暑さは我慢できない「オイ、風間…暑い…あーついぃ~」
もう初夏は明け、本格的に真夏に入った昼間。松月の座敷で、耕助は俊六にギュウと抱きしめられていた。その暑苦しさったらない。只でさえ、窓から太陽が照って蒸し暑いのに、成人男性並の猛々しい男に、きつく抱きつかれているのだ。
「耕ちゃん、暑いね…」
「そりゃそうでしょうよ。ねエ、離してちょうだい。このままじゃ二人で溶けちゃうよ…」
耕助は頬を真っ赤にして、苦しそうな顔で嫌がった。暑いせいで下のシャツを着ていない耕助は、鎖骨から胸へ、素肌に汗がぽたりと伝っていくのが見える。首筋、額、顎の先。生まれて落ちていく彼の汗。それを間近で見ながら、俊六はゴクリと喉を鳴らした。
「耕ちゃん、ここは暑いだろ…涼しいとこ連れてってやるから」
「イーヤ。ただ離してくれればいいの。どうせ下心があるんだろう」
「ないよ…ないから…」
俊六の声色に若干色がついてきたのを感じた耕助は、無理に俊六の身体を引き離した。ずりずりと足で畳を蹴って、数歩後ろへ下がる。離れたとしても、まだ暑いのは変わらない。耕助は汗で湿ってしまった浴衣の裾で、グッと顔の汗を拭うと、ハアと溜め息をついた。
「下心は、ないんだよね?」
「ない」
「ホント?」
「多分な。あんまり自信ねぇけど」
「ヤダぁ。それじゃあ誘ってるのも同じじゃないか、もう…」
だが、ここより涼しい快適な場所は捨てがたい。風間が下心はないって言ってるし、それならいいかな…と耕助は迷う。考えている耕助の様子を見て、風間は心の中で万歳したい気持ちだった。
「よござんす。君についていきましょう。けど、涼みにいくだけだからね。なにか他に…ほ、ほっ他ってのもおかしいけど、と、とっ、とにかく涼むだけだから!」
「ヨシ、決まったな。これから車出してやるよ。涼しいぞォ、もう夏なんて忘れちまうくらいにな。俺が建てた一等良いビルだ、期待してろよ」
「アア、なんだか嫌な予感がするなア…本当かねえ…」
そうは言いつつも、心の中で少し期待している自分もいる。耕助はどこかでそれを自覚して、暑さで赤らめた顔をさらに赤くした。嬉しそうな俊六に手を差し出されて、耕助はその手を取り、二人で暑い座敷を後にしたのだった。