寝姿ドキリ事務所内の長椅子に座る彼を見かけ、ぴょこぴょことした軽快な足取りで近づいた。
「クロウちゃん! って、あれ?」
彼は腕を組み、少し俯いて眠りの世界に居た。
彼女は揺れがなるべく起こらないよう静かに隣へ座る。睡眠から覚醒させて話を――とは思わなかった。
体を少し前に乗り出し、舟を漕ぐその横顔を見る。
男性にしては長く瑞々しいまつ毛、『顔はやめてくれ』とロムに言うだけあるきめ細かい玉肌、普段深紅の情熱の歌が迸る唇は今は静かに形良く閉じている。
綺麗――横顔だけでなく、髪の赤い部分と黒い部分の境目にすらそう感じた。
自分の心が、瞳が、潤うのが分かる。
うるさい筈の心音も気にならないほど恍惚をまとった指先が、ゆっくり彼の頬に伸びた。
(おわり)