[虎兎]口を軽くする薬 明日は珍しく、午後からトレーニングに顔出せばいい――もちろん出動さえなけりゃ――ってスケジュール。
そんなわけで、実家から送られてきた日本酒を俺が持ち込んで、バニーもやたら高そうなもらい物のとっておきを出してきたから、止めるやつのいない酒盛りが開催されたわけだ。
綺麗な夜景を見ながら、心許せる相手と美味い酒を飲む……いいことだよな? ただし、それは適度な量って条件付きなのは誰だってわかる話だよなぁ……。
途中から杯を重ねすぎて、すっかり目が据わっている自覚はあったよ。俺もバニーもさ。これでおしまいにしよう、って言ってたんだ。ちょっとしたきっかけで、いつの間にやら先日のインタビューで俺が引っかかっていた『バニーの初恋』に話題が及ぶまではさ。
「だ、か、ら! 僕の初恋なんてどうでもいいじゃないですか」
「いーや、相棒の俺がインタビュー程度と同じくらいしか知らないなんて許されないぜ!」
「あんなの……嘘に決まってるでしょ!」
ほら、すっかり出来上がってたんだ、いつにも増して簡単に怒鳴りあいになっちまうし。どうでもいいような、くだらない……そうだ、酒盛りのついでのくだらない話のはずだったのに。何で俺は、しつこくツッコミ続けたんだろう……。
「嘘ォ? お前市民に嘘ついたのかァ!? ダメだろヒーローなんだから!」
自分でもどうかと思うけど過剰にヒーローぶった途端、最後の一滴までグラスに振り落とした一升瓶を床にドンと叩きつけたバニーが、頭をフラフラ揺らしながら途切れ途切れに言った。
「ほんとのことなんて、いえるわけ、ないでしょ!」
目線だけは俺を睨み付けて、バニーはずるずると一升瓶を支えに……もちろん実際は支えになんてならないから、一緒に横倒しになっていく。
「……おれにも?」
なんだよ、一体どんな恋だったんだよ。――それとも今も恋してるから言えないのか? なぁ、誰に?
「いえるわけないでしょ、あなたが、はつこいだなんて……」
潤んだ瞳は酒精のせいなのか、それとも別の理由なのか。バニーはそのまま瞳を閉じて、崩れるように床で寝息を立て始めた。
酔いにまかせてぶちまけることも、都合よく記憶をすっ飛ばすことも出来なかった俺は、頭を抱えて朝が来るのを待つしかない。くっそ、お前、朝になって覚えてなかったらどうしてやろうか!