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    はるののの

    @koebichan080

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    はるののの

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    エメアゼちゃん

    #エメアゼ♀

    大切な身体の一部。窓からそよそよと柔らかな風が入ってくる。風に靡く白い髪。ふんわりとした頬の横の白い髪を一束手に取ると、彼女は口を尖らせながら己の髪を眺めている。何やら思うところがあるらしく隣にいる男の方に、ねえ、と声をかけた。

    「くせっ毛、なんとかならないかな?」
    「街の中ではフードを被るんだ、気にならんだろう」
    「そうだけどさ……この時期になると汗や湿気で首に貼りつくし膨らんで髪の毛がもふもふになるんだよー……」
    「それの何が悪いのか私にはわからんな……」

    男は彼女の束ねられた髪を掬い上げ、唇を寄せる。シーツの下から覗いている陶器のような肌はそれだけで熱を帯びて赤く染まっていく。それを振り払うかのように首を振れば男の頬にビタンっと束ねていた髪の束が当たり、彼女は手を叩いて笑った。

    「あっははは! まさか当たるとは思わなかった!」
    「……」
    「わー! ごめん! ごめんて!! 許して! お願い、エメトセルク!」

    仕返しだといわんばかりに男……エメトセルクは彼女の細い腕を掴んだ。これから何をされるのかわかっている彼女は平謝りをしながらなんとか許してもらえないかとマシンガンのように言葉を並べている。
    それを聞き入れたのか諦めたのか、エメトセルクは掴んでいた腕を離し、深いため息を吐いてベッドから身体を起こした。
    細く引き締まった背中には薄く傷付いているのが見え、彼女はばつが悪そうに目を背けて頬を掻いた。

    「あー……やっぱり背中の痕、残っちゃったね……ごめん」
    「お前の方こそ、身体は平気なのか?」

    初めてだったのだろう、と労りのような言葉に大きな瞳をぱちくりとさせ、シーツを捲って自身の下腹部に目をやった。
    破瓜の血がシーツに小さなシミを作っていて、わあ、と短く驚きの声を出した。身体は特に問題がないのか、ピンピンとした様子で勢いよく身体を起こした。その衝撃でズキッと痛んだ下腹部を気にする事もなく、エメトセルクの方へ親指を立てた。

    「ほら、私は丈夫なのが取り柄だから!」
    「……そうだな。とりあえず風呂に入るぞ」
    「そうだね、ペトペトする!」

    身に纏っていたシーツを剥がし、エメトセルクは彼女の膝の裏と背中に手を差し込んでそのまま持ち上げる。慌てて首へと回された手は同じく白い髪を一束取ってマジマジと見ている。
    そして先程された時のようにチュッとリップ音を立てながら唇を付けてイタズラをした子供のように笑う。その行為にエメトセルクは口角を上げながら笑った。

    「なんだ、私の真似か?」
    「うん、真似してみた!」

    楽しげにクスクスと笑う彼女の唇にそっと口付けをすればピタリと動きは止まりまた肌が赤く染っていく。先程とは比べ物にならないぐらい赤くなる顔に、エメトセルクはもう一度唇を重ねた。
    何秒かの硬直を経て、自分が今何をされたのか理解した彼女は口元に手を当てながら赤くなった顔を隠して叫ぶ。

    「キスした!!!!」
    「うるさい、耳元で騒ぐな」
    「ハーデスが!! チュッてした!!」
    「だから騒ぐなと……」
    「二回もした!!!!」

    興奮状態の彼女から手を離そうか一瞬だけそんな考えがエメトセルクの脳を過ぎていく。身軽な彼女の事だ、落とされても軽やかに着地するのだろうと思ってはいるが昨日無理をさせてしまった手前、それをする事は少し憚られた。
    大人しく風呂場に連れて行き、少し冷えた身体に温かい湯をかけながらまた自身の髪を一束摘んで見つめている。

    「ハーデスは私の髪好きなの?」
    「髪だけじゃないがな」
    「ほんと? じゃあ後どこがあるの?」
    「お前の存在を愛おしいと思っているぞ。アゼム」

    初夜を迎え起きてから初めて呼ばれた自身の座の名前に胸が押し潰されそうになりながら彼女は……アゼムは胸を押さえてその場に倒れた。
    エメトセルクの声が遠ざかっていく事を感じながら、幸せを噛み締めながら意識を手放した。

    なんて、話していたのがつい今朝の事。最高峰の叡智の集まるアーモロートに強い風が吹き抜け、アゼムのフードと仮面をさらっていく。すると今朝までは長かった白い髪が顔を覗かせた。髪を押さえながらアゼムは落ちてしまった仮面を追いかける。
    仮面の下で目を見開いたエメトセルクは空いた口が塞がらないという様子だ。
    風と湿気を含んで膨らんだ白い髪はスッキリと纏められていて、頭の上で三つ編みをしてカチューシャのようになっている。
    たまたま居合わせたヒュトロダエウスは落ちたアゼムの赤い仮面を拾い、少しはたいてから渡すとニコリと柔らかな笑みを浮かべた。

    「短くしたんだね。似合ってるよ」
    「さっきすっごい貼りついてきて嫌だったから切っちゃった!」

    キャッキャッとはしゃぐアゼムは仮面を受け取って己の顔に着けると、エメトセルクの方を振り返った。彼からはまだ一言も言われていない。似合う、なんて素直に言うはずないとわかっていても聞かずにはいられなかった。
    切った髪を見せる為に、くるくるとエメトセルクの前で踊るように身体を回転させた。

    「エメトセルク、どう? 似合ってる?」
    「…………ああ」

    何かに負けたようにエメトセルクは首を振った。それだけの事にアゼムは拳を天に突き上げるように上げてその場で何度か飛び跳ねながら喜んでいた。彼女に尻尾があるのならきっと今ちぎれんばかりに振っている事だろう。
    パチンッと指を鳴らしてフードを被せると、エメトセルクはそっぽを向いて素っ気なく行くぞと一言だけ言って先に歩いて行ってしまう。
    ヒュトロダエウスにヒラヒラと手を振りながらまたしても強い風が吹いて、今度は飛ばされないようにとフードの端を抑えながら小走りでエメトセルクと空いてしまった距離を詰める。
    いつもよりも歩幅は大きく、中々詰められない距離にアゼムは疑問を抱いた。

    「……なんか、怒ってる?」
    「怒ってなどいない。お前の気のせいだろう」
    「いや絶対怒ってるじゃん、いつもより数倍早いもん!」

    待って、と手を伸ばしエメトセルクの腕にがっしりとしがみつくとそれまでこちらを見ようとしなかったエメトセルクの顔がようやくアゼムの方を向いた。
    怒っているような顔に似合の眉間にシワのよった赤い仮面はため息を吐く。

    「本当は一番に見せたかったんだけど、ヒュトロダエウスと同時だったね!」

    往来のど真ん中。たまたま人通りの少ない時間だったとはいえ他の市民たちにも見られている可能性がある。
    そんな事は気にしていないのか、アゼムはポケットにしまっていた小さな刺繍が縫われた袋を取り出す。それはお世辞にも上手いとは言えない物だった。どこにどう糸を通したらそうなるんだと言いたくなる袋にはアゼムとエメトセルクの仮面が刺繍されていた。

    「ほら、また近々離れ離れになるから、エメトセルクが寂しくないようにお守り作ったの!」
    「……持つべき人間が違うんじゃないか?」
    「実はなんと私の髪入り! 切った髪は全部ここに入ってるよ!」

    好きだと言われたからとアゼムは笑うが、エメトセルクは苦いものを食べたような表情を浮かべている。違う、そうじゃない。確かに好ましいとは思ってはいたがそうじゃない。

    「ダメ……だった? 今なら元に戻せるかな?」
    「もう手遅れだろう……」

    傷は治す事が出来ても髪を元に戻す事は難しく大変面倒な作業だった。アゼムは刺繍の施されたお守り袋をギュッと握り、少し顔を俯かせた。珍しく少し落ち込んだ様子にエメトセルクはまたしてもため息を吐いてアゼムの手からそれを受け取った。
    落ち込んでいた表情がパァッと太陽のような眩しい笑顔に変わり、キラキラとした目でエメトセルクの方を見ている。

    「ありがとう、エメトセルク!」

    その数日後だった。彼女が帰らぬ人となったのは。原因は逃げ遅れた小さな子供を庇い、子供諸共心臓を貫かれたと報告を受けている。
    エメトセルクの元に残ったのは彼女が生前、お守り袋にの中に入っていた髪だけだった。それを強く握り締め、アゼムの事を強く想った。
    いつもはくだらない事で喚び出すくせに、どうしてそんな危機に陥っている時に喚ばなかったのだ、と。
    誰もいない一室でエメトセルクはため息を吐き、彼女の座ではなく、真名を呼んだ。答えてくれる存在はもういない。
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