Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    針__

    らくがき等

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    針__

    ☆quiet follow

    それでも季節は巡る/bstn

    それでも季節は巡る 世界は救われた。人々の脅威となる天使は退かれ、人間は永遠の安寧を手に入れたのだ。
     だが、そんなものは意味がない。だって、俺が愛した人は死んでしまったから。寿命がきたのだ。生きていれば死は当たり前にくるもの……というのは、平常な人間の常識で、体に悪魔を宿す異常な俺たちは、人間の生命から逸脱した存在だ。同じなのは外見だけ。生き物のサイクルから逸れた悪魔執事たちは、そうやって取り残される。もちろん、俺も。
     屋敷が所有する森の、さらに奥。誰も踏み入れないような場所に、主様の墓はある。喧噪に邪魔されず落ち着いて眠れるように、といった執事たちの配慮でここに作られた。……でも、それは余計に寂しさを募らせるだけだ。きっと、みんな認めたくないのだろう。主様がもう、この世にいないのだということを。
     秋の森は冷たい空気に包まれていた。木々についている葉は、秋らしい茶色、黄色、赤色に染まって、かさかさという小さい音を出しながら、宙に舞うように地面へ降り積もっている。一歩踏みしめるごとに、葉を擦りつぶすような乾いた音がした。きっと、もうじき冬が来る。
     そんな木々の奥、美しい湖の近くに主様の墓はあった。季節ごとに色を変える森の中に主様の新しい住処を作ろう、という執事たちの提案でここに作られたのだ。
     覆い重なるように生える木々をかき分けて、真っ白な墓地の前に立つ。定期的に執事が訪れているのだろう。石には土汚れもなく、コケも生えていなかった。
    「……主様」
     そっと墓石に触れると、薄い手袋の下から冷たさが伝わってくる。きっと地面の中はもっと冷たいはずだ。こんな寒い場所に閉じ込めてすまない。さぞ寂しいことだろう。
     主様の新しい住処の周りは、真っ青な花で埋め尽くされている。誰かが植えたのか、自然に生えたのかはわからない。
    「お前たちはいいな。主様と一緒にいられて」
     種類もわからない青い花に触れる。花弁がかさついていて、今にも取れてしまいそうだ。花にも寿命はある。きっとこいつらも、冬になったら枯れてしまう。それなら、誰が主様に寄り添ってやれるのだろう。俺がこの場所に咲ければいいのに。そうしたら、枯れても養分となって彼の傍にいられる。あなたに寄り添えない俺は、生きている意味などないのだから。
    「……俺を、ひとりにしないでくれ……」
     視界がにじんでいく。喉がつまって、うまく息ができない。俺のワガママを聞いて困ったように浮かべる笑みも、もう見られないんだ。俺に人の温かさを教えてくれた人は、冷たくなって土の中で眠っている。こんな気持ちになるくらいなら知らなければよかった。そう言ったら、あなたはまた困ったような笑顔を見せてくれるだろうか。
     墓石の隣に腰掛けて、頬擦りする。その石の冷たさが、主様が亡くなったことをまざまざと知らしめている気がして、余計に虚しかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works