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    春日きい

    きいの小説置き場

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    春日きい

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    ぺけじぇが死んでしまった日のふゆとら。

    続きます

    ##ふゆとら

    どんな形も愛ならば ペケJが死んだ。俺と場地さんを繋ぎ合わせてくれた、大切な愛猫。場地さんが居なくなってしまった世界で、俺の隣寄り添ってくれた愛猫。出所後、ぎこちない一虎くんに、そっと擦り寄ってくれた愛猫。もう、このまま化け猫になるのかなって思ったんだ。けど、やっぱ現実って甘くねぇーなあ。だって、生きてるものは皆死んじまうんだ。ペケJも、場地さんも。皆生きてるから死んじまうんだ。俺、きっと涙が枯れたんだと思うよ。冷たくなったペケJを前にして、一欠片もこぼれ落ちないんだ。こんな、だって、おかしいよな。たった一年ちょっと過ごした場地さんの時は、もう、死ぬほど泣いたのに。何十年も過ごしたペットの為に泣けないなんて。俺、きっと場地さんを失った時にどっか壊れちまったんだろうな。人間の大切な所が。
    朝の寒いリビングで、冷たくなった猫を抱いて、冷たくなった腹に顔を埋めていた。こうする他に、温める方法を知らない。起きてから、いや、それは正しくないかもしれない。ふと、目が覚めてから。どのくらいそうしていたのか俺には分からない。気付いたら、定刻通りに目が覚めた一虎くんが、俺を後ろから抱きしめていた。ペケJの為に消えていった、俺の体温を逃さないために。後ろから、そっと温もりをくれた。ああ、この人は生きてる。そう思って、無性とこの人を殺したくなった。カラカラの体に。涙なんて枯れた俺に、雫がポタリポタリと垂れた。一虎くんの涙だ。一虎くんは静かに泣いていた。誰も何も言わない。
    「ちふゆ、もういいだろ?」
    俺の体からそっと自分の体を剥がした一虎くん。一向に顔を上げない、俺の肩に手を置いて言った。
    「なにがですか?」
    「もう十分生きただろ?幸せだったと思うよ」
    あんたに、たった数年しか過ごしていないあんたに。ペケJの何がわかるって言うんだ。俺はさらに強く、ペケJを抱き寄せた。離したくなかった。ずっと、この子といたい。俺の全部はこの子のためにあるのに。ペケJの代わりに、一虎くんが死ねばよかったんだ。そう思ってしまう自分に吐き気がした。だって、何も間違ってないって思った。健気に生きてきたペケJが死んで、前科二犯の男が隣で息をしてる。そんなの、おかしいじゃないか。
    「なあ、供養してあげよう?」
    くよう、くよう。頭で反芻してみる。身震いがした。ダメだ。あんな、熱いとこにいれちゃ。家の中で、適温で過ごさせてあげなくちゃ。
    一虎くんは、置いていた手に力を入れた。俺の肩を無理やり引っ張った。そうして、ようやく俺は顔を上げた。濡れてない顔を一虎くんに向けた。一虎くんの顔は濡れていた。雨が降ったみたいに。
    「分かってんだろ。死んだらどうするのか」
    分からない。何回も店の子達の為にしてきたのに。全然分からないんだ。人間でするのも見たことがある。肉が焼ける音。焼肉と何も変わらないのに。なのに、凄く惨いことをしてる気分になる。知っている人が、知らない人に変わり果ててしまう恐怖。あんたには、あんただけが知らない。
    「焼かなきゃいけない。分かるだろ?俺たちはずっとそうしてきた。」
    泣きながら、嗚咽を混ぜながら言う一虎くん。きっと、彼も苦しいんだ。分かってる。腐らせるのはもっといけないことだ。分かってるのに。体が、脳みそが、ダメだって言ってるんだ。全部、全部、俺が終わらせてあげなくちゃいけない。生には死が付いている。それは、目の前の惨状を見れば明らかなんだ。なのに、俺の手はペケJを抱きしめているし、一虎くんは俺の手を握りしめている。
    「認めるのは怖いよ。明日も怖い。でも、俺たちは死んでしまった事実を認めなきゃいけない。場地もペケJも「皆死んでしまったんだ」という声は、俺が聞くには早すぎた。ペケJを抱きしめていた手が、ゴトリと音を立てて床に沈んだ。俺は、俺たちが生きている世界が間違っている気がした。俺が生きているのは、場地さんもペケJも、皆元気だ。誰も死んじゃいない。俺の体は弾かれたように、シンクに向かった。研がれたまま並べられた包丁を手に取った。光の反射を受けた包丁。その光は、一虎くんの淀んだ目に吸収されていった。一虎くんは、光に反射して、飛んできた。俺のすることを止めるために。
    「ちふゆ!」
    何度も転びそうになりながら、一虎くんは俺に近づいてくる。焦っているのだ。俺が死ぬと思って。
    「みとめるのは、こわいです。」
    舌が回っていない口が羅列を発した。その瞬間、俺の手首を一虎くんがひねり揚げた。年少で鍛えられた、一虎くんの力はとても痛くて、俺は堪らず包丁を落としてしまった。落とした包丁を、一虎くんは足で遠くに蹴った。俺が二度と拾わないように。
    「かずとらくん…かずとらくん」
    もう、俺はどうすればいいのか分からないよ。手首を掴まれたまま、ズルズルと床に座り込んだ。遅れて、顔から水が零れ落ちた。俺は静かに泣いていた。それを一虎くんは、泣きながら見ていた。

    太陽が真上に登った頃、俺はソファーに脱力していた。何もする気が起きなかった。涙は、場地さんの頃よりも随分早く切り上げた。冷めた心が、所詮ペットなんだと伝えてくる。そう思う度に、俺はシンクに置かれている包丁を取りに行った。その度に一虎くんに、手首を捻り上げられた。俺の手首は一日で青紫色に変色した。ペケJの遺体は、一虎くんがどこかに置きに行ってしまった。俺には、どこに連れていかれたのか分からない。でも、きっと、焼却炉だと思う。山のでかい焼却炉。あそこに放り込みに行ったんだと思う。よくそんなことができるな。昨日まで一緒に暮らしてたのに。
    「きのうまで、いきてたのになぁ」
    脱力した体から、小さな声が漏れた。叫び出したくなった。大きな声を出して、暴れて。誰かに、このどうしようもない心を壊して欲しかった。
    「ちふゆ」
    一虎くんは、ずっと前から俺の横に座ってたみたいだ。俺が、鈍くなってしまったから気づかなかったけど。そっと、俺の体を抱き寄せた。生きてることが、こんなに疎ましいことなんて。俺は気付きたくもなかったよ。
    「ちふゆ、俺はお前より先に死なないから」
    「かずとらくん」
    「なに?」
    「おれは、かずとらくんがいますぐしねばいいのに。っておもってる」
    一虎くんは、抱きしめていた体をそっと離した。「そっか」と言って、ゆっくり立ち上がった。一虎くん傷ついたかな。死にたくなってくれたかな。俺から離れていってくれないかな。もう俺は、一虎くんが死んで欲しいのか、俺を見捨ててどこかに行って欲しいのか。何が本心で嘘なのか見分けがつかなくなってしまった。今、俺の心は一虎くんによって動かされているみたいだった。
    「ちふゆは、俺が死ねば嬉しいの?」
    「うれしいです。もう、だれも、うしなわなくてすむから」
    頭じゃもう何も分からないのに。口からは本心がポロポロと出ていってしまう。一虎くんは依然、立ったまま俺を見下ろしている。そんな一虎くんが、ゆっくりとシンクの方へ向かっていくのを見て、俺は笑いをこらえきれなかった。
    「ふふふふふ。かずとらくん。しぬんですか?おれのためにしんでくれるんですか?」
    「そうだよ。お前のために死んでやる」
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    Replies from the creator

    春日きい

    PROGRESS羽宮両親を殺害するばじけのばじとら

    いずれ、完成させて支部にあげます
    地獄の一丁目 この世に、まだ希望があるならそれは親がいることだと思わずにはいられない。窃盗を犯した俺に、まだ愛情を注いでくれる人がいることが救いだと思う。俺を許してくれる人がいて、存在を望んでくれる人がいる。だけど、口を揃えて皆、羽宮一虎はいらないと言う。許さないという声が多数。しょうがないという声が少数。多数決はいつだって多勢に微笑んでいる。当事者が許したって、多数決の神様は一虎の下では微笑まない。どんな神様も一虎を守ってはくれなかった。親からも、ひどい友達からも。誰も一虎も守らなかった。一虎はいつだって叫んでいたのに。泣いていたのに。誰一人振り返りはしなかった。だから一虎は過ちを犯して、必死に産声上げたのに。それさえもみんなは聞こえないふりをした。いつ、一虎が過ちを犯したんだろうか。先に一虎を傷つけたのは、貶したのはお前らの方なのに。それが今、あふれ出たものが降りかかっただけなのに。ほんの少し暴れたからって一虎を袋叩きにした。俺一人が一虎の天使で良かった。俺一人が一虎に愛情を注いで愛していればよかった。
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