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    pppliv

    色々置いてくかもしれない

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    pppliv

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    温泉「そうだ、温泉に行こう!」



    「……何をいきなり、とち狂ったことを言い出すんです?お姉。」

    アクアの突飛な発言に、メロディは読んでいた本をぱたんと閉じて呆れた顔を浮かべた。

    「えーだって行きたくない?温泉さぁ〜ねぇねぇねぇ〜〜」
    「ここから温泉地までどれだけ距離があると思ってるんですか」
    「いーじゃん!出不精は良くないって!」
    「それだけじゃありません、お金だって掛かるんですから!最近モンスターの出現が減り、討伐の依頼も減って家計が苦しいんです。分かりますか?」
    「え〜〜〜………パールも行きたいよね!温泉!!」

    口を尖らせたアクアに突然話題を振られたパールは、わたわたとしながらも口を開く。

    「えと…その…寒い季節には温泉が一番、でしゅっ……ですよね…!」
    「ほらー!!!アイスも!」
    「………ボクはいい」

    アイスにすげなく断られ、メロディからもほら見ろと言わんばかりの冷たい視線を送られたアクアは、頬を膨らませてむすっとした表情を浮かべた後、はたと思いついたように手を叩いた。

    「……じゃあ、お金が掛からなければいいんだよね?」
    「…何を言ってるんです?」
    「ほら!!ここに穴を掘ってさ!剣の力で水を貯めれば!!!」

    どこからともなく剣を取り出したアクアは、その剣を振り回し無尽蔵に湧き出る水の力を示してみせる。
    その光景に呆気に取られたメロディは、無言で固まった後、暫くしてようやく声を絞り出した。

    「…………剣をそんなことに使っていいんですか?」
    「持ち主たるあたしがいいって言ってんだからいいに決まってるじゃーん!」
    「あぅ…でも、その…剣から出てくるのって、お水…でしゅよね?この寒さで……水のおふろ……」
    「そ、それは………ねえアイス?何とかならないかなぁ〜?」

    アクアからの縋るような視線を受けたアイスは、少し考えるように押し黙った後、視線を手元の作業に戻しながら口を開いた。

    「……なるか、ならないかで言えば……なる」
    「よーーっし決まり!!!」

    勢いよく声を張り上げたアクアに慌てたのはメロディだった。まさか本気でやるつもりなのか、と焦りの表情を浮かべる。

    「ちょっ…正気ですか?穴を掘ってここに温泉を?私は嫌ですよ、肉体労働なんて…」
    「じゃあいいもんあたし達だけでやるから!ねーアイス、パール〜?」
    「…………ボクは」
    「穴掘ってたら、珍しい鉱石とか出てくるかもしれないよ〜?」
    「やる」

    即決じゃないですか、と頭を抱えるメロディの後ろで、「わたしもお手伝いしますでしゅっ!」とパールも元気に声を上げた。

    「…本当に、貴方達って人は…!」


    ***


    「……で?そんな理由で呼び出されたのか俺は」

    姉妹達の住処に、急に呼び出しを食らった男―ガナリアは、渡されたシャベルを片手にやれやれと深い溜め息をついた。

    「そうそう。モチロン手伝ってくれるよね?」
    「俺は便利屋じゃねーぞ…!!」
    「いーじゃんケチ〜。それともこーんなか弱い乙女達だけで穴を掘らせる気?アリナガクンがそんなヒドい男だなんて知らなかったなぁ〜」
    「ガ・ナ・リ・ア、だっ!!どこがか弱いんだよどこが!」

    ていうか手伝ったところで俺に何のメリットもねえだろーが!と唸るガナリアに、アクアはニコニコとしながら後方を指差す。

    「ほら〜アイスはもう掘り始めてるよ?あんなにやる気満々でさ!」
    「…温泉作りにやる気まんまん、というよりいっしょうけんめい石を探してるように見えますでしゅ…」
    「勝手にやってろよ!!あーもう、ったく…しょうがねえな〜…!!」

    そう言い捨てて半ばヤケクソにシャベルを地面に突き立てたガナリアを見てアクアは、「それでよし!」と満足気に笑みを零した。


    ***


    作業開始から暫く経ち、高く昇った太陽が辺りを照らす。

    「あ〜〜〜………!!」

    つっかれた、とその場に座り込むガナリア。
    少し休憩しようと、逆側でやいのやいのとアクア達が穴を掘っていくのを離れた位置から眺めていれば、ふと背後に人を気配を感じてそちらに視線を向けた。

    「本当にすみません。お姉の無茶に付き合わせてしまって…」
    「あー…まぁいつもの事だから気にすんな」

    申し訳なさそうに眉を下げて茶を差し出すメロディに、ガナリアはそう言いながら茶を受け取る。そのままぐいと一口飲むと、ちょうど潤いを欲していた体に心地良く染み渡っていくのを感じた。

    「まさか本当に温泉を作ろうとするとは……いえ、この場合温泉という言葉が正しいのかは分かりませんが……」
    「まぁ…あいつの剣から出る水だし何か不思議なパワーはあるんじゃねえ?知らねーけど」
    「それにそもそも、ただ湯に浸かりたいというだけの話だったらいくらでも他に方法はあったはずなんです。ある文化ではもっと手軽に入れる方法も……」

    ブツブツと愚痴が止まらない様子のメロディを見て、ガナリアは小さく笑う。

    「デッケー風呂で、姉妹みんなで入りたかったんじゃねえの、あいつは。
    …それにあいつの、ああいう…馬鹿で突拍子もなくて、多少強引なとこに惹かれて着いてきたんだろ。お前達もさ」
    「……そう、ですね」

    目を細め呟くメロディを傍目に茶を一気に飲み干し終えたガナリアは、さて、もうひと頑張りするか!と立ち上がった。


    ***


    できたー!!!と、アクア達の声が周囲に響いたのはもう日も暮れようかという頃だった。

    「あ〜……ホンット疲れた……!!」
    「えへへっ、みんな頑張りましたです!」
    「アイスさんは、何か良いものは見つかりましたか?」
    「……大体、予想通りのものばかり。……けど、部品作りに使えるから……いい」
    「機械作って穴掘って、今回一番頑張ったのはアイスだったかもね〜♪さぁて、それじゃ早速入ろ入ろ!
    ……あ、ガナリアは覗かないでよ?えっち!変態!」
    「誰が覗くかよ!!はー、マジで穴掘り損じゃねーか……」
    「えと、わたし達のあとでゆっくり浸かってくださいですっ…!」

    アクアの剣から勢いよく湧き出す水がアイスの作った機械により温められ、皆で掘った大きな穴に満たされていく。
    寒空の下に湯気が立ち上っていく様は、一見すれば本当の露天温泉のようだった。

    「うわ〜うわ〜、思ったよりイイ感じじゃん…!」
    「ほわぁ…すっごく楽しみでしゅ…!」

    目をキラキラさせながら覗き込むアクアとパール。
    それを見ていたメロディの背後から、湯に浸かるためか髪を纏めたアイスがむぎゅっと抱き着いた。

    「ふふんっ、メロちゃんもアイスの機械作りのお手伝いしてくれたもんねーっ♪一緒に入ろっ!」
    「アイスさんが仰った通りに部品を組み立てた程度ですが……では、お言葉に甘えて」


    充分に湯が満たされ、入浴の準備を整えたアクア達は、温かな湯の中に足を浸けるとそのまま全身をその中へと沈めた。

    「っはぁ〜〜っ、最っ高……!!」
    「きもちいいですぅ……」
    「いい湯加減です……さすがアイスさんですね」
    「っわはーっ♪ねぇねぇ見て見て、キツネさんタヌキさんも寄ってきてる!みんな入りたいのかなぁーっ♪」
    「猫じゃらし使えばもっと寄ってくるんじゃない!?」
    「そ、それはどうでしょう……」
    「はー…楽しそうで何よりだよ」

    温泉に背を向けながら、ガナリアが口にすれば、「アンタもありがとね!」とアクアも笑った。

    「お礼に後でちゃーんと入らせてあげるから!」
    「たりめーだコラ」
    「……あ!この調子で夏はプールを作るとかどう?この穴をもっと広げてさ!」
    「調子に乗らないでください!」

    冬の寒空の下に、楽しげな笑い声が響く。
    こうしてアクア達の賑やかな日常は過ぎていくのだった。
     
     
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