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    春日きい

    きいの小説置き場

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    春日きい

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    羽宮両親を殺害するばじけのばじとら

    いずれ、完成させて支部にあげます

    ##ばじとら

    地獄の一丁目 この世に、まだ希望があるならそれは親がいることだと思わずにはいられない。窃盗を犯した俺に、まだ愛情を注いでくれる人がいることが救いだと思う。俺を許してくれる人がいて、存在を望んでくれる人がいる。だけど、口を揃えて皆、羽宮一虎はいらないと言う。許さないという声が多数。しょうがないという声が少数。多数決はいつだって多勢に微笑んでいる。当事者が許したって、多数決の神様は一虎の下では微笑まない。どんな神様も一虎を守ってはくれなかった。親からも、ひどい友達からも。誰も一虎も守らなかった。一虎はいつだって叫んでいたのに。泣いていたのに。誰一人振り返りはしなかった。だから一虎は過ちを犯して、必死に産声上げたのに。それさえもみんなは聞こえないふりをした。いつ、一虎が過ちを犯したんだろうか。先に一虎を傷つけたのは、貶したのはお前らの方なのに。それが今、あふれ出たものが降りかかっただけなのに。ほんの少し暴れたからって一虎を袋叩きにした。俺一人が一虎の天使で良かった。俺一人が一虎に愛情を注いで愛していればよかった。

    だから俺は多数が望む、更生を一虎には望まなかった。

     他に愛することを望んだのがいけなかった。きっと一虎は俺の横で微笑んでいるときが最も美しいから。血を浴びても陰ることない目を。俺が支えなくちゃならない。たった一人の理解者だから。だから、一虎からすべてを奪わなくちゃならない。
    一虎を最も薄汚れた存在に仕立て上げているのは親だと、俺は安直に考えた。環境だとか、友達関係だとか、そんなもの俺は可能性にすら入れなかった。入れたところできっと何も変わらない。そんな安っぽい関係で一虎の根底は覆らない。心に錨を落としているのは、洗脳に近しいなにかだ。自由になるためには全部消さなきゃいけない。だから俺は一虎の両親を殺した。
    俺は今も昔も自分のしたことに後悔はない。いつだってそれが最善だと思って生きている。そうでもしなきゃ、俺は一虎の罪を認めてやることは出来ない。あれを、一虎だけのせいにすることは間違っている。とっくの昔から、俺も一虎も間違った道を歩いている。今更後戻りなんて遅すぎる。それは、誰も許さない。
     誰も許してくれないから、だから俺は殺すしかなかったんだと思う。結局、人類が皆いなくなれば、不安も悩みも消え去るんだ。人を殺すのってすごい怖い。人が人でなくなる瞬間はいつだって怖い。心臓が死んでも、呼吸が止まっても、脳に酸素がある限り人は生きているそうだ。なら、即死だった真一郎君も俺たちの誓いを聞いていたかもしれない。「バカだな圭介は」なんて言ったかもしれない。それでもいい。バカでも、人殺しでも。そんな安い肩書でたった一人の人間を守れるなら安いものだと思う。
    俺は、羽宮家に手紙を渡しに行った。いつも通りに母親が出迎えてくれた。少し玄関先で談笑をした。よく晴れた日だった。俺は、「一虎の部屋に上がってもいいですか?」といい、母親はそれを了承した。本当に部屋まで行ってしまうと持ち運ぶのが大変なので、「上がって」と言って、リビングの方に向き直ったところで俺は一撃を入れた。けど、一撃じゃ死ななかった。俺が持ってきたのは、バールじゃなくてレンチだった。きっと重さと力が足りなかったんだと思う。頭蓋骨がくぼんでいたが、まだ息をしていた。素直に怖いと思った。人間の生存本能の本気を見た気がする。頭蓋骨の陥没くらいじゃ人は死なない。頭からたくさんの血を流して、芋虫みたいに廊下を這いずっていた。右腕を前に、左腕を前にと、ほふく前進でリビングに向かう。殺人鬼から少しでも逃げようとしていた。もう彼女の頭には「場地圭介」は存在せず「殺人鬼」に成り代わっている。
     ここで逃げ帰る選択肢は微塵もなかった。顔が割れているし、父親も殺さなきゃいけない。今更人殺しにビビる訳にはいかなかった。
     そんなことを考えている今も、一虎母は這っている。俺はしゃがみ込んで、頭部にもう一撃を加えた。陥没していた箇所とは違う部分に打撃を与えた。今度は本当の本当に動かなくなった。あの日の真一郎君みたいだ。脳裏によぎったのは、パニックになる一虎と、「地獄まで一緒に行く」と約束した俺。抱きしめ合って、お互いの体温で少しだけ落ち着けたあの日と違い、今は冷たい廊下に俺一人だった。超えてはいけない一線はいともたやすく超えた。もう自分に怖いものは何もなかった。死も、天災も神の裁きも。自分が持ちうるものは全て手放した。これで、一虎と一緒になれる。
     バイクに積んできたブルーシートを一度取りに戻った。監視カメラに写ってしまっているかもしれないが、捕まったら一虎と同じところに行くだけだ。それに、今更逃げる方がおかしい。一虎は逃げずに自分と向き合ったんだから、俺もそうするべきだと思う。
     エントランスを抜けて、階段下に止めてある愛機に近寄る。一虎がいつも乗っていた後部座席。そこに括り付けてあるブルーシートを手に取り、今度はゆっくりと時間をかけて、部屋に戻った。どうせ、父親が帰ってくるまでこの家には誰も来ないことを知っているからだ。俺が、この家に遊びに来ていた時だって近所の人だとか、そういう来客は一人として訪ねてこなかった。元々、交流関係が薄い家なんだろう。父親の暴力性、母親の精神的弱さ。うまくかみ合った結果、隣人たちが異変に気付けないほどの静寂に満ちた家庭なり果てた。
     玄関に戻ってきた。母親は、出て行った時と変わらず同じ場所で静かに死んでいた。死体は動かないのだから、当たり前と言えばそうなんだろう。だけど、最初に見た人間の生存本能が忘れられない。これが演技で、もしかしたら助かるために死んだふりをしているんじゃないか。なんて思ってしまう。ゆっくりと時間をかけて戻ってきたから、その間にリビングに行き、電話を掛ける時間くらいはあった。そう考えて、恐ろしくなった。父親だけを野放しにしたまま俺が捕まってしまうのが。それだけが心底恐ろしい。捕まることは何も怖くはない。ただ、目的を遂行できないままになってしまうのが怖い。一番の元凶は父親だ。母親は家に入り、待ち構えるための口実でしかない。だから、俺は母親を自分の気が済むまで殴り続けた。オーバーだっていうのは自分が一番よく分かっている。止められなかったんだから仕方ない。きっと、一虎もこんな気持ちだったんだろうな。とか考えた。止まらない衝動に身を任すしかなかったんだろう。そうしなきゃ楽になれないのなら、いっそ一緒に死ねばよかった。親を殺して回るなんてまどろっこしいこと考えないで。本当はあの場から二人で逃げ出して、東京湾に身を投げてしまえたら良かったんだ。なあ、一虎。俺たちは友達じゃないほうが幸せになれたよ。
     母親は、殴りすぎて頭の形が分からなくなった。人間の頭じゃなくなっていた。俺は、死体の上にブルーシートを被せた。死体をそのまま持ち上げて横に転がす。そうすると、綺麗にシートに包まれた。正直、この死体をこの後どうするかは考えていなかった。車の免許は持っていないから、どこかに埋めに行くことはできないし、かといってバラすこともできない。殺すことしか考えていなかった。そのあとは、まあ自分が何とかするだろと思っていた。計画性がないのは昔からだ。夏休み宿題が休み中に終わったためしはないし、朝顔の水やりだって毎日することを忘れてしまう。結局、死体はこのままにしておくことにした。どうせ、来客もないんだ。ほっとけば腐って異臭を放つ。その頃にはきっと一虎が戻ってきてるはずだ。
     死体と何時間も一緒にいるのは気が狂いそうだった。死体は喋らないし、自分も独り言をいうわけにもいかない。ただ黙って、いつ帰ってくるか分からない父親を待ち続けた。日が沈み、外ではカラスが鳴いている。それでも、俺は死体の横で体育座りをして待った。
     待っているとき、ふと気づいた。母親は後ろから不意打ちで殴ったから殺せた。女だし、仮に襲われても殴り返すくらいは余裕でできる。だけど、父親はどうだろうか。俺よりもでかいかもしれないし、体格だっていいかもしれない。それに不意打ちで殺せなかったとき、確実に俺は無事では済まない。レンチじゃ不安だ。その時俺は、母親がしきりにリビングに行こうとしていた理由が分かった気がした。包丁だ。それさえあれば、女でも俺を殺せる。そうだ、包丁で殺そう。それなら、万が一突きで死ななかったとき、その時は殴り殺せばいい。計画性あるじゃん。って思った。
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    地獄の一丁目 この世に、まだ希望があるならそれは親がいることだと思わずにはいられない。窃盗を犯した俺に、まだ愛情を注いでくれる人がいることが救いだと思う。俺を許してくれる人がいて、存在を望んでくれる人がいる。だけど、口を揃えて皆、羽宮一虎はいらないと言う。許さないという声が多数。しょうがないという声が少数。多数決はいつだって多勢に微笑んでいる。当事者が許したって、多数決の神様は一虎の下では微笑まない。どんな神様も一虎を守ってはくれなかった。親からも、ひどい友達からも。誰も一虎も守らなかった。一虎はいつだって叫んでいたのに。泣いていたのに。誰一人振り返りはしなかった。だから一虎は過ちを犯して、必死に産声上げたのに。それさえもみんなは聞こえないふりをした。いつ、一虎が過ちを犯したんだろうか。先に一虎を傷つけたのは、貶したのはお前らの方なのに。それが今、あふれ出たものが降りかかっただけなのに。ほんの少し暴れたからって一虎を袋叩きにした。俺一人が一虎の天使で良かった。俺一人が一虎に愛情を注いで愛していればよかった。
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