綾瀬桃の充電方法モモは脱ぎっぱなしのシャツに顔を埋めて、胸いっぱいに匂いを吸う。ゆっくりと目を閉じ、頬が緩み思わずふふっと声が漏れる。
その様子にオカルンは目をまんまるにして、ビクッと固まった。警戒度MAXの猫ように。
「なっ、何してんですか」
オカルンは彼女からシャツをひったくる。汗がたっぷり染み込んだそれは絶対に臭いはず。じわっと体温が上がり、指先が小さく震えてきた。
モモは首を傾げて、さも当然の如く言う。
「オカルンの匂い嗅いでんの」
モモは何がおかしいの?とでも言うように、まばたきをする。
また訳の分からないことを言い出したと、オカルンは頭を抱えて丸くなった。
「何でそんな汚いのわざわざ嗅ぐんすか」
「だってぇ、オカルン嗅がせてくれないじゃん」
「当たり前でしょうが!汗だくで臭いのに!」
「臭くないよ、ウチは好きだよ」
「……いやいやいやいやそんな状態で近寄られるの恥ずかしいんで」
「じゃあウチも汗いっぱいかいた時は、オカルン近寄らないでね」
「うっ」
それとこれとはまた別である。だがそう言えば振り出しに戻るからこそ、オカルンは唇をきゅっと甘噛みしたまま黙ってしまった。
「オカルンの匂い嗅ぐことで、ウチは安心すんだからイヤイヤ言わないで」
モモは後ろから抱きついて、彼本人の匂いを存分に吸い込み、肺の中を満たす。
ピオニーとリリーのソープとオカルンの体臭が混ざった、甘く爽やかな香り。
同じシャンプー、同じ洗剤、全部同じなのに全く違う匂い。
モモは幼子みたいに強くホールドしたまま、オカルンの匂いで充電し始めた。
オカルンの理性が吹っ飛ぶまで、あと数分だということも知らずに。