Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ぽんじろう

    オクタの双子中心にツイステのらくがき。腐。
    ワンクッション置きたいものはこっちに置く事多いです

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 22

    ぽんじろう

    ☆quiet follow

    ふとある曲を聴いて思いついたお話。御曹司の🐬×🐬のクローンである世話役🦈のジェイフロのパロ。まだ序盤です。

    薄暗い空間でやたら大きな水槽から発せられる淡く碧い光が室内を照らす。配線がいくつもその水槽内の何かから伸び、大きな機械に繋がっている。コポリ、と大きな泡がその何かから発せられる。そう、それは息をしているのだ。胎児のように体を丸め、息をしている。ゆったりと、その光と似たターコイズブルーの髪が水中に漂う。

    そんな何かを熱い目で見つめ、水槽のガラスに手を置く男が一人。

    「ようやく完成した…早く目を醒ますんだ。被検体1号…」

    そんな声に答えるかのように薄っすらと何かは目を開く。
    その右瞼からはシトリンの輝きが宿っていた。








    「ねぇジェイド~!そんな勉強ばっかしてねぇで遊ぼうよぉ」
    「僕は貴方のように暇ではないんです。将来は父の仕事の跡を継がなければいけない…というか僕の事はジェイド『様』と呼びなさいと言ったでしょう?貴方は僕の友人でも兄弟でもない。ただの僕の世話役、使用人ですよ。暇なら主人の為にお茶でも淹れてきなさい」

    机に広げられた難解な文章や図形と睨めっこをしながら、そっけなく指示をするこの少年。この世界で半数のシェアを誇る大手企業の令息。ただ一人の御曹司である。名はジェイド・リーチという。

    髪はターコイズブルーに、一筋の黒いメッシュ。目尻のつり上がった鋭い眼にはシトリンの輝きが宿っている。齢7歳にして既にエレメンタリースクールの基礎を習得しており、そんな学業の合間に医学論文を読んでいる。

    そんな素っ気ないジェイドの対応に世話役の少年はまばたきをひとつぱちり、「お茶持ってきまぁす」と呟くとドアを開けた。ジェイドしかいない静かな空間に控え目なパタンという音が響く。しかし目の前の論文に集中しているジェイドにはそんな些細な事は気にならない。


    世話役の少年は言われたお茶を取りに行くため屋敷の厨房に足を運んだ。長い廊下には濃紺の絨毯が敷かれていて、足音ひとつならない。ふわふわとした毛の感触を楽しむようにわざと足を大きく上げて、踏みしめると沈み込むような感覚が足に伝わる。窓から差す昼時の柔らかな日差しが少年の白くまろい頬を照らす。先程までジェイドに冷たくあしらわれ落ち込んでいた気分がほんの少しだけ上昇する。段々と楽しくなり、その場でくるくると踊り出してしまう。ついでにスキップなんてしながら厨房に向かうと、入り口でメイドとぶつかりそうになる。小さな体の少年は「わ」とのけ反り地面に尻もちをつく。見上げると壮年のメイド長は鋭い目で少年を睨みつけた。それに少年は肩を竦め、上目遣いでメイド長に対して小さな声で「ごめんなさい、メイド長」と呟いた。

    「何をしているのですか、『フロイド』。何故ジェイド様のお傍を離れてここに足を運ばれたのかしら?」
    「えっと…ジェイド、サマ、にお茶を淹れて来てくれって言われて、その…」
    「なら命令された事は速やかに行いなさい」

    そう命令だけするとメイド長は姿勢をぴしっと伸ばしたまま速足で去っていく。
    そんな後姿をちらと目で追った後、少年『フロイド』は立ち上がり目的の食器を取りにいく。その最中も奇異な視線が無遠慮にフロイドに注がれる。
    この屋敷の令息であるジェイドと瓜二つの見た目。しかしその容姿はまるで鏡写しであるかのようになにもかも反対であった。ツリ目がちなジェイドに対しフロイドはいつも眠たげなタレ目。黒いメッシュの位置も逆にある。


    「あの子ジェイド様にそっくりですけど、双子のご兄弟なんですか?どうして使用人の真似なんて…」

    たまたまコックとして雇われたばかりの若い男が小声でひそひそと中年のコックに話しかけている。

    「バカ。んな事軽率に言ったら首切られるぞ。アレはジェイド様の遺伝子情報から作られたクローン人間。人造人間ってやつだよ」
    「え、人造人間!?…オレ初めて見ました…なんか気味悪いですね」

    そんなひそひそ声がフロイドの耳にも聞こえる。しかしフロイドの顔には変化なんてものはなく、ただひたすらに湯を沸かし、茶葉を淹れている。慣れっこなのだ。


    人造人間とは世界中で使用される人工的に作られた生き物の事であり、その用途は様々である。危険な作業に携わらせたり、医療発展の為の人体実験、性欲の処理や人の世話など。まるで奴隷のような扱いではあるが、そこに異を唱える人物は誰一人いない。なぜなら彼らには感情や感覚がないから。昔、まだ技術が安定していない時に一度死んでしまった子供の代わりにその遺伝子情報からそっくりな見た目形の人造人間を作った事例があったが、その見た目そっくりの子供には感情が無かった。死んだ子供の真似事をさせ、自分を父や母だと呼ばせた所で帰ってきたのは光の宿らない無機質な視線だけだった。まぁそんな使用例は最初の頃の話で、今では感情がないのは当たり前とされている。
    実はジェイドの父はそんな人造人間の製造、研究の第一人者であり、初めて『フロイド』という人造人間を作ったいわば彼らの父のような存在である。しかしそんな作られた息子娘たちに愛情はない。ただの使い捨ての作品としてしか見ていないのだ。そんな父の影響もあってか、屋敷の人間も、息子であるジェイドもどこかフロイドを「異質な存在」として見ている。



    フロイドは再びジェイドの自室の前に立つと、ドア脇に置かれたサイドテーブルにお茶のセットを置き、小さな手で扉を控えめにノックする。

    「ジェイドサマ。お茶持ってきたよ」

    部屋の中からは物音ひとつしない。本当は返事が無ければ主人の部屋に立ち入ってはいけないと言われているが、このままではせっかく淹れたお茶が冷めてしまうと許しもなくフロイドはドアを開けた。
    そして見た光景。主人であるジェイドは向かっていた机に伏せている。換気の為なのか開け放った窓からは気持ちの良い風が入り込み、ジェイドの柔らかな碧い髪を優しく掬っている。
    フロイドは茶器を慌ててテーブルに置きジェイドの顔を覗き見た。その顔は焦っているのか、必死である。

    「ジェイドサマ?」

    小声で呼びかけ、そしてジェイドの背が規則正しく上下しているのを見るや否やほっと息をつく。
    いくら世間に期待された秀才とはいえ、まだジェイドはあどけない7歳の少年。脳は使えば使うほど疲弊し、そして風の心地よさに眠りを誘発してしまったのだろう。
    フロイドはそんなジェイドの様子に「フフ」と小さく微笑ましく笑みを浮かべると、ソファにかけられたタオルケットを抱えジェイドの肩にかけてやる。

    「たまにはゆっくり休んでね、ジェイド」

    そう呟くとフロイドはジェイドの頭を優しく撫でた。慈しみを込めたその優しい手つきにジェイドはすり寄る様に頭を傾け、フロイドの手首を握った。

    「おかあさん…」

    フロイドはびくりと肩を震わせた。ジェイドの母はまだジェイドが物心つく前に天国へ行ってしまった。ジェイドはそんな母の顔を写真でしか覚えていない。しかしその手の温かさはなんとなく覚えているのだ。一筋、閉じられた瞼から涙が零れる。

    一瞬固まり首を巡らせるフロイド。床を見て、天井を見て、そしてジェイドを見ると、その小さな両腕でジェイドの頭を抱える様に抱きしめた。

    「大丈夫。大丈夫だよ、ジェイド。オレが隣にいてあげるから」

    そうやってしばらくジェイドの髪を優しく梳いていた。



    翌日。

    「なぜ起こしてくれなかったんですか」
    「ジェイドサマ、気持ちよさそうに寝てたから」

    ジェイドは勉強している最中に居眠りをしてしまった事は覚えていた。そこからの記憶は無いが、自然と目が醒めた頃にはすでに夕方になっていて、夕餉の時刻だと伝えられた。時間を無駄にしてしまった後悔につい目の前の世話役であるフロイドにあたってしまう。なぜならお茶を持ってくるように言って、目の前の彼は絶対に自分が居眠りをしてしまった事を知っているのだ。ジェイドが父の跡を継ぐ為に勉強をしている事も知っている。知っていてそれを見過ごした、という事実が許せなかったのだろう。

    「そんな指示は出してません。今度からきちんと起こしなさい。これは命令です」

    もう用はない、とばかりにフロイドの背を押して部屋の外へ追い出す。

    「オレ、ジェイドサマの世話役なのになぁ…」

    また「何故傍にいないのか」と咎められてしまう。フロイドはそう思ってなんとかあの口うるさいメイド長に見つからないように過ごす為に、裏庭にこっそりと出た。


    裏庭は人気がなくひっそりとしていた。庭師が毎日丹精込めて手入れしているのだろう。綺麗に切りそろえられた緑の生垣はまるで外の世界とこの屋敷の中を遮断する檻のように感じさせる。フロイドは体を動かすのは得意だ。木登りだって楽々と出来る。まぁそんな事をしたら咎められるので二度としないが。
    ふわふわの芝生の生えた地面に腰かけ外の世界に手を伸ばす。こんな背の低い生垣なんてフロイドの枷にもならない。行こうと思えばすぐにでも飛び出せる。
    ふと目の前を碧いチョウが通りすがり、まるでフロイドを挑発するように頭の上を一周旋回すると、軽々と生垣の外へと飛んでいった。

    それを見送ったフロイドは力を抜いてそのまま後ろに寝そべる。今日の天気は実に快晴だ。陽気な日の光で世界を明るく照らしている。

    「お前は自由でいいね。オレなんて足があったってどこにも行けやしないのにさぁ…」

    人造人間には脳にプログラムされた行動をするようチップが埋め込まれている。商品化するにあたり、感情を持たないそれらに自発的に行動をさせる為にはそういったチップが必要だった。当然フロイドの脳にもチップは埋め込まれている。しかし誰も知らない秘密がある。実はフロイドのチップは既に機能を果たしていない。




    今から3年前の事だ。まだ4歳のジェイドは今フロイドがいる裏庭で遊んでいた時に初めてフロイドと対面する。
    父親に連れられてきたフロイドは無機質な表情でジェイドをじっと見つめるのみだった。まだ幼いジェイドには人造人間がなんたるかを理解しておらず。ただただ新しい友達が出来たのかとそれは喜んだ。

    「なまえはなんていうの?」
    「…」
    「しゃべれないの?」

    自分に似た容姿の子供に興味津々で矢継ぎ早に質問を投げかけるジェイドに父親は苦笑いし、「コレは被検体1号っていうんだ」と言った。

    「ひけんたい1ごう?長くていいづらいね」

    ジェイドはうーんと腕を組み頭を捻る。

    「そうだ、キミのなまえは『フロイド』!そんなへんてこななまえよりずっと良いよ!」

    幼いジェイドはフロイドの両手を包み、満面の笑みを浮かべる。

    フロイドは初めてジェイドをきちんと見る。ずっと無表情だったフロイドの頬は徐々に血色が良くなったかのように頬に赤みが差し、瞳に光が宿る。

    「ふろいど…?」
    「そう。ぼくのなまえはジェイド」
    「じぇいど、ジェイド…」

    あの暗く狭い部屋から出た外の世界も、あの部屋と変わらず色のない世界だった。
    しかし名を与えられたフロイドの世界は一瞬にして色を持った。春の空気はこんなに花の匂いで溢れていたのか。日差しとはこんなに眩しいものだったのか。碧とはこんなに鮮やかな色だったのか。
    これを教えてくれたのは目の前にいる『ジェイド』という子供。

    そしてフロイドの脳に埋め込まれた「ジェイドの使用人として忠実に尽くす」というプログラムを入れたチップは機能しなくなった。どういう原理なのかはフロイドも知らない。ただ、それまで頭の中に響いていた命令が聞こえなくなったのだ。
    今のフロイドはただ自分の意思でジェイドの傍にいたい、彼を守りたい。その強い思いのみでプログラムに頼らずとも行動していた。本当はジェイドの言葉一つで一喜一憂してしまう。だから悟られてはいけないのだ。自分が感情を持ってしまった事を。自分が不良品である事を。





    ーーーーーー





    街は白銀の世界に包まれ、吐く息は白く立ち上っていく季節。
    街を歩く人々はコートを着込み鼻を赤くしている。

    そんな冬空の下、フロイドは執事と一緒に街を歩いていた。というのもただの買い物の手伝いである。

    「この荷物もお願いできますか、フロイド」
    「…」

    この執事もメイド長同様でフロイドに対し素っ気ないが、一応の礼儀はわきまえているようであった。しかし敬語で話つつも決して目を合わせようとしないので、大人の執事と子供のフロイドでは歩幅が違い度々重い荷物を持ったままフロイドが追いかける様に走る光景が見られた。

    明日のクリスマスパーティーに向けての菓子や食材の確保に駆り出された使用人たちは何もフロイド達だけではない。フロイド達の役割は菓子の購入である。いつもはひっそりと行われるクリスマスパーティーではあるが、明日は特別なのだ。なんといっても屋敷の主人でありジェイドの父が数年ぶりに屋敷へと戻ってくる。彼は学会やら出張やらでいつも屋敷を空けがちで、毎年クリスマスや誕生日にはプレゼントや手紙を送るのみで、明日のパーティーにはあのいつも澄ました顔のジェイドでさえ浮ついている。
    いつも以上に勉強を張り切っていた。
    そんな買い物をして最後の品を買う頃にはもう辺りは暗くなっていた。
    フロイドの服装は冬にしては軽装である。一応の上着はあるものの、やはり人造人間という立場上それほど上等な服を用意してもらっていない。きっと感情が無ければ寒さも感じないと思っているのだろう。荷物を持つ手は寒さに震え、頬も鼻も真っ赤だった。睫には降り積もった雪が乗り、瞬きをするたびにハラハラと地面に落ちる。雪の上を走りすぎる子供たちはそんなフロイドをじろじろと見、興味をなくしたようにそれぞれの家路につく。
    無口な執事はそんなフロイドを見ると、フロイドの抱えていた荷物を取り上げた。

    「あ」
    「10分だけあげましょう。今日お手伝いいただいた報酬です。内緒ですよ」

    執事は手袋をした手でフロイドの小さな冷たくなった手を包み込んだ。ふわりと優しい暖かさで手だけでなくフロイドの心も温まる。執事が手を離すとフロイドの手にはコインが一枚。
    フロイドはそのコインを見た後、じっと執事を見上げる。彼はにこりともしないで、目線だけであの店に行きなさいと促す。

    「あ、ありがとう、ございます」

    フロイドは制限時間があった事を思いだし急いでカラフルな装飾で飾られた店に向かって走っていった。
    勢いよく扉を開けるとカランカランと大きくベルが鳴り、店の主人である婦人の明るい「いらっしゃい」という声が聞こえる。

    「10分しかない…何買えばいいんだろ?」

    焦りつつ、握りしめたコインを見る。せいぜいキャンディを一つか二つ帰る程度の価値しかない。じっくり選んでいる暇はないと速足でキョロキョロと見回していると、いぶかしんだ店員がフロイドに声をかけた。

    「おぼっちゃん、何か探してるのかい?」

    声をかけられて見た婦人の顔は決して優し気でなく、怪しい子供をみる目つきだった。真冬だというのにコートも羽織らず、どこぞの貧乏な家の子供だと思われたのかもしれない。
    フロイドは俯き、手に握ったコインを婦人に見せる。もしここで万引きだなんて思われて時間が過ぎてはかなわない。

    「あの、これで買えるお菓子を探してて」
    「銅貨一枚かい?そのくらい安いものならあそこの棚のキャンディくらいかねぇ」

    婦人が指さした方向を見ると、瓶に詰められた色とりどりのキャンディびっしりと並んでいた。

    「キャンディふたつなら、それで買えるよ」

    フロイドは瓶に駆け寄り色とりどりのキャンディを見つめる。食べた事がないのだからどれが美味しいかなんて分からない。いっそ選んでもらった方が…そう思った時である。

    一番端に置かれた黄色いキャンディが目にはいる。透明な袋にリボンのように包まれたソレを見た時に、これだ、と確信する。

    「あの、これちょうだい!ふたつ!」

    それをむんずと掴んで夫人にコインと一緒に差し出した。



    フロイドは上機嫌で廊下を走っていた。途中メイド長に歩きなさいと叱られたが無視をした。
    ポケットには今日買ったキャンディが二つ入っている。窓の装飾をする使用人たちの間を避けながら目的の場所へ向かう。その瞳は輝いていた。


    コンコンとドアを叩き、返事が来るまでかじかむ手を握ったり開いたりして血流を良くし、お行儀よく背筋を正して待つ。数秒後に「どうぞ」と返事があり、ドアを勢いよく開けた。

    「ジェイドサマ!」
    「なんですか、あなた確か執事と買いものに行っていたのでは?」

    その目には冷たい光が宿っている。ジェイドがフロイドを邪険にするなんていつもの事だ。慣れてはいるが心までが慣れているわけではない。しかしそんな表情をおくびにも出さず、フロイドはポケットに入ったキャンディをひとつ取り出した。

    「あの、これ…ジェイドサマにあげようと思って」

    手を差し出して無邪気に笑う。頬も鼻の頭も赤いままだ。よく見れば髪も雪にまみれたのか少し濡れている。
    あの店で買った黄色い一口サイズのキャンディは、幼い子供の手でも小さく見える。ジェイドはその差し出された手をじっと何を考えているのか分からない目で見ていた。

    「僕はキャンディが欲しいなんて命令してませんが」

    そんな言葉を投げつけられる。一瞬フロイドは目を見開くが、しかしそんな表情を隠すように下を向き差し出した手をおずおずと握り締め、自分の体の横にだらりと降ろした。

    「出過ぎた真似をしました。忘れて下さい」

    フロイドは努めて平静を保つようににこりと笑った。さきほどの興奮に頬を赤くしていたのが嘘のようにまるで作り物めいた笑みに変わる。
    フロイドはヒトじゃない。プログラムされた事しかしてはいけない。まるでアンドロイドだ。ジェイドに求められているのはいらぬお節介をする感情を持ったフロイドではなく、言われた事のみを遂行する感情のないフロイドなのだと思い知る。出会ってから3年たってようやく理解した。今のフロイドは誰にも求められてはいない。

    フロイドはキャンディをそっと机に置くと、静かに部屋から出て行った。ドアを閉める直前、ジェイドが何かを言った気がしたが、顔を見る気にはなれなかった。




    ーーーーーーーーー





    ジェイドは差し出されたキャンディを見つめた。昔からフロイドという名の人造人間はおかしな挙動が目立っていた。命令もしていないのにこうやってキャンディを渡そうとする。あんなにキラキラした瞳で。ある日は裏庭の陽だまりで楽しそうにくるくると踊っていた。木に登って庭師に怒られて、頭に葉っぱを付けた状態でジェイドの元へやってくることもあった。出会ったばかりの頃はフロイドと名をつけそれこそ兄弟や親友のように接していた。しかしそんなジェイドの考えを変える出来事が起こる。それは些細な事だった。
    ある日ジェイドの従兄弟が屋敷に遊びに来た事があった。とても横暴なその従兄弟の事がジェイドは好きではなかった。人の家にずかずかと上がり込み、お茶を要求する。ジェイドの使用人たちはこぞってその横暴な従兄弟の言いなりになってちやほやしていた。それが気に入らなくてずっと無視をしていると、従兄弟達の興味はジェイドの傍に控えていたフロイドへと向いた。

    『へぇ、お前が例の人造人間ってやつ?もうちょっと近くに寄れよ』

    フロイドはジェイドを見て指示を仰ぐがジェイドは首を横に振る。しかしそんなジェイドの意思を無視するかのように従兄弟はフロイドの手を強く引き、顔を無理やり自分の方へ仰向かせる。

    『ジェイドのクローンって聞いたけど、あいつよりずっとかわいげのある顔してるじゃないか』

    にやりといやらしい顔をする従兄弟に堪忍袋の緒が切れたジェイドは従兄弟に殴りかかると『フロイドはぼくのだ!』と叫びポコポコと腕を叩いた。そんなジェイドの暴挙をいの一番に止めたのがフロイドであったのでこれがまだジェイドのイライラを増長させてしまい、自分のいう事を聞かないフロイドなんて、と子供心にフロイドにあたってしまった。
    幼いジェイドにはそんな自分の独占欲が理解できなくて、自分だけの友達じゃなくなってしまう危機感と、人造人間には感情が無いのだと知った時に裏切られた気持ちになったのだ。フロイドが自分に見せた笑顔も何もかもが脳のチップに埋め込まれたプログラムがそうさせているのだと。そう思って。
    だからといってそんなフロイドに辛く当たるのは間違っていると心の隅では理解していても、そんなジェイドの気持ちさえもフロイドは理解していないのだろうなと考えると心が段々と冷えていった。しかしどうだろう。ジェイドや他の者が近くにいない時のフロイドと行ったらまるで本当の子供のように無邪気に振る舞う。

    ジェイドは机に置かれたキャンディの包みを剥がすと口に放り込んだ。
    食べた事のない味だ。まるで子供が好むような砂糖をふんだんに使った、しかしほんのり口の中に広がるレモンのような味。去り際のフロイドの頬が濡れていたような気がして、しかし感情がないのだから気のせいだと思い込もうとする。

    「甘い…けどおいしい…」

    机にうつ伏せになって味わいながらジェイドは呟いた。





    翌日、使用人やジェイドの父が集うこの場にフロイドは現れなかった。あたりをキョロキョロと見回しながら歩いていると父に声を掛けられ突然抱き上げられる。

    「と、父さん!」

    ジェイドは子供とはいえもう8歳近くになる。そんな自分を軽々と抱き上げる父に恥ずかしさから叫ぶと、父はにこりと笑い「重くなったなぁ、ジェイド」と頬にキスを送る。ジェイドの頬は真っ赤になった。

    「勉強の方だどうだ?聞いたぞ、エレメンタリースクールの成績が一番なんだって?」
    「はい。父さんの跡を継げるように今から頑張ってて…」
    「はは、誇らしい事だな」

    そう言うとジェイドの父はその大きな手でジェイドの小さな頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。久しぶりに感じる温もりのある大きな手にジェイドは目を細めた。父はそんなジェイドを慈しみの眼差しで見つめると「そういえば」と話を切り出した。

    「被検体1号…フロイドはどうだ?ちゃんとお前の役に立っているか?」
    「フロイドですか?」

    ジェイドはフロイドの名が出ると表情が曇った。

    「フロイドは一所懸命してくれているようなのですが、その、なんというか命令していない事までやろうとしているみたいで…」

    そんなジェイドの呟きにニコリとしていた父はうっすら目を開いてジェイドを見る。しかし喋る事に夢中になっているジェイドは気づく事無く話し続けた。

    「ある日は泥だらけになって戻ってきたかと思うと裏庭に咲く花を勝手に僕の部屋に飾ったり、自分が作ったんだという歪な形のお菓子を紅茶と一緒に持ってきたり、僕の勉強している姿をずっと横で見てにこにこしていたり、昨日はキャンディを…」

    ジェイドは戸惑いつつも、しかし思い出してふふと笑ってしまった。思い返せば本当にお節介な人造人間だなと思った。あの時は冷たくあしらってしまったが、ほんのりと期待してしまっている自分に気づく。
    フロイドにも心があるのではないかと。

    「いつもありがとうと言う前に命令していない、だなんて突き返してしまって…ちゃんとありがとうと言うべきなのに、主人として失格です…」

    フロイドと会ったら今度こそありがとうと言ってみよう。そうしたらどんな反応を返してくれるかとほんの少し期待してしまう。

    「そうか…被検体1号はそんな行動をしているんだね」

    ひどく優し気な父の声にジェイドは父の顔を見る。何の違和感もない普通の表情だった。
    だからつい言ってしまう。大好きな尊敬する父に。

    「フロイドにも心があったらいいのに」

    そんなタイミングでケーキが運ばれて来て、使用人もジェイドも父もはしゃぐ中、その日は終ぞフロイドの姿を見る事は叶わなかった。






    ーーーーーーーーー





    朝、ジェイドは聞きなれない声を聞き目を醒ます。

    「おはようございます。ジェイド様」

    そこにいたのはいつも決まった時間に起こしに来るフロイドではなく、執事の一人だった。ベッド脇のサイドテーブルには湯気の立った暖かいミルクティーが淹れられていて、ジェイドが体を起こすとそれを渡される。
    アッサムの濃い茶葉に濃厚なミルクの入ったミルクティー。一口飲んで甘くない、と口をへの字にする。フロイドならいつもお腹が空いているだろうからと頼んでもいないのに隠し味にはちみつを入れてくれるのに、と思ったが、彼はフロイドではないのだ。仕方がない。

    「おはようございます。あの、ところでフロイドはどうしたのですか?いつも起こしにきてくれるのは彼の役目なのに…」
    「…あの人造人間はお役御免となったので、私がこれからはジェイド様のお世話係となります」
    「お役御免って…なぜですか?僕はそんな事聞いてない!」
    「それは…」

    新しくジェイドの世話係となった男は口をつぐんだまま目を逸らしジェイドの静止の声を声を振り切り部屋を退室してしまった。
    なぜ、どうして。お役御免とはなんだ。焦りからかジェイドは着替えるのも忘れて部屋を飛び出すと、裸足のまま廊下を走り回る。大広間に行くと寝間着のままのジェイドを咎めるように使用人達がジェイドに声をかけるが「フロイドは?」と聞くと誰もが口を噤む。埒が明かないとまた走り出して厨房にも顔を出し、玄関にも顔をだし、そして最後に父の部屋へと向かう。ドアをノックする事も忘れて勢いのままドアを激しく開けると既に着替えを済ませソファに腰かけ優雅に紅茶を飲んでいる父に詰め寄る。

    「どうしたジェイド。寝起きそのままに来たような恰好で…」
    「父さん、フロイドはどこですか」
    「あぁ、被検体1号かい?アレは廃棄処分したよ」

    「え…」

    廃棄処分とはなんだろうと脳内で考える。廃棄、捨てる。処分とは…

    「フロイドは不良品。失敗作なんだ。そんなものをずっと使い続けるのはおかしい。違うかい?」
    「不良品…フロイドが?なぜ?何もおかしな部分なんてない…!だって、だって…っ」

    フロイドはいつもジェイドに暖かい笑顔をくれた。いつも命令もしていないのに余計な事をして、ジェイドに寄り添ってくれて、キャンディーだってジェイドの瞳に似た色をわざわざ選んであの冷たく冷えた手で差し出してくれた。まるでジェイドの事を本当に思っているかのように…
    そしてはっと気づく。

    「アレは感情を、心を持っている。命令なんてなくても自分の意思で行動出来てしまう。今は子供の姿をしているがとても危険な存在だよ。生かしてはおけない」

    仕方のない事なのだと父は立ったまま涙を流すジェイドの顔を覗き込むようにしゃがむと、その小さな身体を抱きしめる。

    ジェイドとて理解している。毎日勉強していたのだ。父の跡を継ぐために。人造人間に感情はいらない。感情がある事によっておこるリスクは人間が想像するよりはるかに高く危険だ。
    仕方のない事なのだ。ジェイドは賢すぎる脳で本当の気持ちを書き換えてしまえる子供だった。


    でも、ちゃんとキャンディをありがとうと言いたかった。美味しかったよ、と伝えたかった。


    脳で理解したからと言って感情が納得するはずもなく、その日一日ジェイドは赤ん坊の時以来、初めてわんわんと泣いた。




    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤💖❤❤💙💙💙💙❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ぽんじろう

    SPOILER今年のハロウィンイベント感想
    イベント感想とくかくレイバッパで全部持ってかれた。

    まず🦊さんと🐈くんについて。
    やろうとしてた事は犯罪だけど、どこか憎めないキャラだなぁって。ポケモンのロケット弾に通ずるなんかがある。目的の為ならなんだってする卑怯さはあるのに一貫して🐈くんを庇ったり庇護するような感じしてるし、🐈くんも善悪とかはきっと分かっているけど、🦊さんの為なら関係ないって感じがしてすげぇコンビだなって思った。NRC生捕まえたのにボスに酷い事言われた🦊さんに「お金の為に我慢しなよ」じゃなくて「そんな上司見限っちゃえ」って言うの、ちゃんと自分の意志で🦊さんに付いていってるんだなっていうね。
    その後のレイバッパリズミックがすごく好きで、悪ガキどものなんて活き活きしてること😂前回のシリアス気味で終わったハロウィンイベントと真逆で、これほどにはっちゃけたある意味ハッピーエンドっぽいの、メンツ的に真面目くんほとんどいないからそりゃそうなるよね。あの善良の塊であるカリムくんですら遊園地を遠慮なく破壊して…学園には夜中に帰る事になるんだろうけどバレずにすんだのか気になる。そもそも学校サボった時点で帰ったらお叱り案件だろうけど。
    2259

    recommended works