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    under_ryuzo

    @under_ryuzo えっちなものから後ろめたいものまで

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    under_ryuzo

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    本軸の藤忍ちゃん。お付き合いはしていません。
    過去に書いた作品をリマスター版でお送りします。

    手解き「今日こそは、認めていただきますよ。」

     ぱちりと投げられたウィンクを、竜崎忍はうんざりした表情で跳ね除けた。声の主に冷めた視線を注ぐ女に反し、うっとりと自分の前髪を弄ぶ男。彼こそが自称美麗ナイスガイ、橘藤二郎である。

    「何度やってもわからんのか。認めるも何もお前の担当業務は畑違いだろうが」
    「甘いですよ竜崎隊長、成績優秀、眉目秀麗な俺は全てを熟さねばならないのです。その為には今日こそ勝ち、貴女の補佐官になってみせます」
     肩まで伸びた髪を括り、意気揚々と構える橘、練習室の隅にポツンと置かれた制服。幾度と見たこの光景に流石の竜崎も嫌悪の表情を浮かべた。

     人員の補充を延々渋るいけ好かない人事部に、竜崎本人が頭を下げ、やっとの思いで迎えたのが士官学校首席と華々しい経歴を持つーーまさに目の前にいる男、橘藤二郎である。
     科学技術に関して驚異的な才能を持ち、機械工学についても相当な知識を持つ彼だが、配属後毎日のようにこうして時間を見つけては『己の試練』とやらに竜崎を付き合わせている。……やや強引に。

     顔に似合わずお前、野蛮だなと悪態を吐き捨て即座に重心を前に傾ける。本来の実技試験と同じで武器の使用は不可としているため、携帯していた武器は全て部屋の隅に置いてある。
     今回も怪我をさせない程度に付き合うかーーと甘んじてしまった己を殴り倒したい。
    「ッ……!貴様、」
     橘の足払いは的確に竜崎の足首を捉え、その体躯を無機質な床に叩き付けた。受身を取り切れずに左腕を強打する竜崎。昨日の今日で成長速度が著しい。それでも追撃は許すまいと、痺れる膝に鞭打って後ろへ飛び退き間合いを取る。
    「……あまり侮らないでくださいよ、何度も同じ目には遭いません。」
     今日の俺は一味違いますよ、と橘はこれまで見たこともないほどの速さでミドルキックを放った。今度は竜崎も間合いを見切り、後ろに逸れる。軸足を狙ってローキックを入れようとしたが、簡単に躱され逆に足を払われる。ぐらりとよろけ主導権を握られかけたところを、ぐ、と床を思い切り押して耐え、半分倒れ込む体制から男の膝目掛けてもう一度蹴りをお見舞いする。体格の差もあり擦りもしないが、橘は一旦退き間合いを取った。
    「……お前足癖悪い、私の真似か」
    「好きな人の癖は真似したくなりますよねえ♡」
     言葉と同時に拳が目の前迄迫って来た。顔面攻撃。この男、普段はベラベラと愛だの恋だの甘ったるい事を語る癖して、実技試験より情け容赦の無いラフファイトをするつもりである。竜崎は腹を括り身体を反らした。
     感覚は研ぎ澄まされる一方でフェードアウトしていく冷静な思考の中、竜崎は一つの確信に至った。
     体一つ、ルール無用の喧嘩の作法、これはーースラムの戦い方だ。
     素手と思って甘く見た。下手を打てば、大怪我をする。
     なぜこの男がそんな戦い方を身につけているのか、そんなことを考える余裕は無い。もう四の五の言える場合では無いと、伸び切った橘の肘を目掛け裏拳を繰り出す。
     しかし、それは罠。関節への攻撃を見越していた逞しい腕にきりりと絡め取られた。
    「……甘いねぇ」
     どこまで俺を見くびるんですか、そのままぐいと引き上げられ、白くひびの入った壁に遠慮無く投げつけられる。不意の衝撃で背中をしたたかに打ち、息が止まる。脳内の天地が逆さとなった竜崎の目に映ったのは、追い討ちを掛けようと拳を構えた青年であった。自分とよく似た、鋭い瞳。
     流石の竜崎も橘のギャップには驚いた。挑む度に毎度床に伸び、ぐずぐずと泣いていた男がまさかここまで急成長していたとは。
     そっと瞳を閉じ、何かを呟き女は立ち上がる。背中の龍が燃えるように熱い。銀の瞳が煌る。
     竜崎のボルテージがふつふつと昇る事に気付いていない橘が拳を構えなおした刹那、手首に強い衝撃が叩き込まれる。
     女の姿は一瞬たりとも見えなかった、瞬間移動かのように軽やかに竜崎は舞う。橘は焦りを悟られないようにしつつも顔をしかめた。
     しかし、事態は橘が考えている程甘くはなかった。
     竜崎はそのまま逆立ちの様に床に手を付き、ぎりぎりの距離に留まる男に、爪先から落ちるしなやかな蹴りを入れた。いわば逆踵落とし、力は弱くとも重力とスピードを味方につけた打撃は相当の重さがある。
     橘はすれすれで女の足を跳ね除けた。反動でくるりと綺麗に一回転した竜崎は、橘の鋭い蹴りを不安定な姿勢のままきっちりと避け、また倒れ込むように前へよろける。
     同じトラップにはかからない。そう身構えた橘の胸元に、竜崎はひらりと飛び込んでいた…先程の動きからは絶対に予測出来ない速度で。
     艶やかにたなびく桃髪から細く覗く開き切った瞳孔は、橘の切れ長の目を真っ直ぐに見据えている。
     その尋常ならざる視線に橘は違和感を覚えた。同時に、コンバット・サンボ、と言う恐ろしい単語が橘の脊髄を走る。
     それは北国の厳しい寒さの中で生まれた、相手の殺害すら視野に入れた軍隊徒手格闘技。
    「……ちょ、ちょっとまっ……」
     きっちりと揃えられ張り詰めた女の指は、橘の片目を今此処で抉り出さんと、憤怒に燃えたぎる龍が如く襲いかかる。まずい、任務中の顔つきとなんら変わらん。流石の男も、予期せぬ攻撃に身体をのけ反らして目を覆った。
     死の恐怖にも似た何かが男を飲み込む。最後にその柔らかな胸元に顔を埋めたかったと気持ちの悪い望みを胸に、うろ覚えのお経を唱える。南無阿弥陀……。


    「気が済んだか」
    浅瀬から顔を出したかのような息苦しさから這い上がり、思考が泥のように流れた。
    目を開けると桃色の長い髪がさらりと流れる。後頭部がやたらと柔く、甘くいい匂いが鼻腔をくすぐる。
    「……しのぶ、さん」
    「プログラマーとして士官学校からお前を貰ったんだがな……まぁ、意外だな」
    にこりと弧を描く色っぽい唇。視界に広がる二つの山、やま……?
    「なァんどゥッンンッすぃぬぉぶさんッン」
     言葉にならない叫びをあげ、橘は飛び上がった。職務中に上司に膝枕をして頂いていたなんて、色事に厳しいかつての教官である沢城に見られていたら即刻斬首ものである。
     引きちぎれんばかりに弾け飛ぶ橘を他所目に、竜崎は立ち上がり修練場にブーツの小気味良い音を響かせた。
     おもむろにばさりと制服のジャケットを脱ぐ。支給品の黒いインナーとボトムスを身につけた彼女を見て橘は息を呑んだ。
     引き締まった腰周りにも、インナーを押し上げる豊満な胸元にも、スラックスを纏う長い脚にも、女は何一つ構えていない。言わば丸腰である。指先にも、肩にも少しも力が入っている様には見えない。険しいながらも嫋やかな目元、ぷっくりと妖艶に光る熟れた果実のような唇。彼女はするりと己の耳元に手を伸ばし、ピアスの片方を外した。
     引き結ばれた口許が僅かに解け、窓から差し込む光が彼女を照らす。
    「半年間、お前の試験とやらに付き合ってはきたが、お前の成長には正直驚いたよ。基礎以上の動きはできている……だが、まだ完璧とは言えない。これからは私が指導をする、いいな。」
     さらりと流れる桃髪と、手渡されたピアスがきらりとひかる。
     夢にまでみた合格の証を手に、橘は頷く他なかった。
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