悪趣味【水麿】「っ、……」
自分では堪えたつもりだったのに、彼には聞こえてしまったのだろう。水心子は唇を離すと、心配そうに僕を見ていた。けれど口を開く様子はない。僕をじっと見る緑色の中にはまだ昂りかけた熱が灯ったままだ。
このまま誤魔化すこともできる。けれど、きっとそれをしてしまえば水心子はこの時間を終えることを選択するだろう。無理はさせたくない、そう言って。でもそれは僕自身の望む優しさではない。
僕の中に燻る熱が少しでも伝わるように、指を絡める。水心子が目を細める。
「あのね……」
続きを促すように、手を握られた。
「傷とかそういうのじゃなくてね……なんでもないんだよ……今朝から口内炎がちょっと」
「わかった」
己の体が後ろに倒れていく。押し倒されたのだと分かった瞬間には、再び口が塞がれていた。え、という声は、彼の口に封じられた。開いた隙間から舌が入り込んでくる。それに応えるように舌を絡める。にちゃりにちゃりと自分の中から音が響いてくる。
くらくらとする頭は酸素を求めてより大きく口を開こうとする。けれどその瞬間、水心子が笑った気がした。そして、口の中からぴりっとした痛みが走る。
「う゛っ!! ん……ッ!!!」
痛いっていったのに、口内炎をくじられている。悪趣味だ。爪を立てて訴えるけれど、水心子はますます調子に乗るばっかりだった。