お髭「お兄ちゃん、顎汚れてる?」
そう言えば今日は剃ってなかったな。顎に手を当てながら「あぁ」と返事をする日下部君。今日は土曜日で特に出かける用事もないので身だしなみは整えていない。日車君は「遊びに来たよ!」と言い10分前にやってきたばかり…今は日下部君の部屋のベッドを背もたれにして2人仲良く並んで読書中。日車君は家に親が居たが大好きなお兄ちゃんまっしぐらである。
「寛見、これは髭だ」
「ひげ?僕には無いよ?」
「まだ、な?お前も俺ぐらいになったら生えるさ」
日下部君の言葉に首を傾けながら自分の顎をそっと触る日車君。そんな動きを見ながら日下部君は自分の持っている本に目を戻す。だがどうも視線を感じて顔を上げると日車君はどうやら自分の顔を…いや顎の辺りを見ているようだった。
「寛見?なんだ」
「…お兄ちゃん…触っていい?」
何をと聞くのも野暮かも知れないが面倒くさそうに聞いてみる。
「なにをだ?」
「髭…触りたい」
「今触らなくてもお前にも、生えてくる…」
「えー…ダメなの?」
普段はいい子でいようと無意識に行動している日車君を知っている日下部君は(俺は寛見に甘いなぁ…)と感じつつも体を向けてあぐらをかき、顔を寄せて「ん」と差し出す。
差し出された顎に目を輝かせて、本を置き日下部君の前に座り直すと両手でそっと触れるようにさわる。
「寛見、くすぐったい。触るならちゃんと触れよ…」
「はーい。へへっ…柔らかいけどジョリジョリするね…!お兄ちゃん、このお髭どうするの?」
「んー?明日には剃る」
「そる?」
「髭剃り。寛見の父さんだってするだろ?朝起きたら鏡の前で」
「うぃーんってしてる」
「電動か…いいな…」
「え?剃っちゃうの?」
「男の身だしなみだ。しないと怒られるぞ」
「大変なんだね」
「他人事だな…お前も髭が生えたらやるんだぞ?」
そう言いながら日下部君は日車君の顎をさわる。髭など知らないすべすべの肌を触り羨ましくなる。そんな気持ちを知る訳もなく自分の髭で遊ぶ日車君を見てイタズラ心が動き出す。
「寛見?」
「なぁに?お兄ちゃん」
頭を柔らかく持って頬に自分の顎を寄せていくと頬に擦りつけた。
ージョリジョリジョリジョリー
「うわぁっ!お兄ちゃん!待って!」
「寛見うるさい。髭の悩みのない奴はこうしてやる」
「あはっ!くすぐったい!お兄ちゃん!あははっ!!」
時間にしてほんの数秒。そっと顔を離すと左頬だけほんのり赤くなっている日車君の顔…痛かったか…と思い赤くなった頬をそっと触ると何か言いたそうな顔をしている。
「お兄ちゃん、今度はこっちも良い?」
「マジか…」
差し出された頬に呟く日下部君なのでした