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    abicocco

    @abicocco

    『過去のを晒す』カテゴリにあるものはpixivにまとめを投稿済

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    abicocco

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    ※ノーマルEND軸革命後レムラキ

    ピロートークテーマ「肉体の必要性」

    #レムラキ
    lemniscate

    肉の器 レムナンの会話の切り出し方が下手くそなのはいつものことだが、今夜の話題は殊更突飛というほかなかった。
     
    「肉体があることを煩わしく感じたことってありますか?」

     素肌にタオルケットを巻きつけ、うとうとと微睡みかけていたラキオは、大きな瞳を覆い隠すように長く生え揃った睫毛をぱち、ぱちとゆっくり上下させた。重い目蓋を気怠げに持ち上げてラキオは隣に目を向けたが、その視線は彼のそれと交錯することはなかった。レムナンの視線は何もない天井へと注がれていた。
     人の眠気を奪っておきながら自分の方を見向きもしないことにラキオは思わずムッとする。と同時に裸の足が行儀悪く相手のふくらはぎの辺りをごく軽い力で蹴った。「痛いなぁ」と全く痛くなさそうな声が小さく笑う。それでようやく紫の瞳が自身の姿を映したのを確認して、ラキオは悪びれるでもなくフンと小さく鼻を鳴らした。
     
     布ごとラキオが足を振り上げたおかげで、ふたりの身体を覆っていた大きめのタオルケットの端は捲れあがり、そこから四本の足が大きくはみ出している。グリーゼの空調設備は優秀だ。室温はいつだって適温に保たれている。だから、本当はこんな薄布一枚あってもなくてもラキオの気にするところではないのだが、気にしいのレムナンはそういうわけにもいかない。案の定、彼はのそりと身体を起こすと律儀に乱れたタオルケットを元へと戻した。
     
     一度身体を起こしたついでとばかりに体勢を変えて、彼はラキオの隣で再び横になる。仰向けにしていた身体を左向きにころりと転がしたので、今度こそふたりの視線はカチリと合った。
     
    「君は将来、電脳化でも検討してるのかい?」
    「違いますよ……大体、個人的にしたいと思ってできるものでもないでしょう、アレは」
    「たしかに一般人にとってはなかなか手の届かない代物だろうね。僕は条件を満たしているけど」
     
     ラキオの言葉を聞いたレムナンは驚いた様子で目を見開いて、それから恐る恐るといったふうに尋ねた。
     
    「……しませんよね?」
    「僕ほど優秀な頭脳は永久保管した方が後世の為だとは思うよ」
    「ラキオさ……」
    「しないよ。誰に何の目的で悪用されるとも分からないリスクが伴う技術に多額の資金をつぎ込むくらいなら、自分の時間も財産ももっと他のことに使いたい」
     
     ラキオの至極冷静な判断を聞いてレムナンはほっと胸を撫で下ろした。知性第一主義なように見えて——いや凡そはその認識で間違いないのだろうが——これで案外、好奇心や遊び心も持ち合わせているものだから、またこの人はとんでもない気まぐれを起こすのではないかと、レムナンは今でもラキオとのやりとりの中で時折気を揉んでいる。

    「なっさけない顔。眉が滑り台になってるよ」

     目の前の人から眉と眉の間をぐいぐいと人差し指で突かれて、レムナンはますます眉の角度を下げた。

    「何するんですか……」
    「君が僕の睡眠を邪魔してまで要領を得ないこと言うからだろ。肉体があることを煩わしく感じたことはあるか、だっけ? ないわけじゃないけど、だからといってなくなってほしいとまで思ったことはないな」

     レムナンが最初に投げた質問にあっさりと答えると、ラキオは彼の顔に触れさせていた手をスッと引っ込めて、その手で頬杖をついた。枕に預けていた頬が、つるりとした右手の甲の上へと移動する。眠る体勢から話を聞く姿勢へと移ったラキオの様子を見て、レムナンはモゾモゾとシーツの上で自身も気持ち姿勢を正した。
     
    「君は? 君自身なにかしら思うところがあったからこの話題を僕に振ったんだろ」

     相変わらず、ラキオは会話をする時相手の目をまっすぐ見る。後ろ暗いことがないゆえの強い眼差し。出会ってすぐの頃はその凜とした視線を正面から受け止めることが少し怖かった。だが、この国で苦楽を共にしているうちに、いつの間にかその瞳が持つ澄んだ青はレムナンにとって、自分の心を最も落ち着かせてくれる色となっていた。
     
    「……昔は、何度も、肉体なんてなければいいのに……って思いましたよ。身体がなければ、きっと痛みも苦しみも感じなくて済むのになって。現実逃避によく自分の身体が溶けてなくなる想像を、したりなんかして」
    「ふぅん……」
    「でも、今は自分の身体があってよかったなって思います」
    「どうして?」
    「足があるからラキオさんといろんなところに行けるし、手があるから貴方に触れられるし……口があるとおいしいごはんが食べられます」
     
     そこまで聞いてラキオは呆れたように笑った。
     
    「結局君は食い気が一番じゃないか。イートフェチの権化め」
    「べつにそれが一番だなんて言ってないでしょう。僕だって口は食事よりもラキオさんと話すために使ってることのほうが多いですよ」
    「それも疑わしいものだけどねぇ。君、最近間食の回数が増えてない? 上に乗られると前より重たく感じるンだけど」
    「……まぁ、それは気をつけます、けど」
     
     指摘内容が図星だったのか気まずげに視線を逸らしたレムナンの分かりやすさにラキオは再び目を細めた。
     
    「君が縦に伸びようが横に広がろうが知ったことじゃないけど、精々僕が潰れない程度にとどめておいてよね」
     
     戯れのように頬杖をついているのと反対の指先がレムナンの頬をつまむ。そのままむにむにと頬肉を伸ばされて、レムナンは食生活を見直そうと心の内で決意した。
     
    「僕も、自分の身体を使って君と遊ぶのはなかなか悪くないと思ってるよ」
    「え?」
    「はじめは気の遠くなるほどの時間と手間をかけてまで、僕の身体を拓こうとする君の気持ちがまるで理解できなかったけどねぇ」
    「う……」
     
     誇張なしに最後のステップに至るまでものすごく時間がかかった初めての夜のことを話題に出されて、レムナンはたじろいだ。
     
    「自分から手放すのは別として、僕は一度得たものを誰かから取り上げられるのは嫌いなンだよ」
    「え?」
    「よかったね、レムナン。これから先もその口に食事と会話以外の使い道があって」
     
     にんまりと口元に弧を描きながら、先程まで頬を摘んでいた指先がレムナンの唇にトントンと触れた。
     
    「……お互いさまということでいいですよね」
    「ん?」
    「肉体の存在意義の一部に相手への接触が含まれている、ってことです」
    「言葉にすると仰々しいな」
     
     先程のお返しとでも言わんばかりに今度は紫の瞳がまっすぐラキオの姿を捉える。言外に欲求を示す視線を数秒の間受け止めて、ラキオは観念したように黙って目蓋を下ろした。それを肯定と受け取った彼の顔がゆっくりと距離を詰めていく。相手の吐息を口の表面に感じるほど近づいたところで、ラキオはさっきの続きをぽつりと述べた。

    「まぁ、いいンじゃないの。こんなちっぽけなことが生きる理由の一つになるなら」
     
     穏やかな夜の元でふたつの肉の器がやわらかく重なった。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命後交際中のレムラキ
    レムが初めて酒で失敗した翌朝の話。
    それみたことか(だから、僕は止めたじゃないか)

     ラキオより二十分ほど遅れて目を覚ました隣の男は、呆けた顔でまだ眠気の抜けきらないとろりとした瞬きを何度か繰り返したのち、のそりと身体を起こした。覚醒したての彼が緩慢な動きで自分と、それからラキオの格好を見て、みるみるうちに顔を青く染めていく様を目にして……ラキオは小さく溜息を吐いた。

    「ら、ラキオさ……。あの、その、ぼ、僕、は」
    「……おはようレムナン。元気そうだね。見たところ二日酔いの症状も出ていないようでなによりだよ」

     
     ラキオの言う通り、レムナンの顔や体臭には昨晩あれだけ摂取したアルコールの気配は残されていなかった。彼の肝臓は働き者らしい。
     昨日の晩、珍しく……そう、本当に珍しく。レムナンとラキオは家で晩酌を楽しんだ。というのも先日外星系への調査のついでにグリーゼに立ち寄ったという沙明が置き土産として、彼が現在身を置いているというナダ産の飲食物をふたりの家にいくらか残していったのだ。グリーゼと違って未だ自然光で作物栽培が行われ、一次産業が国の経済をまわすのに一役買っていると聞くナダで作られたワインは、会食や社交場で提供されるような合成品とは違い、強く芳醇な葡萄の香りがした。
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    PAST※ノーマルEND軸革命中のレムラキ
    ※2023/12/14公開の🎃×ゲーム開発スタッフさんの対談動画のネタを含みます。
    飛んでかないように 国内トップのエスカレーター式教育機関の高等部。その中でも一握りの成績優秀者にだけ与えられた貴重な社会見学の機会。
     そういった名目でラキオとそのほか十数名の生徒がある日教師に連れてこられたのは、テラフォーミング計画で使用されているロケットの発射場だった。管理首輪で抵抗の意思すら奪われた、グリーゼから不要の烙印を押された国民たちがタラップを上り順に乗り込んでいくところを、生徒たちは管理塔の覗き窓から黙って見送る。彼らが着せられた何の装飾もない揃いの白い簡素な服がまるで死に装束のようで不気味だなと、過去文献で知った他星の葬儀の様子を思い出しながら、ラキオもその現実味に欠けた光景をどこか他人事のように眺めていた。今回打ち上げ対象として選定された人間の多くは肉塊市民だが、それ以外の階級の者も少数ながら混じっているらしい。国産の最新ロケット技術の素晴らしさや、各地で進行中のパラテラフォーミング計画の実現性について先程から熱心に概念伝達装置を通じて語りかけてくる職員の解説を適当に聞き流している中で、ラキオは小さく「あ」と声をあげた。覗き窓の向こう、だんだんと短くなっていくロケットまで伸びる列の後方部に見慣れた人物を見つけたからだ。
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    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    レムがグリーゼに来てからラキが革命を起こすまでに二人の間で発生したやりとりについての想像
    ブロカント「レムナン。作業ペースが通常時の八十パーセントまで落ちています。休息を取りますか?」

     今日は各船を繋ぐ自動走行路オートチューブの定期メンテナンスで地下へと潜る日だった。僕がこの国にやってきてから、そして擬知体を含む機械全般の整備士として働き始めてから、もう何度もこなしてきた仕事だ。それにも関わらず、いや、慣れている作業だからこそか、いつも僕の業務に同行してくれているサポート擬知体から集中力の欠如を指摘されてしまった。

    「いえ……。いや、そう、ですね。昼休憩にしましょうか」

     作業が丁度キリのいいところだったこともあり、彼女の提案に甘えることにした僕は工具箱を脇に避けて作業用のグローブを外すと、持ち込んだランチボックスからマッケンチーズをフォークでつついた。鮮温キープ機能のある優秀な容器のおかげで、チーズと胡椒をまとったマカロニとベーコンはフードプリンターから出てきたばかりの今朝と変わりない姿で湯気を立ちのぼらせている。食欲を刺激する濃厚なチーズのジャンクな香りは僕の好物に違いないのに、食事の手はなかなか進まなかった。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    友好関係が築かれつつあるふたり
    大停電の夜のこと 元は何の変哲もない夜だった。第四と五の区画を繋ぐ船間連結部の定期メンテナンスを概ね予定時刻通りに終わらせたレムナンは、使い込んでほどよくくたびれてきた革製の仕事鞄を肩に掛け、帰路についた。帰る先はカナン579メインドーム、シングル用深宇宙探査船に続き、彼にとって第三の家となって久しいグリーゼの管理下にある居住船の一角だ。レムナンは玄関からまっすぐ続くリビングのドアをくぐると同時に、既に学校から帰ってきているであろう同居人に向かって「ただいま」と帰宅の合図を出した。しかしながら、その人物の定位置であるソファの上に彼の期待していた姿は見当たらなかった。

    「あれ? ……あぁ、シャワー室か」

     オーバル型のローテーブルの上に置き去りにされたアームカバーを見て、レムナンはラキオの居場所にすぐに思い当たった。いつもより随分早いシャワータイムだななどと考えながら、少し目を細めて壁際の時計で今の時刻を確認する。たしか今日は校内で代替未来エネルギーについてのディベート大会があると昨晩話していたから、きっと侃侃諤諤の議論で蓄積した疲労や雑念を湯で洗い流しているのだろう。
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