ライフライン「何度聞いても同じよ、私はやらないわ」
コースティック「私は君の腕前を信用し尊敬しているのだ、ミス・シェ…シミュラクラムへの人格移行処置を施せるのは、君しかいない。
君はその処置を非正式的に施すことが法に触れるかどうかを憂慮しているのであろう。だが私は世の中の多くを占拠する凡人どもには歓迎されない存在だ。その心配は――」
ライフライン「そうじゃないのよ…あなた、シミュラクラム化の申請が正式に通らなかったということがどういうことなのかわかっているの?…あなたは…その処置には…」
コースティック「わかっている」
ライフライン「…えっ?」
コースティック「すべて理解している。正式に承認が下りなかったということが、私にシミュラクラム化への適性がないこと、即ち私の肉体と精神がその処置に耐えられる保証がないことを意味していることも。万が一の場合に責任が取れないために、適性がないと判定された者は正式には処置を施してもらえないことも。それにもかかわらず非正式的に処置を強行しようものなら肉体的・精神的苦痛は言語を絶するものとなり、処置の途中で命を落としかねず、仮に成功したとしても精神が崩壊している場合も少なくないということも――
だが私にとってはガンという不条理のために知識欲を阻害されることのほうが極めて許容しがたいことだ。
処置にそのような危険性が存在することを知ってもなお、研究を続行できる可能性が僅かでも存在するのであれば甘受したい。研究のためならば、激痛に耐えることも、生命が脅かされることも厭わない」
ライフライン「…そこまでして…
…あなたには前に救急救命の現場での処置を手伝ってもらったことがあったわね。私だけじゃとても手が回らなくて、そこであなたの実験内容を思い出して、もしかしたらあなたならできるんじゃないかって。
患者さんへの気配りができてたかにはあえて触れないけど…確かに経験がなきゃ難しいしね。あなたの手技に関して言えば、それは医療の現場でも通用するほどだった。医療分野専門の私から見てもあれは間違いなく「本物」の知識と技術だった。研究のためだけに、しかも独学で、専門家でも難しいあれほどのものを習得してしまうなんて…
あなたの研究にかける熱意…わかった気がするわ。
…確かに…まだまだやりたいことが山ほどある人が48歳で死ぬなんて…あまりにも早すぎるのよ…
わかったわ、やってあげる。でも責任は取れないわ。
シミュラクラムの筐体はミラージュとワットソン、ソフトウェアはクリプトに任せればいいわね。私から話をしてみるわ」
コースティック「…感謝…する…」