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    yuuka_m

    うちの初期刀と初太刀。
    最近は原稿のバックアップに使われていたりする。

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    yuuka_m

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    ひらブー用に書いているもの。
    月1更新。
    獣化。特殊本丸。

    #ちょぎくに
    directly

    本科さまはお猫様。2度目の聚楽第への遡行経路が閉じた頃、この本丸は開かれた。
    だから、監査官と呼ばれた己の本科の姿を知る機会は無く、戦場以外に出る機会もない俺にとって、山姥切長義として顕現した本科の姿も見たことはない。
    だから、政府から配属となった刀剣や、時折やってくる他本丸の同位体に聞いたことがある。本科はどんな感じなのかと。それぞれに本科との話をしてくれるが、最後にはこう言うのだ。「猫みたいな刀」だと。
    それは、南泉みたいな感じなのか?と本刃に聞いたことがあるが、「俺とは全然ちげーよ」と言われた。それでも、南泉も猫っぽいと言っていたから、南泉とは違う感じの猫なのかもしれない。毛色が違うみたいな感じの。
    そんな感じで、聚楽第以外の特命調査は完遂し、後は聚楽第への遡行経路が再び開かれる頃を待ちわびていた頃、シール産という形で、本科はやってきた。
    引き換えてきたから、顕現に立ち会うかと、主に言われた時は、とても驚いて飛び上がりそうになってしまった。まさか、こんな形で再会するなんて、思ってもいなかったからだ。
    この本丸にいない刀はまだ多く、そんな中で本科が選ばれた理由は、特命調査がひと段落した今、次いつあるかわからないからというものであった。本科に力量を認めてもらった上で、本丸に迎え入れるということはできなかったが、本科がこの本丸の刀となるのは、正直、嬉しい。いろいろと、うまくいかないという話も同位体から聞いてはいたけれど、いるのといないのは大違いだ。そっと眺めているくらいで俺にはちょうどいい。
    そんなことを考えながら、顕現の間へと向かった。本科に何を言われるかという怖さもあったけれど、迎え入れる場に、立ち会いたかった。一目、その姿を見れたら十分だった。目に焼き付けて、それを反芻するだけでもいいと思った。
    しんと静まり返ったその場所で、主の霊力がその刀に注がれる。それが桜の花弁となり、一気に広がった。
    桜舞い散る中、己の本科と対峙した。ああ、なるほど。言われた通りの刀だ。ただ……
    「猫にしては大きいな」
    銀に近い灰色に、黒っぽいまだら模様が散在する体毛は艶があり、縞模様の尻尾はとても太い。
    猫みたいだと教えられ、どんな猫だろうと図鑑を開いたことがあった。それに載っていたのを見たことがある。確か、この動物の名前は。
    「雪豹、と言うんだったか」
    澄ました顔で、こてんと首をかしげこちらを見つめる。その藍色の瞳には知性の火が灯る。
    「これは、いつもな感じかな」
    「どちらかはわからないが、多分そうだろう」
    この本丸は、鍛刀した刀が獣の姿で顕現する確率が高い。大体の場合で特になれば刀剣男士としての形を作ることができるようになるため、それまでの世話を同じ刀派や、所縁のある刀に任せている。
    本科はシール産であるため、判断が難しいところだが、他の、政府から配属となった刀では起こらなかったため、勝手にならないと思い込んでいたようだ。
    「お世話、頼める?」
    「俺で、よければ……」
    こうして始まった二振りでの生活。この直後に、飛びかかられて下敷きになったのをよく覚えている。肉球部分にまで毛がびっしりと生えていて、もふもふだったからだ。雪で滑らないためのものらしいと図鑑には載っていた。

    ◆ ◆ ◆

    獣の姿では練度上げのために戦場に行くことはできない(雪豹の本科であれば、その爪と牙で時間遡行軍を屠れそうではあるが……)ため、最初は根兵糖での育成となる。時の政府はそういった対応には慣れているようで、申請を出せば特までに必要な分の根兵糖を支給してくれた。あとはそれを食べさせればいいわけだが、膨大な量となるために日数が掛かる。
    そのため、練度が上限に達した同じ刀派や縁のある刀が世話をすることになるのだが、あいにく、本丸にいる長船派は極修行から帰還したばかりであったし、同じ美術館にいた刀達は、極後の練度上げの真っ最中で、南泉一文字は新しく顕現した一文字派の対応に追われていた。(一文字派は鳥類が多めであるが南泉は三毛猫だった。しかも雄の。)
    なので、俺にお鉢が回ってきたのだろう。
    練度が上限に達した特付きの俺は内番や近侍の仕事ばかりであったから、本科の世話をするのに特に問題はない。どちらかといえば、本科が俺に世話をされてどう思うのかの方が問題であったが、顕現初日から押し倒すようなじゃれあいをしておいて、「おまえのことは嫌いだ」なんてことにはならないだろうという結論に至った。

    本科の世話をして数日、わかったことといえば、本科は床に置かれた皿からは食べないということだ。皿を低い机に置いても手を付けず、結局俺が食べさせている。一番好きなのは俺の手から直接食べることらしく、掌の上に出した根兵糖をじっと見て、それからパクっと俺の手ごと口に入れる。俺はいつもヒヤヒヤしながら食べさせなければならず、心臓に悪い。ただ、これを何度かやれば皿から食べてくれるようになる(床や机に置くと怒るから、結局俺が皿を持たないといけないが)から、仕方なく続けている。
    食べ終わったら今度は運動の時間だ。獣の姿であっても動いてなければ鈍る。だから、一緒に走ったりしているのだが、勢い余って俺に飛び掛かり、押し倒すことが多い。すぐに飛び退けばいいが、そのまますんすんと首筋の匂いを嗅ぎ始めることもあって、そういう時は尻尾をぐっと引いて俺の上から退かせるようにしている。こういうのは毅然と対応するのが一番いい。一度でも許せば癖になってしまう可能性もあるし、あの大きさでは誰かを潰してしまいかねない。「ぎゃう」と鳴いて、しょんぼりとしていても、そこで甘さを出してしまうことは本科のためにならないのだ。

    お猫様な本科は、この生活を楽しんでいるような気がする。直接聞けたわけではないが、のびのびとしているように見えるから、多分間違ってはいない。音声言語でのやりとりができないから、刺々しい雰囲気にならないのかもしれない。
    ただ、この関係ももうすぐ終わる。予定では明日の朝の根兵糖で本科は特になる。その時が少し怖いけれど、刀剣男士としての本科に会えるのを楽しみな自分もいる。俺はまだ特だから、そんなに強く言われることはないはずだ。それは他本丸の同位体に確認済である。
    どんな姿をしているのだろう。髪はふわふわのもふもふではないだろうが、色は近いんじゃないかと思う。眠っている本科の側を離れ、部屋の隅にある鏡に近づき覗き込む。この姿は、本科を写したものだ。ならば似ているところもあるのだろう。俺みたいに卑屈ではないことは確かだけれど。

    鏡を覗き込む姿を、寝床からそっと雪豹がみていたことに俺は気付かなかった。

    ◆ ◆ ◆

    桜吹雪が舞う。
    ああ、やっと言葉を交わすことができるのかと、それを見ながら思った。
    本科の世話をするのは別に嫌ではなかった。もうする機会は無いだろうけれど、もし次があるとすれば、今度は自分から申し出ようと思うくらいだから、その状況を(本科には悪いが)気に入っていたのかもしれない。
    ただ、それを見つめていた。だから、気付くのが遅れたというか、反応できなかったというか…。

    「抵抗しないってことは、そういうことだよね」
    くるり、と視界が回る。起きていたのに、布団へと逆戻り。痛くはないし、いつものことだからと様子を見る。
    「やっとだ。やっとおまえを可愛がってやれる」
    猫なで声とはこのことか。いや、本科も猫だけれど。
    仕方がない。こういうのはしっかりと躾けなければ癖になる。いや、何度も躾けてはいたんだが、この状態では初だ。ならば、躾け直すまで。
    「いっ、たぁ!!」
    ぐいっと尻尾を引っ張れば、いつものように上から退いた。耳はイカ耳というやつになっていた。恐怖……ではないな。どちらかといえば、不満だろうか。
    「躾だ。人を押し倒したら危ない」
    「どう考えても、これはじゃれ合いではないと思うのだけれど」
    「じゃあ何だ?捕食か?」
    「意味合い的には近いけれど、そのまんまの意味で取られたら困るかな」
    謎掛けのつもりだろうか。頭の回転は早いのだろう。捕食に近くて違う、それは……。
    「残念だったな。俺はそういうことをされても感じないぞ」
    「へぇ。初だと思ったけれど、経験あり、とか?」
    きゅっと本科の瞳孔が縦に細くなった気がした。部屋の明るさは変わらないのにだ。もしかして、怒っているのか?
    「いや、向かないというか、なんというか……とにかく、そういうのはもう少し制御ができるようになってからにしろ」
    もう一度強く尻尾を引っ張れば、本科は雪豹に戻ってしまった。きっと痛みで制御が乱れたのだろう。

    この本丸は、鍛刀した刀が獣の姿で顕現する確率が高い。大体の場合で特になれば刀剣男士としての形を作ることができるようになるが、稀に獣と男士のふたつの形を持つものが顕現する。
    本科も、ふたつの形を持つものなのだろう。そうなってくると、状況は変わってくる。
    「これは、制御できるようになるまで継続だな」
    本科がぎゃうと鳴いた。そのぎゃうはどういう意味なのか。まさか、喜んでいるわけではないよな?
    「変なことをしたら、また尻尾を引っ張るからな」
    この状態でイカ耳をされても……かわいくないことはなかった。
    いや、いけない。本科にかわいいだなんて。隙を見せればすぐに押し倒すような奴だぞ。
    シール産本科は、猫を被るのが上手で、雪豹ではあるが、でっかいイエネコみたいだ。
    まぁ、お猫様なのは最初からだったな。振り回される未来しか思い浮かばない。それでもいいかなと思ってしまうくらいには、自分もお猫様に絆されている。
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