愛しい君へ「豊前江」
「うん?」
こちらの声に穏やかに笑う豊前江に、その耳元にそっと唇を寄せる。
「好きだよ」
普段は中々恥ずかしくて言えないけど、思い切って伝えてみた。囁くような小さな声であったけど、彼に伝われば十分。どんな反応をしてくれるかな、喜んでくれるといいなとそっと豊前江を見る。
「…ッ」
そこには頬をほんのり紅くして恥ずかしそうにする豊前江がいて、その意外な反応に私まで恥ずかしくなって頬が熱くなる。
「不意打ちすぎんだろ」
「ごめん」
「うれしいけどよ」
「そ、そう?」
照れてしまったことが恥ずかしいのか、豊前江はこちらを見ない。その様子が少し可愛く思う。
「だけど、そういうことは」
そこで一度言葉を区切ると、豊前江が真っ直ぐこちらを見つめてくる、
「ちゃんと目を合わせて言うもんだろ?」
そうじっと見つめる眼差しが真っ直ぐ過ぎて思わず目を逸らしたくなる。が、豊前江がそれを許してくれない。照れさせた罰だと言わんばかりの圧を感じる。
「え、えぇ」
「ほら、もう一回」
「は、恥ずかしい」
「もう一回言うまで離さねぇからな」
いつの間にかしっかり腕を掴まれていて、逃げられなくなっていた。戸惑うこちらを他所に、豊前江はまだ少し赤いその顔を近づけてくる。
「主」
そう求める豊前江の声に、恥ずかしいけど言うしかないと腹を括る。
「…好き、だよ」
僅かに震える声で、再度想いを伝える。言葉と共に自分の体温が一気に上がっていくのを感じる。今すぐ逃げたくなったが、その言葉を聞いた豊前江があまりに幸せそうに笑うから、急に胸が苦しくて動けなくなってしまう。
「…うん、そっか…あんがとな」
そう笑いながら、豊前江に優しく抱き寄せられた。彼があまりに幸せそうで、嬉しそうだから、私まで幸せな気持ちになってくる。
「主」
「ちょっ、くすぐったいよ」
すりすりと甘えるように擦り寄る豊前江が擽ったくて思わず顔が綻んでしまう。愛しい彼を喜ばせることはできたようだ。