明日の朝はパンを食べよう「レムナン。ねぇ、聞いてンの?」
馴染み深い声が自分を呼んでいるのに対し、その名の持ち主は振り向くことすらせずスンと黙りこくっている。同じ室内にいて聞こえないほどの声量ではない。むしろ、日常的にこの家に騒がしさを加えるゲーム音楽も電動工具の駆動音も鳴っていない現在の空間は、終業時刻を過ぎた今の時間帯にふさわしい静寂に満ちており、普段より声が届きやすいくらいだ。
それにもかかわらず、背を向けてだんまりを決め込んでいるレムナンは、意図的に自分の声を無視しているのだということ、そしてその原因はおそらく先程彼に渡した手土産にあるのだろうということにラキオは既に気付いていた。気付いて、そのうえで彼の選択した行動の幼稚さと狭量具合に呆れかえり閉口していた。
5382