「俺以外に知ってるやついる?」
ワクワクとした表情が僕を見る。エディはこんなにも幼い顔をしていただろうか。彼も僕と同じでヒーローというものには興味のある若者なのかもしれない。
彼の言葉に反応して瞬時に浮かんだのは親友の神経質そうな顔だった。
ハリーは僕がスパイダーマンだと知っている。知っている、というよりかはバレてしまったのだ。あの時のハリーもエディと同じくらい口をポカンと開けて僕を見ていた。
エディと違ったのはハリーが怒ったということだろう。
「なんで隠してたんだ!」
耳に響く声で怒鳴られ、心臓が縮こまる。そんな言い方ないじゃないか。僕は大切な人を思って隠してきたっていうのに。そう言えばまた、大切に思うならちゃんと言うべきだとか、俺のこと信用してないのかとか言ってくる。ぶつぶつ文句を言われるのが嫌で、あれからしばらくハリーには会っていなかった。
「──いないかな」
そう返事をしてしまったのはきっとハリーに対して距離を置きたいと思ったからだ。
「本当か。じゃあ俺ってすごいかもな」
エディはカメラを構えるとニッと笑った。
「なあパーカー、俺を専属のカメラマンにしろよ。お前が撮れない写真だって撮ってやる」
「悪いけど間に合ってるよ」
僕よりいい写真が彼に撮れるとは思えない。断ればエディは少しばかり不機嫌そうに眉根を寄せた。
「まあいいよ。とにかく飯行こう。もっと話聞きたいし」
「え、いや僕は話すことなんか」
「いいから行こう。さっき写真が売れたんだ。奢るからさ」
僕をライバル視しているエディがランチに誘ってくるなんて、現実かどうか疑わしい。それでも僕は「わかったよ」と答えていた。多分、年の近い職場仲間とランチなんて経験、したことなかったからだと思う。正体もバレた今、好奇心からでも優しくされることに少しだけ喜んでいた。
~なんやかんやで付き合うことになったエディピタ~
「ピーター!」
後ろから追いかけて来る声に立ち止まる。振り向けばスーツを乱しながら駆けてくるのはハリーだった。
「ハリー」
僕は思わず着ているジャンパーの裾を握りしめる。随分久し振りに会うっていうのに、ハリーはいまだに怒っているようだった。
「俺のこと避けてる?」
眉間に皺を寄せながら言われ、頭を振って否定する。避けてるわけじゃない。ただ会う時間がないだけだ。
「ごめんハリー、仕事なんだ」
「それはどっちの」
首から下がっているカメラに視線を落としながらハリーは問いかけてくる。どっちって、どっちもだよ。直接言うことは戸惑われ、曖昧に微笑む。
「なあピーター、今度──」
ハリーが何かを言おうとする前に僕の肩が誰かに抱かれた。横を見ればそれはエディで、少しだけ仏頂面をしている。
「遅いピーター」
「ごめんエディ。今行くところだったんだよ」
そう返せばエディは僕に微笑んだ後、ハリーを見た。
「悪いけど、こいつは俺のだから。ナンパしようとしてるなら……」
「違うよエディ、彼はハリー。僕の友達だよ」
僕は笑いそうになるのを堪えて間違えを指摘する。ハリーがナンパだって。されることはあっても根が真面目な彼がそんなものしたことあるはずない。
エディの言葉を受けて、ハリーは僕の秘密を知った時のように口を開けていた。
よほどナンパ師と間違われたのがショックだったのか僕とエディを交互に見て、今までにない挙動不審の行動をみせる。
「ハリー?」
「あ、え、俺のって、どういう」
「えっと、その、付き合ってるんだ」
照れ隠しにエディの服を掴めばエディも僕の肩をより強くだきしめた。
「カメラマンだし話が合うんだよ」
「まあそういうこと。なあピーター、早く行かないとジェイムソンに怒鳴られる」
「ああそうだね、じゃあハリー、……またね」
元気のない親友に手を振るとその場をあとにする。なにか僕は気に障ることを言っただろうか。先ほどまでは怒った顔をしていたハリーが泣きそうな顔になっているように見えた。