猫にまたたび天気の良い日になると気まぐれにひょっこり現れ、音もさせずに庭に入ってくるあいつ。
その日は不覚にもあまりの静かさに、洗濯物を干している俺の足にその体が触れるまで来ている事に全く気付かなかった。
「うわァ、びっくりした、お前いたのかよ!」
足の下にいた黒いかたまりにギョッとして叫ぶ。
そいつはこちらを見上げると、不服そうに言った。
「せっかく拾ってやったのにその言い草か」
俺が自分の足元に落とした洗濯物をかがんで拾い上げてくれたのはその男、冨岡。
「物音させずに入ってくんのやめろォ」
「普通に入ってきた。気付かないとは随分気が緩んでいるんだな」
こいつに悪気が一切無いことはもう分かっているから、こんな事を言われても俺はもう昔みたいに噛みつかない。
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