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    abicocco

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    abicocco

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    ※ノーマルEND軸革命中レムラキ

    なんとか死線を切り抜ける中でラキオがレムナンの気持ちに気付く話

    #レムラキ
    lemniscate

    再起 一歩、ふたりが足を前に進めるたびにぼたぼたと真新しい赤が地面に出鱈目な模様を描いた。先程から時間が経つにつれだんだんと、自分の左肩にかかる重圧が増していくのをラキオは感じていた。はじめは歩行を手伝っていただけのはずが、今やほとんど全体重が華奢な身体に乗っかっているような有様だ。ラキオは重い荷物を引きずるようにして、それでもなんとか歩みを止めずにいた。
     どうにもこうにも血が止まらない。先程投与したばかりの止血剤は未だ効果を発揮していないようだった。鋭利な槍状の飛び道具に貫かれたレムナンの腹はいくら適切な止血処置を施していても手の付けようがないほど、次から次へと鮮血を吐き出した。それは彼自身のみならず、その身体を支えるラキオの手指や衣装をも赤く染めあげてゆく。
     近くに控える仲間への連絡は既に済ませている。医療ポッドの使用準備もすっかり整っているはずだ。あと、もう少し。基地に辿り着きさえすれば。

     願い虚しく、ゴール目前にして完全に意識を手放したレムナンの身体を彼よりも小柄なラキオの身体は支えきることができなかった。なすすべなく、ふたりして地面へと倒れこむ。まともに受け身もとれず投げ出された身体を強かに打ちつけ、ラキオは小さくうめき声をあげた。その頬にはいつついたのかも分からない擦過傷がある。それでもレムナンが身を呈して守った甲斐あって、ピクリとも動かない隣の身体に比べるとラキオの負った怪我は軽傷と呼んで差し支えない程度であった。


    「レムナン。起きて」

     地面に伏していた身体を仰向けに直し、手のひらで頬を軽く叩く。反応はない。耳を口元に近付けると、弱弱しい呼吸だけは確認できた。しかしこのままではいつ彼の身体が生命活動を終えても不思議ではないだろう。

    「君、このままだと死んでしまうよ」
    「……」
    「僕の力じゃ君を運べない。ここまで迎えに来てもらうのも難しい。君が自分で歩くしかないンだ」
    「……」
    「この僕の言葉を無視か。いい度胸だね」

     瞬きひとつすら返ってこないのでは自分の声が届いているのかどうかさえも分からなかった。レムナンの声の代わりに戦闘用群知体の飛行音が遠くに聞こえる。きっと自分達を探しているのだろう。このまま同じ場所に留まっていては見つかるのも時間の問題だった。

    「聞こえる? ……そう、追跡されてるンだ。じきに奴らは僕達の居場所を見つける。対抗手段を持っていないこちらは丸腰だ」
    「……」
    「レムナン。僕も殺されるよ」

     
     その復活はもはや執念と呼ぶにふさわしかった。ただ呼吸をするだけの肉塊と化していた彼の目がラキオの言葉を聞いた瞬間突然開いたのだ。驚きから目を見開くラキオの顔を見上げながら、彼は酷く掠れた声で彼の強い意思を言葉にして紡いだ。

    「……いや、だ」
    「そう。じゃあ、もう少しだけ頑張れるね」

     そこから先はもう、とにかく必死だった。腹からも口からも血を垂れ流し、ラキオの支えを借りながら最後の力を振り絞ったレムナンはなんとか自分の足で基地へと辿り着いた。到着早々崩れ落ちたボロボロの身体は入口に控えていた複数名の隊員達と擬知体スタッフに引き取られ、真っ先に医療ポッドへと運ばれていった。
     自身も治療と休息を隊員達から勧められたラキオはそれを断り、自分たちが道中残してきた血痕、足跡をはじめとするあらゆる痕跡を取り除くよう残りの擬知体へと命じた。そしてその命がつつがなく達成されたこと、敵にアジトの場所を突き止められていないことを確認すると、そこでようやくラキオは肩の力を抜いた。
     あとの警備を隊員達に任せ、汚れた身体を洗い流すためシャワールームへと向かう。時間が経ち赤黒く変色した衣服はどれだけ染み抜きしようと元の白さを取り戻す見込みはなさそうだったため、潔くダストボックスへと放り込んだ。わりかし気に入ってる部類の衣装ではあったが、間一髪で生き延びたことに比べれば些末なことだった。
     汚れた衣服を全て取り去ったラキオは身一つで浴室内へと移動し、慣れた手つきでハンドルを右へ捻った。しかし、どういうわけかシャワーヘッドからなかなか湯が落ちてこない。疑問に思い、ラキオがふと視線を手前に落とすと、シャワーハンドルに添えた右手が震えていた。それでようやく、ラキオは自身の動揺を自覚したのだった。



     レムナンの治療が完了し、彼が意識を取り戻したのは翌日の晩のことであった。

    「あ……ラキオ、さん」
    「あぁ、起きた? おはよう」
    「おはよう、ございます……? えぇっと、今は……」
    「君が倒れてから二十時間経過した。損傷の酷かった腹部の細胞修復と造血に相当時間がかかったようだね。気分は?」
    「あ、はい……平気です」

     目を覚ましたばかりでまだどこか反応が鈍いレムナンの前に、手のひらを上にした状態の右手が差し出された。その意図を図りかねたレムナンが戸惑った様子で手の持ち主を見つめると、その人は顎を一度クイッとさせて片手を乗せるよう彼に合図を送った。おずおずと乗せた右手をもう一方の手で裏返され、手首を掴まれる。どうやら原始的方法で脈拍を測定しているらしい。しばらくそのままの状態で静かに時だけが過ぎた。脈をとっている間、ふたりはどちらも言葉を発することはなかった。

    「……少し早いな。貧血の症状が残っている。あとで食事と一緒に追加のサプリを持ってこさせるから飲んで」
    「あ、はい」

     なかなかラキオの言葉がすんなりと頭に入ってこない。幾度か瞬きを繰り返したレムナンは、ラキオの指摘通り自分の身体がまだ本調子でないことを自覚した。脈を測り終えてもなぜか離れていかなかった手をそのまま手すさびに握っているのも、きっと思考が正常に働いていないからだ。彼は誰にともなく心の中で言い訳をした。

    「ひとつ、君に確認したいことがある」
    「何ですか?」
    「まさかとは思うけど……君、自分の命よりも僕のことが大事なの?」

     何故今そんなことを? そう顔に書いていたのだろう。レムナンの反応を見て、ラキオはいくらか言葉を付け足した。

    「『このままじゃ死ぬよ』と生存本能を煽ってもピクリともしなかった君が『死ぬ』って聞いた途端にゾンビみたく突然起き上がったンだ。あの奇跡の復活はいっそ不気味だったね。満身創痍のうえ真ん中に大きな穴までこしらえた身体のどこにあんな力が残っていたンだか……」

     補足を終えたらしいラキオは次は君の番とでもいうように、レムナンへと会話のバトンを渡し、静かに回答を待っている。手の内にあるすべらかな手の甲の感触を親指の腹でなぞりながら、レムナンはその問いかけにどう答えたものかと頭をひねらせた。

    「……革命運動に加担している以上、命の重みを比較するべきではないと思うので……ラキオさんの命が僕のそれより重いとは言えません、けど……。頭で考える前に咄嗟に庇ってしまう程度には……貴方を、その……大切に、想っていることは事実、です」

     慎重に言葉を選びながら述べられたレムナンの本音は、意外にもいつものように気持ち悪いと一蹴されることはなかった。その代わり、片眉をあげてへぇ? とだけ相槌を打ったラキオは暫くの間黙って何事か考えこんでいる様子でいた。

    「学校や国から知力や能力を買われたことはこれまでにもあった。実際、白質市民という身分は僕の存在価値を証明するものだからね。……ただ、個人からそういう、価値ある者として扱われるのは初めてのことだから、君の心情をどう解釈すればいいのか正直はかりかねている」

     相変わらず難しい顔を作りながら心中を打ち明けたラキオに対し、レムナンはうろたえるように眉の角度を下げた。

    「そ、そんなに難しく考えなくても……」
    「いいや、白黒つけられる問題にはその場で答えを出したい派なんだ僕は。君が僕に向ける厚意は軍基地行きを回避する手段を提示したことに対する恩義から来ているものだとばかり考えていたけれど……さすがに今回のことはそれだけでは説明がつかないよね?」

     確認のように目を合わせられて、レムナンは咄嗟に視線を下に逸らした。伏せた顔の先で未だ自分の手の中に大人しく収まっている鮮やかな爪が目についた。よく見ると爪の間にまだ少し血がこびりついていた。あの後、シャワーをゆっくり浴びる暇もなかったのだろうかと申し訳ない気持ちになる。

    「レムナン。君、僕のことが好きなの?」

     それはあまりにもストレートな問いだった。視線、声の調子、表情から質問者の中では既に確信を得ている内容だということが分かる。もちろんそれはラキオの真向かいにいるレムナンにも容易に察せられた。その問いが質問ではなくただの確認であると気付いた以上、下手な嘘で誤魔化しても意味のないことだというのは自明の理であった。

    「……すみません」
    「それは何に対する謝罪?」
    「いえ、なんだかおかしなタイミングで気付かせてしまった、というか……。うまく、隠しとおせると思っていたんです……ラキオさんそういうこと、鈍そうだし」
    「一言多いな。否定はしないけど」

     レムナンからの評価に対し、ラキオは一つ小さなため息を吐くと、なんとも言えぬ空気になっているその場を仕切るように「まぁ、いい」と口にした。

    「君が異様なまでに僕の身を心配して、自分の身体を犠牲にしてまで守ろうとする理由が判明してスッキリしたよ。これで『理由なんてないです。僕がしたくてしてるだけです』……なんて言われようものなら、気味が悪くてとてもじゃないけどこの先君に背中を預けようなんて気にはなれなかっただろうからね」

     小憎たらしい軽口を叩いて笑っているラキオはすっかりいつもの調子だ。それを見てレムナンはぽかんとし、その顔がだんだんと困惑、かつ不満を表す表情へと変わるまでにそう時間はかからなかった。

    「……何か他に言うことはないんですか?」
    「僕から? 特にないけど」
    「えっと……僕から恋愛感情を向けられていることに不快感を覚えたりしないんですか?」
    「べつに」
    「あの、えぇと……同じ家に暮らすのが不安なら、僕、どこか別のところに移りますけど……」
    「なんで? そんな時間もお金もないだろう今の君には。それとも僕の他に君を居候させてくれそうな物好きのグリーゼ人でも見つかった?」

     『物好き』その蔑称はラキオを保証人としグリーゼに入国したレムナンが、ことあるごとに耳にしたラキオに対する世間の評価だった。わざわざ他所からグリーゼにやってくる異邦人というだけでも珍しいのに、余所者を自ら母国へ招き入れたうえ自分の家に住ませているラキオの選択は、いくら優秀な白質市民といえども、グリーゼの一般人から奇異の目で見られるに十分だったのだろう。
     ただ、入国当時と今では事情も立場も変わった。現在、反政府組織のリーダーを務めている以上、組織の隊員に声を掛ければそのうちの誰かはきっとレムナンのことを迎え入れてくれるだろう。……だが、今ラキオが投げかけてきた質問にはもっと多角的な意味が含まれていることは明白だった。

    「……いえ」
    「それじゃあ今の家に僕と住む以外に選択肢はないね」
    「はい……」

     一方的な気持ちを向けられることで相手が嫌な思いをするのではないかという不安と心配から、良かれと思い言い出したことのはずなのに、いつの間にか自分が諭される側の立場にまわっていて、レムナンは居心地の悪さを覚えつつも、ラキオの誘導尋問に力なく頷くしかなかった。

    「恋愛感情云々に関してはメカニズムこそ把握しているけれど、なにせ実体験がないうえに僕は汎だからね。君の期待に応えられるとは思えないな」
    「えぇ、はい、分かっています」
    「ただ、君のことは僕と共に過ごすにふさわしい……とまではいかないまでも、『そう悪くない相手』くらいには評価しているよ」
    「えっ」

     てっきり『期待には応えられない』で終わりだと思っていた話に続きがあることに、レムナンは驚いた様子だった。

    「何その顔。最高評価ではないものの、高評価をあげてるンだから素直に喜びなよ」
    「え、あぁ、はい。ありがとう、ございます……?」
    「よし。……あぁそうだ。他に言うべきことを一つ思い出したよ。この度のことでとっておきの衣装を一着駄目にした。君の血をべったり浴びたおかげでね。だから、この戦いが終わったら僕の買い物に付き合って」

     もしかしたら、まだ目が覚めていないのかもしれない。そう自分の耳を疑って、レムナンは目を瞑りふるふると頭を左右に振ったが、再度目蓋を開けてみても目の前には同じ光景が広がっていた。いや、正確に言えば目を閉じる前と違い、正面に座るその人は端正な顔に呆れの色を浮かべていたが。

    「……あの、そのお誘いって……デート、だと考えても、いいんでしょうか」
    「さぁ? こちらから呼称を指定する必要性も感じないから、君に都合のいい風に捉えればいいンじゃない」

     ラキオのそっけない調子の返事にもレムナンは分かりやすくぱぁと顔を明るくした。

    「あの、僕、絶対ラキオさんのこと守ります。……あと自分も絶対生き延びます」

     つい先ほどまでは大怪我の残痕を引きずって、ぽやぽやと覚束ない返答をしていたというのに、途端に生き生きとしだしたレムナンを見てラキオは眉を下げて笑った。

    「もうあんな重たいもの運ぶのはごめんだからね」

     
     
     
     
    「あぁそうだ、君が破壊した戦闘用群知体を一機回収できたンだ。明日でいいから分解してみてよ。うまいこと内部構造と専用コードが分かれば今後相手側の戦力をそのままこちらに奪えるかもしれない」
    (転んでもただでは起きないな、この人……)
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    Yoruma_ma

    DOODLEレムラキの告白の話なんですけど好きです、とうっかり伝えてしまったレムナン
    珍しくキョトンとするラキオ

    すぐ自分の失言に気がついて慌てるレムナン
    「違う、んです、ごめんなさい、今のは……」
    でももはや言い逃れられないのに気づいて、もう一度小さな声で謝る
    ごめんなさい、汚い、感情を、向けて…とフードの胸元を抑えて顔をしかめる

    ラキオは相変わらず目を丸くしたまま、ことんと首を傾げる
    「汚い、って何?」
    「え」
    「それ君の価値観だよね?」
    例えば、とラキオは人差し指を立てる
    「君、動力炉とか好きだよね…結構花や草も。イートフェチでもあるよね。僕はどちらも好まない。機械油は臭くて汚れるし、土なンか触りたくないし、食欲に乱されたり消化に力を割いてしまうのもごめんだね」
    「人の好きと嫌いって複雑で嫌になるよね。ま、でも違いがあることは君でもわかるだろうに」
    いつも通りベラベラとしゃべり続ける
    レムナンは軽く呆気に取られてこくりと頷いた

    「で、君さ。今僕が述べたようなことを、僕の価値観を突きつけたら腹を立てたことがあるよね。そんなの人によりますよね、口出さないでください、ラキオさんには関係ないじゃないですか!ってさ」
    そうだ 1282