水の記憶本は好き。
現実でどんなに嫌なことがあっても、あたしを違う世界へと連れて行ってくれるから。
「やーい青目!陰気くせーんだよ!」
「こっち来んな、イタンが伝染るだろぉ〜!」
そんな声が聞こえたかと思えば、どこからか投げ付けられた雪玉があたしに当たる。
「い、っ……」
強い痛みを感じ小さく声を上げるあたしを見て、あいつらはケラケラと笑いながらどこかに去っていった。
開かれた本に雪が散り、じわりと滲んで染みを作る。
……投げ付けられた雪玉には、小さな石が入っていた。
こんな回りくどい方法を取るのは、誰か大人に指摘された時に雪遊びをしていただけだと言い訳するためだろう。
「(……別にそんなこと、しなくていいのにね)」
あたしは雪を払い、本を閉じて立ち上がる。
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