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    春日きい

    きいの小説置き場

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    春日きい

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    ばじふゆで成人式の話

    未完小説を見つけたので

    ##ばじふゆ

    君だけがいない冬今日、場地さんと出会って数か月たったころの話を偶々思い出した。夏に突入する前だったと思う。湿気で蒸し暑い教室に放課後二人で残って場地さんが手紙を書くのを見守っているときにふと暇つぶしにと話した話だった。
     「そういえば俺、場地さんと成人式一緒に出られないんですよね」
    「まー。千冬と年違うしな。」
    「それだけはどうしようもねぇよ」と場地さんは笑った。いいなあ、マイキー君やドラケン君なんかは同い年だから一緒に出られるんだもんな
    「場地さんのスーツとか袴姿見たかったな__」
    「え、千冬こねぇの?」
    「え?」
    「いや、てっきり成人式終わったらいつものメンツで集まって飯でも行くのかと思ってたわ」
    「え、俺行っていいんすか?」
    「むしろいねぇとなんか寂しいだろ。こういうのは大勢でやる方がいいんだよ」
     しばらく話に間が入り、ふと思い出したように場地さんは「そういや成人式とかだいぶ先じゃねぇか」と言ってきた。
    「いや、特に意味はないんすけどね」
    昨日小学生の時のアルバムを整理していたらたまたま二分の一成人式の写真が出てきて懐かしく思ったことを場地さんに話した。
    「そんなんやったかぁ?」
    「小学校とか学年違うとやってないかもしれないですけど、俺の時はあって、自分の名前の由来とか親に聞いたりしたんです」
    「結構楽しかったですよ」というと場地さんは手紙を書く手を止めてこちらを見てきた
    「え?俺になんかついてます?」
    「いや、そういや千冬の名前の由来知らねぇなとおもって」
    「まー、普通人に聞かれない限り言わないですもんね」
    「なんで?」と場地さんはこちらをまっすぐ見たまま首を傾げて言った。
    「笑わないでくださいね」
    「人の名前で笑わねぇよ」
    こういう時の場地さんはいつだって真剣だ。今だって、こうやって年少にいる友達に苦手な漢字を必死に辞書で引きながら書いている。きっとその友達は友達に恵まれている。どんな罪を犯したのかは知らないし、どんな人かも知らない。だけど、こうやって毎日律義に些細なことも手紙に書いて送って_。きっと俺だったら疎遠になるか友達を辞めるかもしれない。
    「...冬に生まれたからです」
    「え、それだけ?千の意味は」
    「親から一文字貰いました。だから俺の名前に意味なんてほとんどないですよ」
    「意味ない名前なんてねぇよ。」
    「俺は千冬が夏に生まれたとしても千冬って名前つけたと思うぜ。」場地さんはそういってにこっと笑った。この人はなんにでも意味を見出せる人なんだ。きっと俺たちが見逃してしまいそうなほんの小さな幸せや不幸にもちゃんと意味を見出して、きちんと現実を受け入れることが出来るんだ。
    「ふふっ、それじゃあ千夏になっちゃいますよ」
    「なんでもいいんだよ。名前なんてよ。生き様がかっこよけりゃ名前なんて勝手にかっこよくなんだろ」
    そのときは、それもそうですねと二人で笑って流した。
     場地圭介の生き様はそれはそれは語るにはもったいないくらいにかっこよかった。友のために生き、友のために死んだかっこいい人。世界で一番尊敬していた人。同時に俺が世界で初めて失った大切な人でもあった。血のハロウィン。その抗争で場地さんは死んだ。それから幾度となく時が流れた。一年、二年__。カレンダーを捲るたびに変わっていくなにか。時間と共に移ろいでゆく街並み。場地圭介たった一人を取り残したまま町は変化し続けている。知らない街で暮らす怖さがこんなにも怖いなんて知らなかった。
    「一虎君も怖かったのかな」
    年少に数年間入り、出てきたときには知っているはずの道が道ではなくなっている。あったはずのお気に入りの場所が取り壊しになっている。怖いだろうな。寂しいだろうな。今度は十年。住んでいた場所なんてあってないようなもんだろうな。許されたとはいえ、あの性格じゃマイキー君やドラケン君にも会いたがらないだろうな。
    「出所してきたら拾ってあげるか」
    漠然とそう考えていた。本当にそうするかどうかは置いておいて
     2012年1月10日。俺は真新しいスーツを着て公民館に向かおうとした。玄関を出て階段を降りようとしたところで誰かに呼び止められたのだ。
    「千冬くん。成人おめでとう」
    「あ、ありがとうございます」
    呼び止めた人は場地さんのお母さんだった。焦って出てきたのか部屋着のまま何か手にもって階段を駆け下りてきた。
    「千冬くんに圭介から渡すものがあって今日は来たの」
    「場地さん_からですか?」
    「本当は本人が渡したかったんでしょうけど_」
    こんな形になってしまってごめんなさいと場地さんのお母さんは謝った。こんな形にしたのは止められなかった俺だ。散々悔やんで泣いたはずなのに成人という大人への一歩の時に場地さんが何かを用意していてくれたということがうれしくて悲しい。
    「手紙、遺品整理をしていた時に見つけたの」
    渡された手紙は『二十歳になった千冬へ』と題名がつけられていた。
    「それとお願いがあるんだけど_。」
    そういって場地さんのお母さんは写真立てを渡してきた。
    「それを持って成人式に出てもらえないかしら」
    「え__」
    「去年、佐野君にお願いしたんだけど千冬くんのほうが適任だからと断られたの。だからお願いできる?」
    マイキー君、俺に気を使って断ってくれたのか_。あの人にはつくづく頭が上がらない。
    「もちろんです。大切に預からせていただきます」
    預かった写真立ての中には学ランでピースをして笑う場地さんが映っていた。
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    Replies from the creator

    春日きい

    PROGRESS羽宮両親を殺害するばじけのばじとら

    いずれ、完成させて支部にあげます
    地獄の一丁目 この世に、まだ希望があるならそれは親がいることだと思わずにはいられない。窃盗を犯した俺に、まだ愛情を注いでくれる人がいることが救いだと思う。俺を許してくれる人がいて、存在を望んでくれる人がいる。だけど、口を揃えて皆、羽宮一虎はいらないと言う。許さないという声が多数。しょうがないという声が少数。多数決はいつだって多勢に微笑んでいる。当事者が許したって、多数決の神様は一虎の下では微笑まない。どんな神様も一虎を守ってはくれなかった。親からも、ひどい友達からも。誰も一虎も守らなかった。一虎はいつだって叫んでいたのに。泣いていたのに。誰一人振り返りはしなかった。だから一虎は過ちを犯して、必死に産声上げたのに。それさえもみんなは聞こえないふりをした。いつ、一虎が過ちを犯したんだろうか。先に一虎を傷つけたのは、貶したのはお前らの方なのに。それが今、あふれ出たものが降りかかっただけなのに。ほんの少し暴れたからって一虎を袋叩きにした。俺一人が一虎の天使で良かった。俺一人が一虎に愛情を注いで愛していればよかった。
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