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    _halusaki

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    1
    降志前提のダクバがわちゃわちゃしながら事件解決するお話です。
    書き上げたら本にします。
    まだ書き途中なので色々変わる予定。
    オリキャラが出ます。

    Redline 第一章 けたたましいサイレンの音が鳴り響く繁華街。クリスマスを前にした十二月某日十八時、原宿竹下通りにて、無差別殺傷事件が発生。救急、消防、警察、共に渋谷地区の最大限が集結する。駅前の通りから車両規制が張られ、路上には怪我人があちらこちらに横たわる。
     容疑者はその場で確保されたが、目の焦点は定まらず、口から泡を吐き意味不明なことを言葉を口にして会話ができる状況ではなかったという。
     後に現場へ居合わせた警察官はこう言った。
    「覚醒剤以上の薬物だなって嫌な予感がしたんだ」
     この警察官の予想は的中することになる。
     死者三名(うち警察官一名)、重軽傷者二十人強を出したこの事件は後に人々の間でこう呼称される。
     竹下通りの悪夢、と。

        *


    「宮野さーん、お客さーん。警察の方ー」
     ラボの執務室に同僚の声が響き渡ると、宮野志保は向き合っていたディスプレイから顔を上げ、大きな声で返事をした。次にプリントアウトした資料とタブレットを手にし応接間へと向かう。
     セキュリティのかかった執務室を抜け、フロア入り口のエントランス脇にある応接室『空の間』が今日のために予約しておいた部屋だ。名前の通り、部屋の壁面は空をイメージしており、空色の塗装に白い雲を模ったステッカーが貼られている。雰囲気はとても可愛らしい、幼稚園のような内装だ。
     コンコンコン、とノックを三回。ガチャリと応接間の扉を開けて中を見れば、見慣れたミルクティブラウンの頭。降谷零がにっこりとあむぴスマイルを向けるので、志保は顔面を引き攣らせる。
    「……なんで風見さんじゃないわけ?」
     あからさまに不機嫌にする志保。だって、ここに来るのは降谷の部下である風見だけだったからだ。
    「僕じゃ嫌だった?」
    「職場でまで顔見たくないわよ」
     いいながら志保は降谷の向かいの椅子に腰掛ける。ガラスのテーブルに資料を置いて提出すべき資料を選別する。
    「辛辣だなぁ」
     相反するこの二人の態度だが、志保のツンが鋭いのはいつものことだし、降谷のあむぴスマイルは外向けでは常であるので、平常運転というべきだろう。
    「はい、これ。検査結果取りに来たんでしょう?」
    「あぁ、ありがとう。さすが早いな。あれ、志保さん、隈?」
     降谷の前に解析結果の紙の束を滑らせる。降谷はそれを受け取ると資料に目を通すより早く、志保の異変に気がついた。化粧で隠そうともせず、いや、そんな時間もなかったのか、それを表す無造作に結ばれた髪。
     志保は降谷の言葉に、わなわなと口を振るわせ、みるみるうちに顔へ血が昇る。
    「誰のせいだと思ってるのよ! しっかし、本当にしょうもないもの回してくれたわね!」
    「なんでそんなに怒って?」
     志保は深くため息をつき、一旦自分を落ち着かせる。
     誰のせいで徹夜をしたのか、誰の依頼のせいでこんなに働き詰めなのか、これが原因だけでもないので喉元まで出かかったそれらを飲み込む。
    「……あのねぇ、これ、新薬の可能性が高いわ。最初はリタリンかと思ったんだけど、詳しく調べてみたらかなり異なっていたわ」
     志保の言葉に降谷は渡された資料へと視線を落とす。
    「処方薬のリタリンと今回の検体では、化学式こそ似ているものの、完全一致じゃないのよ。一錠中のメチルフェニデート塩酸塩……もどきだけど、それの量も違うし……効果的には同じだと推測はできるけど、ラットで実験してないから断定はできないわ。あと、添加剤もちょっと粗雑ね。はっきり言って、こんなの見たことないわ」
     書いてある通りよ、と志保は降谷が手にしている資料を指差す。確かに、書かれている通りだ、と降谷は字面をなぞる。
    「人体への影響はどうみる?」
     資料には書かれていないことを降谷は志保に問いかける。
    「摂取の方法にもよるけど、まぁ、心臓への負荷は高いでしょうね。スニッフなんてしたらそれこそ合法のアッパー系では一番なんじゃないかしら。ただ、効果時間は不明だわ。ベースがベースだから持って六時間程度でしょうね」
     志保の見解に降谷は納得するが、それでは説明のつかないことがある、と、しかし、と言葉をつなげる。
    「君の隈の原因はそれだけじゃないだろう?」
     降谷の言葉に、鋭い、と思うと共に、それは今回の調査外であるためおいそれとは話せないとも思う。
     志保は降谷へ手のひらを差し出す。
    「……ここからは料金外よ」
     したたかな志保に、再びあむぴスマイルを向ける降谷。
    「温泉でも行く?」
     降谷の提案に半分呆れた志保はその差し出した手のひらを引っ込める。
    「それはあなたが行きたいだけでしょう」
    「そうだけど」
    「まぁいいわ」
     降谷の提案に乗ってやってもいい、と、両手で肘をつき、顎を乗せると「ねぇ」と話しかける。
    「この薬と一緒にVRゴーグルもなかった?」
     何かを確信している志保の瞳に、そんなこと何が関係あるのかと、降谷は疑心しながらそれを肯定する。
    「……あったが?」
    「やっぱりね。確定。これ、『ハッピーパンダ』よ」
     これ、と人差し指で降谷の前にある資料をトントンと叩く。
    「はっぴーぱんだ? なんだその腑抜けた名前は」
     思わず出る素の降谷に、やっぱり知らないのね、と満足げな志保。
    「最近ネットで流行ってるのよ。表向きは電子ドラッグって触れ込みね」
     電子ドラッグ。それは、DTMや中毒性のある音楽や映像で気分を上げる、なにも法に触れずに高揚感や多幸感を得ることが出来る。
    「電子ドラッグ……何も罰せない、か」
    「そ。このリタリンもどきだって麻向法か薬事法ね」
     これだけのことにご苦労様です、と、話はこれだけだと言わんばかりに、荷物を片し始める志保に違和感を覚えたのは降谷だった。
    「それだけ?」
    「え?」
    「他に知っていそうな顔に見えたんだが……気のせいかな」
     流石の洞察力、と志保は感心し、しかしソレこそタダでは渡せないと、志保はニンマリと笑顔を浮かべる。
    「追加料金」
     先程同様、手のひらを差し出す志保に、旅館のエステプランもつけようか、と降谷。その提案に、まぁいいわ、となんだかんだで乗ってしまう。
    「……昨日、工藤くんからこれと同じものが持ち込まれたわ。科捜研はリタリンの亜種って結論を出したけど、本当にそうなのかーってね」
    「工藤くんが? またなんで?」
     私に聞かないでと言わんばかりに向かい合っていた体制を斜めにし片足を組んで両腕も組む。
    「知らないわよ。まだ何かの事件に首突っ込んでんじゃないの? 彼、捜一に顔が利くから、ねぇ?」
    「絶対に知ってるだろう」
    「さぁ? 私、警察官じゃないので」
     もし知っていたとしてもこの調子の志保が口を割らないことくらい、降谷は痛いほどに理解していた。だって、恋人なんだから。
    「まぁ、いい。あとは戻って調べるよ。捜査協力に感謝する」
     降谷は志保から渡された資料を手持ちのビジネスバッグへとしまうと席を立つ。
    「善良なる日本国民ですから、当然ね」
    「その割にはだいぶ集られたがな」
     志保と共に応接間を出てエレベーターホールへと向かう。この時間、いわゆる朝イチに出入りする部外者は降谷だけのようでラボの入り口は閑散としていた。代わりに、ラボの研究員が行き来する。
    「こっちだってボランティアじゃないのよ」
    「助かったよ。じゃ」
    「お疲れ様」
     エレベーターホールの前、フロアの出入口で降谷がエレベーターへ乗り込むまで見送ると、志保は一つ伸びをした。
     志保は渡せるだけの情報は渡したのだから、後は関係ないだろうとたかを括った。私が黙っている限り、どうせ誰も気が付かない、と。
     そして、今日は早く帰ろう、と心に決めるのだった。

     降谷は庁舎へ戻るとそのまま会議室へと向かう。いつもなら途中で喫煙所へ寄るところだが、今日はそうもいかない。
     先ほど志保から得た情報。捜一も関係をしているのならば早々に指揮権を公安へと移さなければならないからだ。
    「降谷さん、お疲れ様です!」
     会議室へと入ると朝も早くから詰めている、もとい徹夜組に挨拶をされ、指揮官席へどかっと座る。
     辺りを見まわし、右腕の姿がないことに会議室ないを見渡すとそれに気がついた新人が降谷の元へと駆け寄る。
    「風見さんなら仮眠室だと思います。呼んできましょうか?」
     この気がきく新人の名を成川という。階級は警部補。新人と言っても二年目になるのだが、今回の事案の下っ端、最年少に当たるため、何かと新人呼ばわりをされている。そして学生時代、降谷の恋人のおかげで『万年二位』という不名誉な呼び名がつけられていた。
    「いや、いい。そのうち戻ってくるだろう」
     降谷は風見を待ちながら、今回の検査結果に目を通す。
     民間科捜研へと依頼を出したこの代物は、例の組織の残党が所持していたものだったが、それは志保には知らせていない。過去を精算し今を生きている彼女に知らせる理由はないと思っていたからだ。
     所持品リストを確認すると、やはりVRゴーグルの文字がある。これの解析も志保の所属するラボにお願いしないとならないだろう。その時はいつも通り風見を使いに出すか、と宙を仰いだその時だった。
     降谷に影が重なり、お疲れ様ですと声がかかる。寝起き声だがそれが右腕のものだとすぐに判断ができた。
     視線を向ければ寝癖に顔にはシーツの跡をつけ、緩んだままのYシャツの首元。きっと誰かから降谷の戻りを聞いて飛び起きてきたのだろう。本当に寝起きそのままの風見が立っていた。
    「君、寝癖ぐらい直したら?」
     降谷に言われるまで寝癖に気がついていなかった風見は顔を赤くし、すみません、と謝る。
     その姿が、年上なのに微笑ましく思え、まぁいいけど、と小さく笑みを作る降谷。
    「この件、捜一も絡みそうだから、早々に手を打っておいてくれ。あと、VRゴーグルも宮野さんのところに届けてほしい」
    「VRゴーグルも、ですか?」
    「あぁ、これ、ハッピーパンダっていう電子ドラッグらしい。まぁ、宮野さんの方が詳しいけど、うちでも一応調べておいてくれ。きっとあちらさんも握っている情報だ」
     『あちらさん』という言葉に風見は一瞬眉間に皺を寄せるがそれを悟られる前に表情を戻す。合同捜査会議の日程は来週に迫っている。そろそろ来日してきている頃合いだろう、とどちらともなく考える。
    「了解です。宮野さんのところへは成川を行かせようと思いますが問題ないでしょうか?」
     風見からの提案に驚きはしたが、下を育てようとするその姿勢を汲みたいと思ったので、その意見を尊重することにする。
    「あぁ、そうだね。彼もそろそろお使いくらい行かせようか。ついでに志保さんからハッピーパンダの詳細を聞いてくるように言ってくれ」
    「ありがとうございます!」
     風見は元気よく礼を述べて降谷の元を去る。
     会議室内を見渡して、降谷はふと思う。潜入捜査官の任務が終わり、他部署への移動を覚悟していたが公安に残された。今までの仕事スタイルとは異なり、刑事部のような仕事が多くはなったが、これはこれで悪くはない。しかし、物足りなさも感じていた。
     だからというわけではないが、この事案の担当になると決まった時、不謹慎ながらも高揚感を覚えなかった、と言ったら嘘になる。
     組織の残党の生き残り。死体で見つかったそのかたわらに落ちていたリタリンもどきとVRゴーグル。これらが何を示すかはまだわからないが、少なからずとも、今の平和な日常を崩す起爆剤にはもってこいだった。
     気がかりなことは一つ、志保のことだ。この事案、少なからず彼女の耳に入るだろう。その時、降谷はどういう選択をするべきなのか、考えあぐねていた。


     降谷が帰った後、一時間もしないで風見からの連絡はやってきた。
    『追加で解析をお頼みしたいものがあるので使いを送ります』
     志保に届いた一通のメール。文面から察するに、風見や降谷が来るものでは無いことが分かった。そして、大方押収したVRゴーグルの方が来るのだろう、とも予想した。
    (お使いなんて珍しい。そんなに忙しいのかしら……)
     今朝降谷が来たことでさえ珍しいのに、と珍しいことは続くな、と珍しいのではなく忙しいのかと心配になってしまう。
     志保自身、昨日は徹夜だったので家に帰っていないため、降谷の忙しさは分からない。顔を合わせたのだって、三日ぶりだった。それなのに、あんな態度しかできない自分を可愛くないと思った。仕方がないが、あれが宮野志保なのだ。
     誰が来るかは知らないが、とりあえず今日のスケジュールと応接室の空きを確認し対応可能時間を返信する。空き時間は昼過ぎの十三時。研究者は忙しいし、このラボも繁盛しているのだ。社内外の打ち合わせで応接室は人気で人の出入りもそれなりにある。
     約束の時間まで、志保は日常業務をこなす。徹夜明けだろうとなんだろうと、仕事が減ったりはしないのだ。


     約束の時間、今朝と同様、同僚から声がかかり応接室へと向かう。今回使う応接室は『審議の間』。法の女神であるテミスの描かれた壁面が特徴的だ。
     お待たせしましたと応接室へと入れば、スーツ姿の志保と同世代くらいの青年が立って待っていた。
    「あなたがお使い?」
     どうぞ、とイスへかけることを促し、志保自信も入り口側の椅子へと腰掛ける。
     しかしその青年は立ったままで椅子に腰掛けることはせず、志保をまじまじと見つめている。志保が不思議に思い、どうぞ、と再び声をかけると、慌てて椅子に座る。
    「これが今回解析をお願いしたいVRゴーグルです」
     そう、青年が紙袋から透明なビニールの袋に入れられたVRゴーグルを志保の前に差し出す。
     それは志保が想像した通りのもので、袋の外見からVRゴーグルを観察する。一見するとただのVRゴーグルだが、志保はその中身を知っている。
    「了解。解析は、そうね……明後日の朝イチってところかしら。今結構詰まってるから」
     割り込みの作業が入ることは織り込み済みで、他の解析作業の調整を午前中に済ませておいた。その結果、割けた時間をつなぎ合わせて公安の解析作業へと当てられる時間を考慮しての『明後日』だった。
     いくら中身がわかっているからといって、ソレと同じだとはまだ断定できないし、何より今日くらいは帰りたい。
    「わかりました。それでは明日の朝イチで取りにきます」
    「明後日よ、明後日。その無茶振り、誰から教わったわけ?」
     素で言い間違えた青年は慌てて明後日と言い換える。
     要件は以上ね、と志保はVRゴーグルを預かり、席を立つので、青年も続いて立ち上がる。志保が応接室の扉を開けてもその青年は先ほど同様に動きが遅い。
    「あの、宮野さん?」
    「はい?」
     先ほどからなんなのか、この歯切れの悪い青年に、志保は怪訝な顔を浮かべそうになっては笑顔を貼り付けている。
     今も、笑顔で退室を促している。
    「俺のこと、覚えてない?」
     青年は志保に退室を促され、その状況を理解し、そそくさと志保の後に着く。
    「はぁ……ごめんなさい。記憶にないけれど、庁舎でお会いした方かしら?」
     昼過ぎのエントランスは朝と違い人の出入りが激しい。入れ違いに、依頼人やラボの研究員、営業職の人間などが行き交う。
    「大学、二年まで一緒だったんだけど……そうかぁ、覚えてないかぁ……」
     青年は肩を落とし、しょげる姿はまるで捨てられた子犬のようだった。
     そんなにしょげられても覚えてないものは覚えていないのだ。いくらこの青年が志保の背中に追いつこうと走ってきたといっても、前を走る人間が後ろを振り返ることは難しいのだから。
     エレベーターホールまで見送り、志保が下階へのボタンを押す。
    「名前は? あなたの名前」
     しょげたままの青年に、志保は慈悲の心で話しかけると、その青年はぱっと、顔を上げた。その顔は先ほどまでとは違い、一筋の光明が刺したと言わんばかりだ。
     志保の目にはやはり、子犬に見えてしまう。
    「あ、成川。成川翔」
     名前で思い出すかと期待したのも一瞬。
     志保は人差し指を眉間に当てて考えるが、何も思い浮かばない。大学生時代、別に同級生と交友を持っていなかったわけでもないが、比較的女子とつるんでいた。異性を避けているわけではなかったが、何より多方面からの『お手伝い』要請が多かったのだ。新一とは大学は異なったが、ワトソンのごとく相棒としてこき使われ、公安からは新一経由で『解析』を頼まれることもしばしば。そんな慌ただしい大学生活の中で、交流のない学生のことなど気にする余裕はなかったのだ。
    「……ごめんなさい、やっぱり思い出せないわ」
     そうだよね、とやはり肩を落とす成川の元へ、エレベーターが到着し、肩を落としたままの成川を乗せる。
    「うん、いいよ。いい。これから覚えて」
    「そうさせてもらうわ」
     じゃぁ、とお互い小さく手を振り合って、エレベーターの扉は閉まったのだった。
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