次の僕たちに期待 「ねえ、秘密の話なんだけど」
耳元でこそこそと呟くレッドの瞳はきれいに輝いている。子供ながらに、その瞳にはポケモンバトルを楽しむ幼馴染兼ライバルに向けるような感情じゃないものが潜んでるのが分かった。
「ついてきてよ」
それだけ言って手を引かれる。
歩きなれた草むらを駆ける。この先は何もないただの湖のはず。なのに、やけに体が熱くなってくる。これって俺の体が熱いのか、それとも空気が暑いのか。
やがて見慣れた湖畔を望む地面に立った時に、ようやく暑さの根本が目に入る。
湖の真ん中が、ぽっかりと空いている。中心部は真っ黒で見えない。ただ、湯気のようなものが辺りを覆っているのが見えた。
本能的に体が震えるのと同時に隣のレッドに抱き締められる。少しだけ暑苦しいとも思ったけど、何かに捕まってなきゃ、情けないけれども怖くってレッドの体をぎゅうぎゅうに抱き締めた。
「多分ね、あの穴が爆発するんだと思う。だってこんなに熱いんだよ」
「うん。帰ろうぜレッド、こんなところにいたら溶けちゃう」
「これで僕とグリーンも一緒にいれるようになるね」
平然と汗をかきながら告げるレッドは唇の端を持ち上げてにっこりとほほ笑んだ。
____何を言ってるんだ、こいつは。
「誰も僕たちを認めてくれないんだ。僕はこんなにも君が好きなのに、みんな間違ってるっていうんだよ。おかしいよね、君も僕のことを好きって言ってくれてるのに」
おかしいよ。
覆いかぶせるようにレッドが呟くと、地面が細かく振動し始める。どんどん熱気が辺りを包み込んで、さっきまで恐怖の対象だった穴は、いつのまにか天国への入口みたいに光り輝いている。
それを見たとたんに、足元から這い寄るような感覚が襲ってきた。恐怖でも怖気でもない、ひたすらに生暖かいそれは、きっとまぎれもなく。
「レッド」
「どうしたの、グリーン」
「っはは……ほんとに、おわっちゃうんだな」
「うんそうだよグリーン。僕たちもう何も考えなくていいんだ。一緒にバトルして夜は同じベッドで寝て、いっぱい楽しいことしようよ。楽しみだなぁ……」
「はは……」
本当にうれしいときって、人は何もしゃべれないんだ。ただ、口から言いたいことが全部表面にあふれ出る。そっか、人間って言葉よりも涙が先に出るいきものなんだ。
(どうせ一生、俺とお前はかわらないのに)
くつくつと煮えたぎるような胃の底から酸っぱい感覚が、開ききって乾いた網膜から涙が零れた。