言えない1「君は、未確認生物の存在を信じるかい?」
行きつけのカフェでウイスキーをちびちびと舐めながら、帆村は私にそう言った。
「未確認…生物、ってのはあれかい、宇宙人とか…」
「そう。宇宙から飛来してきた異星人だよ」
私は少し考えて、こう答えた。
「宇宙って広いんだろう?よく、知らないけれど…その中に、私達と違う生き物がいたとしても、不思議ではないと思うがネ」
「そうだね」
帆村が何を言わんとしているかわからず、私は目をパチパチとさせた。
「異星人は何を考えているやら分からない」
「そう…なのかい?」
まるでその「異星人」とやらに出会ったような言い振りなので、彼はもう酔ってきたのだろうかとグラスの中身を確かめた。まだ十分に酒は残っている。
「僕はね、彼らが何をしたいのか…興味があるんだよ。何を考え、今を、どうしたいのか。でもね、彼らは僕の思考など上回る、立派な知性を持っている。その先を見ているんだ」
「…う、うん…そうなのかい」
帆村は真剣に私の目を見て語っている。理由はよく分からないが、私も真剣に受けとめようと、ジッと彼の目を見返した。
「君には嘘をつかないつもりだ。これから何があっても、君は僕の話を聞いてくれるかい」
「エ…あ、ああ…もちろん、僕もそのつもりだ」
帆村の思い詰めたような目線が痛ましい。一体、どうしてしまったのか。何か隠し事でもあるのだろうか。それが、先程会話に出てきた「異星人」に関する事なのだろうか――
帆村はふうと溜め息をついた。
「すまない、僕はどうかしている」
「帆村君。悩みがあるなら、何でも言ってくれ給えね。僕なんかが力になれるか分からないが…君はなんだか、思い詰めているようだから」
「有難う」
帆村は微かに笑った。その笑顔が、最後に会った彼の姿だった。
その時は知る由もなかったのである。帆村が異星人と出会い、会話し、脅されていた事を。