『青は藍より出でて藍より青し』(行くんとヤノさん) 初めて彼をその場所で見たのは、春の風が桜の花びらを運ぶ季節だった。
新学期が始まり、まだ糊の効いた制服の初々しい新入生達が端々で談笑し合う教室を通り過ぎ、特別教室棟の三階の廊下。
ひと気の無い長い廊下は自分の靴音がやけに響く。前の授業で使った教材を抱え一人で歩いていると目指す教室が途方も無く遠く、知らない場所に迷い込んだ気持ちさえする。
換気の為に開けてある窓から入り込んで来たのか、薄紅色の破片が歩を進める先々にぽつり、ぽつりと灯火の様に落ちていた。
ここの清掃当番のクラスは何処だったか、と考える頭の端で、まあこれも風情があって良いか、とも思う。
ひらひらと床を這う花弁は踊っている様だ。
何処から来たものだろう。
7258