴丸国永は、寒がりだ。
     とは、俺がこの本丸にやってきて数日経った日、同じ馬当番に当たった日に彼から教えてもらったことだ。
    「鶴の名を冠しておきながらこれじゃあ、格好つかんだろう?」
     内緒だぜ、と少しばかり気恥しそうに言った彼に、じゃあ何で縁もゆかりも無い俺に、と表情─どころか声に─出してしまったところ、彼はさして気にした風もなく「気候から来る腹痛なら気軽に相談してくれよ」と笑った。心から来るものには力になれないかもしれないが、とも。
     それだけで、上手くやっていけそうかも、とお腹の奥底、捻れた痛みが和らいだのを覚えてる。
     実際、彼が寒がりだということを知っている仲間は少なかった。彼と同じ所に長く在ったという刀が幾振りか。察しがよく気付いている風な刀もいたけれど、そういった刀達はわざわざ口や手を出そうとしていないようだった。それは、彼が寒さを凌ぐことに関してとても上手だったからかもしれない。
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    艾(もぐさ)

    PAST第一回綴恋合せ展示用小説。突然ハムスター化した伽と、それについては心配するでもなく一緒にいる鶴の小噺。まだデキてない2人。創作動物審神者がいます&喋ります注意。捏造は言わずもがなです。
    22'3.27 ぷらいべったー初掲

    パスワードは綴恋内スペースに掲載しています。
    【後夜祭/鍵開け】君と食む星 伽羅坊がハムスターになった。
     何故なったのか、と聞かれても分からない。朝起きて、畑当番の用意をして、朝ご飯を食べ、冬でもたくましく芽吹こうとする名も無き雑草たちを間引き土を作り、さて春に向けての苗を──と立ち上がったところで、何やら足袋を引っ張られる感触があるなぁと思ったら足元にハムスターがいた。
     小さくふくよかで、野鼠とするには頼りない焦げ茶のそのかたまりを目にした瞬間、何でこんなところに、と考えるより早く思った。
     あ、伽羅坊だこれ。と。
    「伽羅坊?」
     悩むより聞くのが早い。呼びかければ、ハムスターもとい、伽羅坊は小さく「ぢっ」と鳴いた。ハムスターの基本的な鳴き方自体は鼠と変わらないからこれが普通なんだろうが、すこぶる不機嫌極まりなさそうなそれにくつくつ笑いが込み上げる。見れば、小さな耳の下は微かに赤毛が混じっていた。ああ、やっぱり伽羅坊だ。
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