Love is blind.「恵、知ってる?ホワイトデーって日本だけのイベントなんだよ?お菓子会社が考えた戦略なの」
五条先生から興味の無い話題を振られて、
俺は仕方なく読んでいた本から顔を上げた。
「…それが何か?」
「でも僕はバレンタインを恵から貰ったから、ホワイトデーにはお返しをする義務があると思うんだよね」
「別にいらないです」
「即答!?」
一ヶ月前…俺はバレンタインの日、
先生に缶コーヒーを渡した。
缶コーヒーだ。
プレゼントではない。
どちらかと言えば差し入れだ。
「お返しを貰う程の物じゃありません」
「僕が渡したいの!恵からバレンタインを貰ったんだよ?まだ部屋に飾ってあるから!」
「…」
ガラスのショーケースに入った缶コーヒーを指差しながら、
五条先生がギャーギャーと騒ぐ。
【頭がおかしい】とは先生のような人だろう。
…飲めよ。
「あ、恵!そろそろ時間だ」
「時間?」
「レストランの予約の時間」
「は?」
「だから、今日の夕飯は高級中華だよ?バレンタインのお返し!」
「え?」
もう最初から決まってんじゃねーか。
俺はため息を吐きながら、本を閉じた。
◾️◾️◾️◾️◾️
着いた先は本当に高級そうな中華レストラン。
スーツを着た店員が扉を開けて待っているような店。
そして先生はそんな店が似合う。
案内された席は個室。
座り心地の良い椅子に腰をかけて、
メニューを見る五条先生…。
悔しいが様になっている。
「恵、注文するもの決まった?」
「とりあえずフカヒレの姿煮で」
「相変わらず遠慮が無い所、好きだよ」
「後は5、6品…値段が高い順で下さい」
「いいね〜!気持ち良いくらいだよ!」
ゲラゲラと笑う先生を見て、
『このくらい、はした金だろう』と思う。
この人は最強だ。だから任務の量も多い。
故に稼いでいる金額も桁違い。
そりゃあ、有り難く奢られるのも当たり前。
それに、先生って俺が遠慮なく食べていると
機嫌が良いんだよな…。
「恵〜乾杯!」
「先生って…俺が飯食う姿、好きなんですか?」
「ん?」
何のお祝いなのか…
烏龍茶で乾杯したタイミングで何となく聞くと、
先生は目を丸くした後…ニヤリと笑った。
「好きだね、僕に奢られている恵はすごく」
「…何でですか?」
「そりゃあ…」
と、先生が言葉を区切ったタイミングで、
フカヒレの姿煮がテーブルに運ばれてきた。
「僕が与えた物を食べて恵が成長するんだよ?僕が恵を作ってるの。考えただけでもゾクゾクする」
続けて言われたその言葉に、思わず絶句。
「はい、恵…ちゃんと食べてね」
にっこり笑う先生と、トロリと餡のかかった
フカヒレを交互に見ながら、
『俺はとんでもない人に捕まったな…』
心の中で呟いた。
終