[虎兎]だらだらしましょう ――たまにはうちで、のんびりしませんか?
このところ仕事帰りなんかにヒマを見つけては、二人であちこち(主に飲みに)出回ってはくすぐったい時間を過ごしていたのだが、久々の休みとなった朝に電話した恋人はそう言った。そうだ、朝になってから予定を確認するくらいには、一緒に過ごすことは決定事項だったのだけど。
「そっか? 見たい映画あるとか言ってなかったっけ」
見たい映画はある――ただ、最近のスケジュールでは、レイトショーにも間に合わない。そんな話をした覚えがある。
インスタントのコーヒーだけ口にして、あとはバーナビーの部屋へ行きがてら食べるものでも買うか、と家を出る準備をしながら問いかけた。
『ええ。でも、いい天気の日に自堕落を満喫するのも贅沢というものですよ』 笑みを含んだ声に了解し、電話を切る。
自堕落ねぇ――。いまいちバーナビーには似合わない言葉だ、と思う。あれは何だかんだと貧乏性というか、無駄が苦手なたちだろうに。
少し違った様子の恋人に早く逢いたくなってきてアパートの階段をひとつ飛ばしで駆け降りるが、二つ目の踊場でメールの着信を知らせる振動。先程まで話していた相手からだ。
『まだですか?』
「……ッだ! んな早くつくか!」
と届かぬ相手に小さく叫ぶと、見ていたように再び手の中の機械が震える。
ビックリして落っことしそうになりながらメールを開くと、そこには先ほどと同じそっけない文字で記された
『ベッドで全裸待機なう。』
の一文。
「………………ほんとーだな、ぜったいだな?」 しかめっつらをしようとして、明らかに失敗している自覚はある。誰も見ていないけれど、きっと今の自分はニヤニヤとしまりのない顔をしているに違いない。
スマートフォンをポケットに押し込むと、再び階段を……今度はふたつ飛ばして降りていく。
早く来て構って、という可愛らしい要求に、ヒーローとして最低限の交通ルールを守りつつ――だが全力で急ぐしかないではないか。
空は雲一つなく(スカイハイも飛んでない平和さ!)、日差しも柔らかで気持ちがいい。確かにこんな日は、二人だけで過ごす時間が一番かもしれない。